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非日常のはじまり  作者: ありま氷炎
第4章 犯した罪の大きさは……
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1

「いただきます」


 普段は誰も入らないはずの、花埜と大が落下した旧校舎の屋上で、馬貴は二人に微笑みかける。


 コンクリートの床にはどこから持ってきたのかピクニック用のシートがひかれ、お弁当が広げられている。


「お弁当無事でよかった~」


 戸惑っている二人に構わず、馬貴はにこにこと笑いながら、お弁当をつついている。


「そんな深く考えないの。二人とも。まずは腹ごしらしなきゃ!」


 花埜が馬貴に返そうとしたお弁当は、どうやら本人がうまく拾ったらしく、中がすこし崩れていたが、食べられる範囲だった。


 清吉のことが気になる花埜、欲食だったとはいえ、ディープなキスをファーストキスでしてしまった大は複雑な心境で、食欲などどこかに行っていた。


「食べないの?これから、いろいろ大変だから、食べないとね~」


 二人の心を読んでいるはずなのだが、馬貴は素知らぬ振りをして、言葉を続ける。お弁当の中身はすでに半分が胃袋に消えている。


「……いただきます」


 大はとりあえずそう言って、食べ始める。朝食を食べ損ね、精気を奪われた大はお腹が空いていた。しかも、馬貴がこれから大変だと言ったのだ。

 すでに状況的に大変なのに、これ以上何が起きるのかと不安だった。だから体力はつけておく必要があると思い、食べることにした。


「八島も…!」


 箸を持とうともせず、思いつめた表情を浮かべる花埜に目を向け、大はその首筋に小さな傷があるのを発見する。ブレザーの襟をきゅっと締めているので、よく見えなかったが、それは明らかに傷であった。


「まさか、また清吉に襲われのか!」


 大は弁当箱の上に箸を置くと、花埜にたずねる。


「……あなたには関係ないでしょ」


 花埜は首筋を隠すように襟を寄せると、腰を上げる。


「八島!」

「食欲ないから」

「でも一人じゃ危ないだろ!」


 屋上を出て行こうとする花埜に大が呼びかける。

 しかし花埜はそれを無視して、屋上の扉を開け、階段を降りていった。


「八島!」

「大ちゃん!」


 大は馬貴が制止する声を無視して、花埜を追いかけた。



「八島」


 階段を降りる花埜の腕を大が掴む。


「いたっつ、離して!」

「あ、ごめん」


 大がそう謝り、手を離す。


「八島!」


 その隙に花埜は脱兎のごとく、階段を降り始めた。


「まったく!」


 大は手を離したことを後悔しながら、その後を追う。


「八島!」

「離して!」

「離さない。何で逃げるんだよ」


 二階ほど降りたところで再び花埜を捕まえた大はその腕を掴み、詰問する。


「……逃げてない」

「逃げてるだろう。だいたい、なんでそんな清吉にやられっぱなしなんだよ。何か理由があるのか?」


(言えるわけがない)


 花埜は大の真剣な視線から逃げるように顔をそむける。


「八島!」


 大の腕に力が入る。


「痛い、離して!」

「その手には乗らない。なんで話せないんだ?」


 大の鋭い視線が射るように花埜に向けられていた。


(怒ってる?でも言えない。きっと話したら軽蔑される。だって、最低だもん。清吉さんにしたこと、あれは償えない罪だ)


「大ちゃん!」


 心配して降りてきたのか、馬貴がそう頭上から声をかけた。すると大の力が緩み、花埜は階段を再び降り始める。


「八島!」

「大ちゃん!」


 追いかけようとする大を馬貴が引き留める。


「なんで止めるんですか!馬貴さん!」


 大はぐいっと掴まれた腕を振り払おうとしながらそう叫ぶ。


「大ちゃん、花埜ちゃんのこと、しばらくそっとしておいて。事情は僕が話すから。花埜ちゃんは嫌がると思うけど、君も知っていたほうがいいからね」


 馬貴のつぶらな瞳が苛立つ大の姿を映していた。

 大は少し強引だった自分の姿に気がつくと、大きく息を吐いた。



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