嵐の前の休息
今回は最終話の序章になります。
朝起きて、窓開けて新鮮な空気を吸う。
「なんて平和な朝なの……!」
何だか私は100年ぶりに朝が来たような気がした。何故だろう……暫く考え気付く。
そう。今日は奴が来ていないのだ。いつもなら、しぃちゃんしぃちゃん煩いくせに……。どうかしたのだろうか。
何と無く嫌な予感がして、私は(実は初めて)弥恵さんの部屋へと向かった。
――ガチャリ。
「弥恵さーん。どうしたんですか?今日朝御飯いらないんですかぁ?」
「……て」
「……?」
「しぃちゃん……助けて……」
何と聞き取れない声がしたかと思えば、床に彼が転がっていた。
「新手の遊びですかぁ?悪いけど、遊びに付き合ってる暇はありません!さ、早く起きて!」
無理矢理起こそうと弥恵さんを引き上げたら、何と本当にキツイらしく、涙目で辛そうな顔をしていた。
「う……吐く」
「えぇっ!は、早くトイレへ!」
――数分後
「う……俺、死ぬかも」
「なぁに言っちゃってるんですか。只の風邪でしょ?いつもの10倍ヘタレてますね」
動けない弥恵さんをベットに寝かし付けた。
「……」
「お薬は飲みましたか?」
「飲んでない……動けなかった」
「はぁ。何処に?」
「あそこ……」
弥恵さんは生活感が全く感じられないスッキリと片付き過ぎた部屋の、これまた中はカップ麺ばかりの食器棚をさした。
「うーわ。カップ麺ばっかじゃないですか!肉付き悪いのが良く分かります!はい、これ飲んでください」
「口移し」
「……もがき苦しめ」
「済みません。調子のりすぎました」
なぁんだ。以外に元気そうね。これならほっといて大丈夫そう。
「じゃ、安静にしていてください?私は一度戻ることにします」
そう言うと私は、弥恵さんを残し部屋を後にした。
さぁて。粥でも作ってあげよう。弥恵さん、きっと喜ぶ。
「ホストが風邪引くなんて間抜けね」
笑いながら調理にかかった。
粥を持って行くと、いつの間にか寝てしまったらしい、弥恵さんは何かブツブツ呟いている。
「ん……し……ぁ」
「!」
私の名前。もしかして私の夢見てる?
「真由……こ……」
「まゆ、か」
まゆ。私と弥恵さんが初めて会った日以来の名前。
事情は知らないけど、弥恵さんはとにかく帰って来てと言っていた。
ズキン、となる。何だろう。この胸騒ぎは。そうだ。私はこの後に及んで弥恵さんが好き。
今、私は確実に考えがある。
『まゆ』さんは、弥恵さんの恋人なのではないかと。
考えていたら、弥恵さんが起きたらしい。
「どした?紫唖、切なげな顔だ」
「……っ」
今考えたってしょうがない。弥恵さんには聞きにくいし。私に出来るのはただ一つ。
「お粥作って来ましたよ。食べます?」
「お!粥粥!やったー!!」
元気になったらしい弥恵さんを見て私は安心した。
――その日の夜
今日一日寝る羽目になった弥恵は、目が冴えてしまい、起き上がる。
と、足の方に重たい感触。
「おっと……俺の小さいコックさんはお休みか」
目の前に居る少女はスゥスゥと穏やかに寝息を立てて居た。
「……無防備」
弥恵は、今日は頑張らせちゃったしなぁと、そっと彼女の髪を透いた。
「今日はあんがとね、紫唖」
そしてそう言って彼女の額に口付けた。
「起きてるときは絶対あげられないご褒美」
何だか眠くなり、弥恵も寝るのだった。
勿論、足元の小さな彼女に布団をかけるのを忘れずに。