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非日常のはじまり  作者: ありま氷炎
第2章 解かれた封印
12/54

5

 血に濡れた中年の男が白眼をむいて、中庭で倒れていた。


「旦那様!」


 清吉は慌てて、男に駆け寄る。


「ひぇえ。人殺し!」


 その瞬間、背後からそう悲鳴が上がる。振りかえるとそこには顔を恐怖に歪め、清吉を見ている女がいた。女は殺された男の妻。そして清吉にとっては優しいおかみさんだった。


「清吉?!お前がやったのか!」 


 女の悲鳴で出てきた番頭や、下男達が血まみれの死体の傍にうずくまる清吉を詰問する。


「俺じゃない。俺じゃ!」

「清吉が……清吉がやったんだ。旦那様は私を、清吉に襲われた私を守ろうとして……」

「?!」


 思いもよらない言葉に清吉は言葉を失う。

 今夜、女に中庭に来るように言われ清吉は疑問に思いながらも、眠ると寝過ごしてしまうと、目を皿にして時間が来るのを待った。そして時間になり中庭に来ると男が死んでいた。

 それだけのことだった。

 しかし、女の言葉に、番頭達は清吉の仕業だと思いこんだ。


「許さない。俺は絶対に!」

 

 ぱちっと花埜は目を覚ます。

 男の恨みの言葉が脳裏で木霊している。


(夢?あれはたしかに今日お風呂場で見た幽霊だった。馬貴が話したことが気になって夢を見たのかな。あの女性……おかみさんと呼ばれていた女性……私に似てた。私がまるで彼を陥れたみたいで、嫌な夢……)


 夢のはずだがやけにリアルで、花埜はベッドの上で頭を抱える。

 自分ではないはずなのだが、女がしたことに罪の意識を感じていた。


『おかみさん』

 ふいに声が聞こえた。

 窓が開けられ、にゅ~と天井から白いものが部屋に入ってくる。

 それは形を作り、ベッドの傍で男の姿になった。


(清吉さん……)


 花埜は急に現れた霊の存在に恐怖を感じることなく、先ほどの夢で見た少年の無念の叫びを思い、霊を見つめる。しかし目の前の清吉は目を血走らせ、異様な雰囲気で少女を見つめ返していた。それは花埜に違和感を与え、背中に嫌な汗が流れるのがわかった。


『殺してやる。俺が味わった苦しみ、味あわせてやる!』


 清吉はそう叫ぶと、ベッドの上の少女を捕らえようと透明な腕を伸ばす。


「花埜ちゃん!」


 しかし、霊が少女を捉えることはなかった。部屋のドアが開けはなられ、光の鞭が清吉を襲う。


「ごめん。気づくのが遅れた!」


 馬貴はちろっと舌を出し花埜に謝ると、霊をとらえようため再度鞭を振るう。が、鞭は宙をかする。

 どこに行ったと、部屋を見渡すとふいに背中に気配を感じた。振り向くとそこにいたのは清吉で、霊はにやっと笑うと蹴りを叩きつける。


「馬貴!」


 実体がないはずの攻撃だが、馬貴の体は霊の蹴りを受け、部屋の壁まで飛ばされる。ぶつかった衝撃で壁が揺れ、掛けて置いた時計が落ち壊れる。


「八島!」 


 音を聞きつけて、ドアが乱暴に開けられた。現れたのは大で、清吉は新たな人間の存在に舌打ちをする。


「これが、悪霊……。俺を同じくらいの年じゃねーか。しかも普通ぽい」


 大は部屋の中にいる霊の姿を見て、言葉を失う。予想以上に清吉は若く、あどけなく見えた。


「大ちゃん、油断したらだめだ!」


 入り口で呆然としている大にそう声をかけるが、馬貴の言葉は遅かった。


「!」


 清吉の手がにゅっと伸びて、大の首元に巻きつき、その体を引き寄せる。


「うっつ」


 首を絞められ、少年は霊の腕の中で苦しげに悶え、手足をばたばたさせる。


「田倉くん!」

「大ちゃん!」


 馬貴は鞭を振るおうと構えをとった。

『こいつごと攻撃できるか?』

 しかし、清吉が大を前に押し出し、馬貴は動きを止めるしかなかった。 大の顔色がどんどん青ざめていくのがわかる。


(田倉くん!このままじゃ死んでしまう。なんとかしなきゃ!)


 霊の意識は馬貴に向いており、花埜はその背後にいた。少女はぎゅっと拳を握りしめるとベッドから清吉に向かって飛ぶ。


「!」


 しかし、花埜のその体はすかっと透明な体を抜け、床に落下する。


『邪魔をするのか!おかみさん』


 花埜の行動は清吉の神経を逆撫でしたらしく、気を失いかけている大を馬貴に投げつける。


「!」


 馬貴は不意に飛んできた少年の体を支え切れず、そのまま巻き込まれ壁に一緒に衝突する。


「田倉くん、馬貴!」


 花埜は駆け寄ろうと体を起こす。


「!」


 しかし悪霊はその動きを封じると少女の体を掴み、窓から外へ飛び出した。 


「大ちゃん。大丈夫?」


 馬貴は二度も壁に叩きつけられながらも、どうにか体を起こし、自分に重なる大の無事を確認する。


「う……ああ」


 馬面の教師の問いに少年はうっすらと目を開き、うなずく。


「大ちゃん、あなたはここで待ってて」


 馬貴は安堵の息を吐くと大の体をゆっくりと床に寝かせる。そして、窓から飛び出し飛んだ。


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