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非日常のはじまり  作者: ありま氷炎
第3章 少女の過去と少年のファーストキス
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2

「昼間は襲ってこないと思うんだけど、万一襲われたら僕か大ちゃんを呼んでよね」


 話を終えた馬貴はそう締めくくると食器を片づけ始める。

 どうやら落下したが、大が受け止め地面に激突するのは避けられたらしい。


(田倉くんのお礼言わなくきゃな。二回も助けてもらったんだ。でもなんで田倉くんはそんな力があるのに、私にはないんだろう。確かに私も持ってるはずなんだよね)


「あなたの場合、時間がかかるみたいなんだ」


 また思考を読んだらしい、馬貴はくるりと振り返るとそう答えた。


「時間がかかるって?」

「うーん。詳しくは言えないけど。そのうち使えるから」


(もしかして清吉さんが関係してる?あの夢、なんで私が見るんだろう。きっと、夢だよね。私が本当に絹、『おかみさん』なんて違うよね)


 花埜が俯いてそう考えていたが、馬貴は何も答えず食器洗いを続けている。


「ねえ。馬貴」

「花埜ちゃん、もう時間だよ。そろそろ準備したほうがいいんじゃないの?」


 そう言われ柱時計をみると八時半になろうとしていた。


(遅刻だ!)


 少女は椅子から立ち上がると慌てて自室に戻る。しかし、忘れてたとばかり出てくると今度は浴室に向かった。

 馬貴は花埜のコミカルな動きを微笑ましくみていたが、水を出しっぱなしであることに気がつくと慌てて蛇口を閉めた。

 


「はい、お弁当」


 馬貴も一緒に出るのかと思ったのだが、意外にも馬面の教師ははいっとハンカチに包まれたお弁当箱を二つ花埜に渡しただけだった。


(なんでハンカチの場所とかわかったんだろう?)


 ふと首をかしげた少女だったが、すでに遅刻する時間だったので、お弁当箱を持つと家を出る。


(あ、戸締り!)


「大丈夫。僕がやっておくから」


 馬貴が玄関からそう声を返し、花埜は一瞬戸惑ったが、そのまま学校に向かった。



「荷物は学校終わりにとりにくればいいか」


 教科書を鞄にいれながら、大はぼやく。同室の中本は興味深そうに見ていた。


「昨日、田倉はどこにお泊りだったのかな?」

「……か、関係ないだろう!」

「うわ。動揺してる。顔を赤いぞ。何かあったのか?」

「な、なにも!」


 大はふいに花埜を抱きしめた感触を思い出し、反射的に顔を真っ赤に染める。


「純情少年だと思ったのに、まさか先を越されるとは」

「!ど、どういう意味だ!」

「女の子の家に泊まったんじゃないか?それでやっちまったとか?」

「お、女の子、や、やっちまったって?!」


 にやにや笑う中本を前に、少年は不覚にも以前無理やりみせられたAVを思い出す。見たくないと拒否したのだが、寮の先輩の命令とあり、寮内で数人で鑑賞した。あの映像は生生しく記憶にあり、中学まで田舎の祖母の元で純粋に育ってきた大に、心なしか衝撃を与えた。


「そ、そんなわけないだろう!俺、先に行くから。じゃあな!」


 大は中本からそれ以上何か言われるのが嫌で、鞄を掴むを小走りで出て行く。


「田倉!待てよ!」


 その後を中本が慌てて追った。



 ☆



「さあ、吉谷よしやくん」


 柚美ゆみはにこりと笑うと、道端でたたずむ吉谷の肩を掴む。


「この人間の体、使い勝手がよくないな」


 吉谷の瞳はどす黒く、歩き方もぎこちなかった。


「文句は言うな。清吉。他の人間の体を使うとやつらに疑われる恐れもあるしな。ちょうど欲食が精気を奪い、意識をなくした体だ。憑依するのには最適だっただろう。もしも嫌ならば、夜までまたねばならぬぞ」

「吉谷くん、夜まで待てるの?おかみさんに会いたいんじゃないの?」


 欲食は柚美の口調でからかうようにそう言う。

 それに腹が立ち、少女をはたこうと手を上げると、神通はすばやく手を押さえた。


「目立つ行動はするではない。わかったな?」

「……わかった。わかったから、おかみさんのところへ案内しろ」

「いやいや、ご執心だねぇ」

「欲食」


 神通は押さえた声で名を呼ぶ。


「わかったよ。わかった。さあ、新邑くん、吉谷くん、行きましょう」


 少女は妖婦のような笑みを純真なものに返ると二人に声をかける。

 二人はうなずくと、正門に向かって歩き出した。

 


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