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非日常のはじまり  作者: ありま氷炎
第4章 犯した罪の大きさは……
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5

「なんだ、あれ!!」


 馬貴と共に教室を出て、校舎を足早に歩いていると、何やら黒い塊が空を飛んでいるのが見えた。目を凝らすとそれがカラスの大群であるのがわかる。襲われた生徒達は血を流しながら、建物内に逃げ込んでいる。


「性質が悪いもの、起こしちゃったみたいだね」 


 馬貴はそう言うと、そのカラスに向かって走った。


「馬貴さん!」


 大は事情を飲み込めないが、その後を追う。



「大丈夫?」


 カラスに光の鞭を振り下ろし、蹴散らしながら、馬貴は逃げ遅れた生徒達を抱き起こす。それに倣い、大も同様に血を流す生徒を抱きかけると建物内に運んだ。しかし、カラス達は執拗に追いかけ、校舎の中にも入り込む。


「窓しめて!」


 教室に逃げ込み、比較的元気な生徒にそう声をかけ、大と馬貴は扉と窓を閉める。しかし、カラス達は窓の外から、廊下から攻撃と続けた。

 窓の外を見ると、まだ数人の生徒が外にいるのがわかる。


「大ちゃん、僕は外に行くから。あなたはここで彼らを見てて!」

「俺も行きます。俺にだって力があるんだから!」

「だめ。あなたはここに残って、みんなを守って」

「馬貴さん!」

「わかったね。これは僕ら地獄の番人の後始末でもあるから!」


 馬貴は大にそう言うと、扉を開けた。すぐにカラスが飛んできて、馬貴は扉を閉める。

 ばしっつ、ばしっと鞭を振るう音がして、遠ざかる足音が聞こえた。


「……今の白馬だよね。なんか、別人みたいにかっこいいけど……」


 学校一人気のない馬場の行動に、生徒がそうつぶやく。他の生徒も同様のことを思ったらしく、頷いていた。

 


 

 キスをされたのは現世では初めてだった。しかし、その感覚は過去の自分の記憶をも蘇らせる。

 喜之助に溺れ、清吉を陥れた卑しい過去。


「おかみさん」 


 そう囁かれて、花埜は目を開ける。するとそこにいたのは清吉だった。

 銀杏髷の、あの頃の清吉の姿に疑問をもつが、その優しい笑顔に安堵してどうもよくなる。

 その笑顔は花埜に許しを与えるようものだった。


「おかみさん」


 清吉は笑顔のまま、少女の唇を奪う。ついばむようなキスは徐々に深いものになり、花埜の感覚を失わせる。


『清吉さん……』


「おかみさん!」


 そうはっきり声が聞こえ、ぐいっと腕を引っ張られる。腕を掴んだのは制服を着た吉谷姿の清吉で、花埜は目を瞬かせキスを交わした相手を見る。すると男の姿は銀杏髷の着物姿の清吉から、駿輔のものに変わった。


「清吉か」


 美しい少年は呆れたような声を出し、ちろりと真っ赤な下で唇を舐めた。


(清吉さん?)


 花埜はまだ夢を見ているような意識の中で、清吉に顔を向ける。


「……あんたを助けたつもりはないから。俺があんたを殺すんだ」


 その表情に少女は我に返る。

 それは、先ほどキスを交わした時のような優しさは微塵も感じられない、冷たいもので、花埜は目が完全に醒めるのがわかった。


(そう、彼が私を許すわけがない。あんな優しい顔、二度と見ることはないんだから)


「神通。約束違反だ。この女は俺が殺す」


 自分の罪を再認識し、震える花埜の腕を放し、清吉は少年――神通を睨みつける。


「……殺せぬくせによく言うな。お前は所詮その女を好いているのだ。だから殺せない」

「うるさい。お前には関係ない!」


 清吉はそう叫ぶと神通に飛び掛った。



「お願い入れて!」


 そう声がして、大は扉を開けた。しかし、そこにいたのは柚美で大は扉を閉めようと試みる。


「遅いよ。もう」


 柚美は妖艶に笑うと、扉に手をかける大にその手を重ねた。


「あの続きしてあげようか?」


 そう囁いたつぶやきは、大に心を震わせる。それと同時に大量のカラスが教室になだれ込んだ。




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