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夜明けの希望

前回に引き続き、紫唖の実家へんです。

お楽しみください。

 期待したのに。私、気持を伝えようと、心を開こうと努力したのに。

 私のやり方が悪かった?伝えようとするほどに、頭の中が真っ白になった。


「バイオリン……?スウィーツだと?」


「……!」


 何故、何故。お父さんは分かってくれなかった。


「紫唖。何か勘違いしているぞ。お前が好きなのは勉強で得意なことも勉強の筈だ。その男に何を吹き込まれたか知らないが……父さんはお前の事が分からない筈がない」


 私はもう、言葉も出ず、只押し黙っていた。


「そうよ。小さい頃から紫唖はずっと勉強が好きで……」


 止めて、ヤメテ……!どうしてそんな事が言えるの?私にバイオリンを習わせたのもスウィーツを教えてくれたのも、お母さんじゃない!

 もう聞きたくなかった。一度開きかけた扉は、開く寸前に、また閉じようしていた。

 光が失われていく……私の心が闇に染まりきる前に、誰か助けに来て……!


「あんた、どうしてそんな事が言えるんだ!」


 その時だった。一筋の光が、私を細く、しかし力強く照らした。私の光源は、弥恵さんだった。


「何……?」


「あんた、おかしんじゃない?娘がそう言ってんだ、紫唖はバイオリンが好きでスウィーツ作るのが得意に決まってる!あんたらは全く紫唖を見てないぜ。否、見ようとしないんだ!」


 緊迫した状況なのに、裏腹に晴れていく私の心があった。


「弥恵さ……」


「ほら。もう一度、しぃちゃんの口で伝えるんだ。しぃちゃんの両親が聞いてくれなくても俺が聞いているから。覚悟をきめて、自分の気持を言うんだ」


 私は暫く弥恵さんを見つめた後、コクリと頷き、慎んで微笑みながら言った。

 くぐもってモヤモヤした感覚はどこかに消えている。


「お父さん、お母さん。私は勉強よりも、バイオリンがしたい。スウィーツ作りたい。今のバイトも、嘘はつきません。ホストクラブのキッチンなの」


 自分でもビックリするくらい、スッキリと晴れ晴れしい気分の自分が嫌な思い出が詰まった部屋に凛として立っていた。


「何て事だ!ホストクラブだと?!」


「ご近所さんに会わせる顔がないわ!」


 なんと言われようが構わない!私は今、自分に自信を持っていた!


「バイオリンのレッスンは、通わせてあげてください」


「そんなの、お金の無駄よ」


「俺が払いますから」


「え……?」


 この言葉にはさすがに驚いた。


「しぃちゃん、俺金はあるし大丈夫だよ。なんたってNo.1ホストだし」


 そういえばそうだった!この人の貯金は一生では使いきれないくらいの額だったのだ。


「詳細は後で話すよ。今はご両親に理解してもらいな」


「はい」


 私はお父さんおと母さんを見つめた。否覚悟があり強い意思を持った目をしていたため、睨んだ様に見えたかもしれない。


「お父さん……お母さん、私はバイオリンを習います」


「下らん!」


 お母さんも反対だろう。お父さんがここまで否定したのだ。


「あなた、紫唖がやりたいならさせた方が良いと思います」


「なっ……!」


 お母さんはニッコリと微笑むと、お父さんを見つめた。


「私嬉しいの。やっと本音を話してくれて。きっとあの子本気よ」


「下らん……」


「あなたも分かるでしょう?あの子の目色が違ってたわ。きっと何を言っても無駄よ」


 悪いのは両親だけじゃなくてきっと何も話さなかった私も……。

 お母さんは腕をくんでグチグチ言って居る。


「紫唖、部屋に戻ってお風呂の支度をしなさい?」


「は、はい?」


「……じゃ、失礼します」

 こるから起こるであろう事を弥恵さんはいち早く察知したらしく、『一緒にお風呂入る〜?』なんてセクハラな発言をして来る。


「……嫌」


「つーめーたー!入る前の風呂掃除位付き合ってよ……」


「あ、風呂掃除ね」


「まさかしぃちゃん!変な方向の想像した?」


「弥恵さんがセクハラ発言みたいなのするからです!」


 私が階段の途中で子付たため、弥恵さんが足を踏み外しそうになる。


「わわっ……!」


「あっ!ごめんなさい」


 慌てて弥恵さんの腕を掴み引き寄せる。細々している弥恵さんは私の力でも十分引き寄せる事が出来た。


「もう!危ないだろ?……俺が怪我してホスト休んだらどれだけの女の人が泣くと思ってんの?」


「……!」


 今、私弥恵さんの声なんて聞こえてなかった。だって、息か額にかかるくらい……私と弥恵さんの距離は近いから。

 恥ずかしくなって、うつ向いたら、弥恵さんは暫く考えて気付いたらしくて、パッと離れた。


「……なんか、その、ごめんよ?」


「……別に、気にしてないし」


「クク……」


 ちょっと強がってみたら、急に弥恵さんが笑いだした。


「なっ!なんですか?」


「だって、しぃちゃんかわいんだもんよ」


「可愛いい……?」


 やっと赤面が治りかけたのに、この人の仕草、言葉、視線に……また、赤面した。


「赤面してんのに、強がる娘、俺初めてだ。しぃちゃん。やっぱ俺には君が新鮮に感じるよ」


「……?」


 それは誉め言葉ですか?って聞こうとしたけど、弥恵さんはさっさと二階に上がっていってしまった。




 ――翌日


「うん。また来るから。じゃあね」


 これから、一日かけて東京へ帰る。

 お母さんは駅まで見送りに来てくれた。


「じゃあね。東京でも頑張るのよ?橋矢田さん、紫唖を頼みますね」


「任せてくださぁい!」


「お母さん、私勉強も頑張るよ。勉強してフランスに留学する」


「金は俺持ち」


「まぁ!悪いわ!私達が頑張ってだすから、橋矢田さんはお気遣いなく?」


「いや、俺も一緒に行きたいし」


「「え」」


 ニヘラ、と笑って弥恵さんは頭をかいた。


 また明日からは、普通の生活が始まる。でも、私は今までの私じゃない。ちゃんと自分に自信がある。


「さぁ!これからスウィーツの勉強しなきゃ!」




『間もなく、山梨――東京の特急が発射致します。ご乗車の際は――』


「早く!しぃちゃん」


「待って下さいー!」


 やがて男女の陰は人混みに紛れて見えなくなった。

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