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非日常のはじまり  作者: ありま氷炎
第3章 少女の過去と少年のファーストキス
16/54

3

(八島、大丈夫かな?)


 大は花埜の斜め後ろから彼女の背中を見つめていた。普段は遅刻などしないのに今日に限って花埜は遅れた。

 ぺこりと頭をさげて自分の席に座った少女はいつもより元気がない気がした。


(まあ、八島が元気溌剌ってところも見たことなかったけど)


 以前なら変わったクラスメートとして遠くから見ていた大だが、昨日から一気に距離が縮まり気になって仕方がなかった。

『大ちゃんの初恋?』

 ふいに馬貴に言われた言葉を思い出し、大は首をぶんぶんと横にふる。


「そんなわけがない!」

「田倉くん?そんなわけがないとはどういう意味なの?ここに来て説明してもらえないかしら?」

「!」


 クラスメートの視線が一身に大に向けられ、英語の教師――黒田がにこりと笑っている。黒板には訳のわからない英文がかかれ、大は血の気が引くのがわかった。



(どうしよう)


 花埜はお弁当の入った包みをちらりと見つめた後、友達に囲まれている大に視線を向ける。

 一時間目、よくわからない発言をしたため、大はいつもながらクラスメートの笑いの渦の中にいた。


(彼はすごいな。私だったら、立ち直れないかも)


 教師に当てられ、クラスメートが見つめる中、大は平然と笑いながら『寝ぼけてました。すみません』とぺこりと頭を下げた。その様子にクラスは爆笑の渦に巻き込まれ、教師はしょうがないわねと溜息をついただけで終わった。


(私なら、おたおたしていただけかも)


 以前から花埜は大の素直で明るい性格は知っていた。もちろん話したわけでなく、授業中や休み時間に彼の様子を見て、そう思っていただけにすぎなかったが……


(どうしよう。渡せないな。もう諦めようか。それか職員室に行って馬貴に返すとか?)


 クラスメートと戯れる大に近づく勇気は花埜にはなかった。


(もう面倒。やっぱり馬貴に返そう)


 そう思って二時間目の予習でもしようと思った時、急に誰かの影が机を覆った。

 顔を上げるとクラスの女子数人が笑顔を浮かべて立っていた。


「八島さん、昨日、馬場先生と田倉くんと一緒にいたみたいだけど。何かあったの?」

「えっと……」


(説明できない。あんなこと)


「八島さんと田倉くんって親しいの?」

「親しい?」


(どういう意味だろう?)


 そう思って女子群の顔を見つめていると一人だけ、浮かない顔をしてる子がいた。


(ああ、そういう意味。否定しなきゃ!)


「あの、田倉くんとはたまたま偶然に会っただけで、親しいとかじゃないから」


(うちに泊まったとか言えないし)


「そう、そうならいいけど」


 女子の中、ボスのような少女がそう言うと、じゃあねと背を向けた。するとぞろぞろと他の子たちも側からいなくなった。


(久々に話しかけられたけど。そういうことか。もし一緒に帰ったりすると絶対に変な噂立てられそうだ。昨日は遅い時間だったし、馬貴が一緒だったからいいけど。気をつけなきゃ)


 弁当のことに加えて、またひとつ心配事が増え花埜は大きな溜息をついた。




(八島!)


 やっと友達から解放されて、花埜に体調のことを聞こうかと思ったら、女子に囲まれているのがわかった。いじめかと思って止めようと思ったら今度は別の奴に邪魔される。


「田倉。昨日お前、八島と一緒にいただろう?なんか、勘違いされてるっぽいけど」


 クラスメートの鈴木はクスっと笑って女子群を指した。


「八島と一緒って、別に二人っきりじゃないし。馬貴、あ、違う!白馬もいたんだけど」

「白馬も?げー、何してるんだよ。お前!」

「何してるって別に」


 事実を言っても信じられないことだし、どう説明しようかと思っていると授業開始を告げる鐘がなる。二時間目の国語の教師も同時に教室に入ってきて、話はうやむやのまま終わった。


(八島!)


 気になって花埜の背中に目を向けるが、女子の間で何が話されたのかはわからなかった。


(なんて答えたんだろう。きっと同じこと聞かれたに決まってるけど)


 少女の背中はいつもどおり凛としたもので、そこから何かうかがい知ることはできなかった。



(とりあえず、ひとつずつ問題解決しなきゃ)


 花埜は二時間目が終わると弁当箱の入った紙袋を持って、職員室に向かう。クラスの子が大に想いを寄せてることがわかった今、お弁当など渡したらとんでもないことになりそうだった。


(馬貴に返そう)


 そう思いながら廊下を渡り、階段を降りると、そこに見知らぬ男子高校生がいた。シャツについているバッチから三年生であることがわかる。髪が大同様スポーツ刈りで野球部所属だと想像ができた。


「!」


 階段を降りきり、前を通り過ぎようとすると『おかみさん』と呼ばれた気がした。

 しかし、それを確かめる術はなく、花埜の意識はそこで途切れた。


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