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非日常のはじまり  作者: ありま氷炎
第4章 犯した罪の大きさは……
27/54

7

「君、君!」


 ぺちん、ぺちんと頬を叩かれ、大は目を覚ます。そこはどこかの教室だった。目の前の学生は見たことがない生徒だ。しかし、制服のバッチから三年生であることがわかる。


「えっと、俺?」

「よかった、気がついた。みんな学校から避難してるよ。君も早く!」


 この学生は他の生徒が避難する中、倒れている大に気がついて呼びかけたらしい。教室内は嵐が来たかのようにめちゃくちゃで、何枚もの窓ガラスが割れて床には破片が散らばっていた。しかし生徒達の姿はなく、教室には大と、この男子生徒だけだった。


「あ、ありがとうございます」


 大は体を起こしながら、今の状況を理解しようとする。最後の記憶は柚美――欲食にキスをされたものだった。


(俺ってなんで、拒めなかったんだ。海山先輩の顔見てたら、変な気持になって……)


 大は自分の行動に嫌気を覚えたが、教室に荒れ具合などから、今はそれどころじゃないことはわかっていた。


(とりあえず、馬貴さんと八島を探そう!)


「あ、君!」


 大は先輩が呼びとめるのも聞かず、立ち上がると廊下に駆けだした。




 光が四散に拡散し、光を失った花埜の体が膝をついて、倒れる。


「……ごめんなさい」


 花埜は自分を呆然と見つめる清吉を見つめ、そう言葉に出した。

 話すことが怖いのは、自分の言葉が清吉を断罪に追いやったからだと今、わかる。


「私はここで消える。私は生まれ変わるべきじゃなかった。消えるべき魂だった。清吉さん、あなたは生まれ変わって。あたなはとてもいい人だから。今度はいい人生を送れるように」


 花埜はそう言うと、体に鞭を打って立ち上がる。


「新邑先輩、神通さん。清吉さんは助けて。私の魂を変わりに消してもいいから」

「……美しい贖罪だな。だが無理な相談だ。清吉の魂は消す。お前は精気を奪ってからだ」


 神通はそう言うと、光の弾を再度放つ。


「!!」


 弾は花埜を襲い、その体は校舎に激突する。


「……うっ、清吉さん、ごめんなさい。逃げて」


 動かない体を必死に起こし、清吉に呼びかける。


「私は死ぬべき、消滅すべき魂。でもあなたは、違う。あの世に行って、新しい人生を歩んで」

「……おかみさん」


 清吉は壁から体を起こし、恐る恐る花埜に近づく。そしてその手を掴んだ。温もりが伝わり、清吉の暗い心に明かりと灯す。


「清吉さん、逃げて。お願い」


 少女は清吉の行動に驚きながらも、神通が近づくのを見てそう声を掛ける。


「……おかみさん」


 しかし、清吉は逃げようとせず、その場にしゃがみこみ、花埜を見つめていた。




「くうう!」


 欲食は完全に押されていた。光の弾がことごとく破壊され、その鞭は欲食の体を打ち付け、体には擦り傷、制服はボロボロになっていた。


「馬貴さん!」


 そう声がして欲食は顔を上げる。馬貴の背後に自分が精気を奪った相手、大がいるのがわかり、顔を曇らせる。

 ただでさえ、不利な状況なのに、力を持つ少年が加わり、完全に敗北したことを悟った。


「大ちゃん、縄を持ってる?袋は花埜ちゃんが持ってるはずだから。とりあえず欲食を捕獲する」

「はい」


 大は頷くと、縄を取り出し、構える。


「神通……!」


 欲食は目を閉じ、心の底から愛しい相棒を呼ぶ。

 地獄に戻りたくなかった。明るい場所で光を感じ、生きている匂いを感じていたかった。

 

「!」


 ふいに黒い風が吹き、欲食の体を包むと空に運ぶ。それはカラスの大群で、宙で浮かぶ一人の少年は、舞い上がった欲食の体を受け止めた。


「神通!」


 欲食は神通が助けに来てくれたことに驚きながらも、その体にしがみついた。

 少年は少女を抱いたまま、数十羽のカラスを従え、馬貴と大に冷たい視線を投げかける。


「神通……」


 馬貴は少年を見上げ、つぶやく。大はいつもと異なる馬貴の様子に少し驚きながらも同様に頭上を仰ぐ。

 

 しかし少年はそれ以上行動を起こすことはなく、身を翻すとカラスの大群と共に黒雲が立ち込める空に消えた。



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