表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非日常のはじまり  作者: ありま氷炎
第5章 救われるもの
29/54

2

「そうですか。なるほど」


 一時間後、リビングルームは和やかな雰囲気に包まれていた。

 心が読める馬貴は花埜の両親の警戒心をすっかり奪っていた。それどころ、なぜか大は引き続き家に泊まることになっている。


「本当助かります。寮も打撃を受けていて、田倉くんは田舎から出てきているものだから、どうしようかと思っていたんですよ」

「いえいえ、男の子が家にいるもの楽しそうです。田倉くん、君は将棋とか興味ある?」

「……はい」


 馬貴の話術にはまり、すっかり大の同居を認めた花埜の父がにこやかに笑いかけ、大は少し照れながら、頷く。


「花埜。田倉くんのこと話したことなかったわよね」


 同じくすっかり馬貴を信用している母は娘に笑いかける。


「今年初めて同じクラスになったから」


 花埜は淡々とそう答えると、お茶をすすった。

 母はそんな娘の様子に慣れているのか、そうと答えると同じようのお茶を飲む。


「じゃ、私はこれで。学校に戻らないといけないので」

「ば、馬場先生?!」


 大はこの状況で馬貴だけが逃げるのかと、抗議を込めて名を呼んだ。


「八島さん、すみませんが田倉くんのことしばらくよろしくお願いします。寮の方から彼の服などは持ってきますので」

「大丈夫ですよ。私の服でよければ田倉くんに貸しますから。困ったときはお互い様ですから」


 花埜の父はそういいながら、立ち去ろうとする馬貴に習い、腰を上げる。


「色々ありがとうございます。学校と寮再開のめどは明日には立つと思いますので、ご自宅に連絡しますね」


 玄関口で馬貴は教師らしい台詞をはくと、がらがらと扉を開け出て行った。


(これからどうするつもりなんだ?)


 大はパタンと閉められた玄関の扉を見つめながら、問いかけた。



 雨が上がり、夕日が雲の隙間から眩しい光を放っている。

 馬貴は眩しく思いながら、目を細め、学校に向かって歩いていた。


 ふいにとんと軽い音がして、目の前に男が立つ。

 

 それは大同様、スポーツ刈りの少年で、つりあがった目をこちらに向けていた。


「お前は確か地獄の番人だったな」

「……そうだけど。何か御用?」


 馬貴は微笑みながら少年に視線を返す。

 少年は大の野球部の先輩の吉谷、そして清吉だった。


「あの世に連れて行って欲しい」

「もちろん。それが僕の仕事だからね」

「それでは、今すぐ頼めるか」

「……だめだね」

「駄目?どういう意味だ?」

「あなたに頼みたいことがあるんだ。あなたをあの世に連れて行くのは神通と欲食を捕まえてからだ。僕一人ではあの子たちを守ってやれないかもしれない。あなたの力が借りたいんだけど」


 清吉は思わぬことを言われ、口をつぐむ。

 絹の姿をした少女に会い、懺悔された。同じ顔をしているが別人のようだった。嫌、別人だと清吉は思った。

 絹にされたことは許せない。しかし、自分を庇った少女の姿、その言葉を見聞きし、清吉の怒り、恨みは薄れた。こうしてこの世に留まる必要はないと結論を出したのだ。


「清吉、どうする?僕はあなたの力が必要だ」

「……わかった」

「よっし、いい子だね。じゃ、よろしくね」


 馬貴は笑うと、くしゃっと清吉の頭を撫でる。


「触るな」

「ははは。あなたも花埜ちゃん同様、おもしろい子だね」


 怒りを露にする清吉に対し、馬貴はけらけらと笑う。しかし、ふと笑いを止めると、清吉に向き直った。


「僕は神通と欲食の行方を捜すつもりだから。あなたにはその間二人の警護を頼みたい。できる?」

「ああ」

「じゃ、よろしくね」


 ぽんぽんと清吉の肩を軽く叩くと、馬貴は飛び上がる。そして夕方のオレンジ色の空の中、姿を消した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ