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非日常のはじまり  作者: ありま氷炎
第3章 少女の過去と少年のファーストキス
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5

「八島、なんで縄を解いたんだよ」


 保健室の奥のベッドの上で横になる花埜に、大は声を押さえてそう問う。

 

 清吉を取り逃したが、とりあえず花埜の怪我の手当てが先と保健室に来ていた。転んだ割に綺麗に切れた傷口に首をかしげながら、養護教諭の河田は手当てをしていた。そして顔色が悪い花埜にベッドで少し休むように指示し、大がそれに付き添った。馬貴はこの場に自分がいると不自然だと判断したのか、授業があるからと先に部屋から出ていった。


「八島」


 何も答えない花埜に大はすこし苛立って尋ねる。


「……言いたくない。ただ私は協力できないから」

「なんだよ。それ!お前、殺されようとしてるんだぜ?」

「それでも……」


 少女がベッドの上で横になり、包帯で巻かれた腕をぎゅっと掴む。その視線は窓の外に向けられ、何を考えているのか大にはわからなかった。


「……勝手にすればいい。死んでも知らないからな!」


 心を閉ざしたような花埜の様子に大はなぜか苛立ち、椅子から立ち上がる。そして、真っ白な仕切りカーテンを開けると養護教諭が不思議がるのも無視して、部屋を出て行った。


(なんで話さないんだ)


 花埜が何かを悩んでいるのことはわかっていた。しかし、それを自分に話してくれないことが大には悔しかった。




「八島さん?大丈夫?」


 カーテン越しに河田がそう声をかける。大が怒りあらわに出て行ったことで、心配をかけたらしい。


「だ、大丈夫です。ちょっと疲れたので寝ます」

「そう。ゆっくり休んでね。気分が悪くなったら呼んでよね」


 その言葉に返事を返さず、花埜は横になったまま窓の外を見る。

 体育の授業が行われているのか、体操着を着た少年少女がけだるそうに、体を動かしているのが見える。体操着の襟の色からそれが三年生であることがわかった。


(そういえば清吉さんが乗り移った体も三年生だったな。田倉くんと同じ髪型で……。田倉くん、怒ってた……。でも、清吉さんを捕まえることはできない。彼は絹、私に恨みを持っている。恨みを晴らしてあげたい。私はどうなってもいいから)



「清吉。また失敗?だめだねぇ」


 欲食は軽くウェーブのかかった髪を手で弄びながら、清吉にそう声をかける。


「邪魔が入ったんだ」

「邪魔?あんたがもたもたしてるからだろ?」


 少女らしくない淫靡な笑みを欲食は浮かべる。


 三人の少年少女は屋上にいた。霊体のままでは太陽の元、自由に動けないのだが、こうやって人間の体に入ることで三人は、昼間でも活動することができた。


「神通、あたいは暇なんだ。あたいも参加していいだろう?」

「お前の力などいらない」


 清吉は欲食を嫌っており、共に行動するなど反吐が出そうだった。


「あらら、嫌われたもんだね。なにもあんたの邪魔をする気はないのさ。あたいが興味あるのはあの男の子だよ。きっとおいしい精気を持ってる気がするからねぇ」

「卑しい女め」

「卑しいとはどういう意味さ。あんたも願わくばあの女を殺す前に抱きたいんだろう?」

「この!」


 清吉は怒りで顔を歪めると、欲食に襲いかかる。


「清吉!」


 しかし神通が間に入り、清吉が攻撃の手を止める。拳から離れた気によって、神通の頬が少し切れ、血が流れる。しかし少年は気に留めることもなく、血を手の甲で拭うと清吉に向き直った。


「お前だけでは力不足のようだ。欲食の力を借りるとよい」

「神通!」


 清吉は神通に抗議しようと声を挙げるが、その鋭い視線を見て口をつぐむ。


「ははは。いい暇つぶしになりそうだよ」


 欲食は清吉の様子に楽しそうに笑う。


「くそっつ。俺は先に行く。お前は勝手にしろ」


 清吉は腹立ち紛れにそう言い捨てると、二人に背を向け歩き出した。


「あらら、つれないねぇ」


 欲食はその背中に向かって声をかけるが、清吉は無視したまま、屋上を後にした。


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