5
馬貴が振り下ろす鞭を避け、神通が光を放つ。
心が読めるもの同士の戦いはある意味不毛なものだった。
体力だけが消耗され、二人は肩で大きく息をする。
(おかしい、やっぱり妙な感じだ。なんだ?)
神通、いや駿輔の顔が馬貴の集中力を乱す。
それを餓鬼はいいチャンスだと思い、光を連打で放つ。
(くる!)
(やはり読まれるか)
光を受けた馬貴に物理的攻撃を仕掛けようとした神通は舌打ちする。
そしてくるりと宙で回転し、とんと少し離れたところに降り立った。
「馬貴よ。お前らしくないな」
「そうだね。僕もそう思う。あなたの顔を気にかかるんだけど、なぜかわかる?」
「悪いがわしには心当たりがない」
神通が再び光の弾を放ち、不毛な戦いが再開した。
「あたいはあんたみたいな一途な奴が大嫌いなんだよ!」
欲食はそういい、襲い掛かる。しかし、その攻撃を清吉が真っ向から受け止める。
「俺もあんたみたいなふしだら女は嫌いだ!」
「ふん。あんたの大好きなおかみさんも、あたいと同類だろう?」
「うるさい!」
清吉は苛立ち混じりに叫ぶと、欲食に足蹴りを見舞った。
「ふん!」
欲食は体を捻り、清吉のけりを避ける。そして上空に高く上がり光の弾を放った。
「これでも喰らいな!」
「!」
清吉はぎりぎりで欲食から放たれ光の弾をはじくと、間髪いれずお返しをばかり光を投げつける。
しかし、それは彼女により地上に弾き返された。
それは轟音を立てて地面に突き刺さる。
空高くで戦う二人の姿は闇にまぎれて地上から見えないものだった。攻撃に使われる光の弾は稲妻のようで、人々は雨も降っていないのにと首をかしげていた。
(ここまでくればいいか)
さすがに街中で戦うのはまずいと、大は人のいない場所を目指し、走った。花埜はその後をひたひたと追ってきていた。そして、町はずれの山に辿りつき、大は足を止める。
(馬貴さんはどこにるんだ?確か気配みたいのは探れるんだよな。そのうち、きてくれるはずだ)
「ころす」
花埜はたどたどしい言葉使いでそう言うと、大に向かって飛んだ。
「あぶね!」
猫の霊でもとりついているのか、花埜の指の爪が急に伸び、さっきまで大がいた場所にあった、木が削られる。
「そんなのありかよ!」
霊によって体が変化するなど、予想外だった。
しかし、大に構うことなく、花埜の攻撃は続いた。
「大ちゃん?花埜ちゃん?」
大に呼ばれたような気がして、馬貴は動きを止める。
「余裕だな」
神通はそんな馬貴に渾身の拳を放つが、その直前で地獄の番人は体を捻った。
「面白いことになっているな。獣も考えたものだ」
神通はその力で大と花埜の様子が見えるらしい、そうつぶやき、笑う。
「全然面白くない!僕はいかないといけないみたいだね!」
馬貴は神通のように二人の様子を見ることはできなかったが、その思考から大がピンチに陥ってることがわかる。
「神通、戦いは後でね!」
逃げるがかちとばかり、馬貴は空に飛び上がる。
「逃がすものか!」
止めようと動くが、予想以上に馬貴がすばやく神通の前を擦り抜け、大達の方角へと姿を消した。
「くそっ」
神通は取り逃がしたことを悔やんだが、その後を追った。
「馬貴?」
清吉が馬貴が猛スピードで通り過ぎるのを見て、嫌な予感を覚える。
「神通!?」
そして後を追う神通を見て、清吉は二人の後を追う。勿論欲食も黙って見ているわけがない。舌打ちをするとその後に続いた。
「馬貴さん!」
空から降りてくる馬貴を見て、大は安堵の声を上げる。花埜の爪にやられ、腕に数箇所擦り傷ができ、服はかなりずたずたになっていた。
「うわあ。派手にやられてるね。いやいや、花埜ちゃん、猫娘?」
馬貴はのんきにそうぼやいたが追ってきた神通の気配を感じ、顔を引き締める。
「獣よ。よく考えたな」
神通は地面に降り立つと、花埜に笑いかける。
「じんつう。おれ、ころす。あいつをころす」
「そうだな。わしが馬貴の相手をする。お前は存分にその少年を痛めつけるといいぞ」
「そんなこと、させない!」
馬貴はそう答えると鞭を出現させる。
「ははは、面白いことになってるねぇ」
緊張感を破る声がして、神通に対峙する大と馬貴の前に欲食が高笑いしながら降り立った。
「清吉……!」
それとほぼ同時に清吉が馬貴の側に降りてきて、大は驚きと怒りで声を上げる。
「大ちゃん。心配しないで。清吉は味方だから」
「味方?!どうしてですか?」
「理由はあとで。とりあえず、今の状況を打開することが先だから」
「……そうですね」
大は不服に思いながらも、獣に取り付かれた花埜を元に戻すことが先だと考えて、欲食に向き直った。