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「神通。清吉はまた失敗したようだよ」
欲食は髪を掻き揚げながら、神通に笑いかける。
二人がいるのは視聴覚室だ。カーテンが閉められ、邪魔をするものはいない。
「おかげで、殺し損ねたよ。あの可愛い子をさああ。あんたが足止めしなきゃあたいも危なかったかもね」
欲食は机の上に乗り、足を組む。そしてぺろりと唇を舌で舐め、神通に流し目を送る。
「そうだな」
しかし、誘いに乗るような神通ではなく、冷たい視線を欲食に送り腕を組む。それから目を閉じ、壁に寄りかかった。
「何か考えがありそうだね。清吉は使い物にならないからねぇ。これからどうするんだい?」
「……別の霊を使う。今度こそ、しっかりと働いてもらうつもりだ」
「ならいいんだけど。それより神通、あたいと少しは楽しまないかい。精気を分けてやるよ」
「……そんな時間はない。奴らを片付けるのが先だ」
冷たい相棒の言葉に欲食が肩をすくめる。しかし、神通がやる気がないのだからしょうがないとぽんと机から飛び降りた。
「じゃ、はじめようじゃないか。今度はどんな奴だい?」
「獣を使う。この場所にはいろんな獣の怨念がいるからな」
「八島がおかみさん?」
「そう。魂は同じだ。でも地獄できちんと罪をきちんと償い、浄化されてるはずなんだけどね」
「浄化?」
「そう。地獄で罰を受けた亡者は審判を受ける。罪を償ったと判断された亡者は浄化され、転生する。もちろん、記憶などすべてを消去するけどね」
「じゃ、なんで八島は記憶があるんですか?」
「それは僕にはわからない。もしかしてそれが彼女にとっての試練かもしれないし、単なる記憶の消し忘れかもしれない」
「そ、そんな曖昧な」
「大ちゃん、物事なんて曖昧なことが多いんだ。白黒すべてが決まってるわけじゃない」
そう妙に説得力のある様子を言われて、大は納得しそうになる。
しかし、我に返ると馬貴を見つめ直す。
「とりあえずありがとうございます。これで八島の悩みがわかりました。でも俺は今の八島には何も罪はないと思います。過去は過去ですから」
「……そうだね。大ちゃん、やっぱり、あなたはいい子だね」
馬貴はにこりと笑うと大の頭をクシャクシャと撫でる。
「馬貴さん、やめてください!」
「ひ、ひどいな。気持ち悪いとか思ったでしょ」
思考を完全に読まれたらしい、馬貴がひどく傷ついた顔を見せる。
「す、すみません。白馬のことが苦手なんで……」
「ひどいなあ。大ちゃん。苦手っていうかキモイって思ってるでしょ。まったく、失礼な」
「すみません」
「ああ、もういいよ。いくら口で謝っててわかるから。さあ、僕たちは今から餓鬼探しだ。神通や欲食のことだ、向こうから仕掛けてくると思うけど、のうのうと待ってるわけにはいかないからね」
「はい!」
旧校舎の教室で話を終えた二人は、がらっと扉を開けると餓鬼を探すべく足を踏み出した。