電車の旅
テスト前のために更新が遅れてしまい、申し訳ないです。
――暖かい。そんな雰囲気が体を包み込む感覚が心地いい。このまま、半日くらい寝ていられそうな。ガタン、と寝ているベッドが揺れ私の睡眠を遮る。
多少不機嫌な頭を起こすと、銀河鉄道の旅は終り、優しい朝日が出迎えてくれた。
ふと、脇腹に当たる、柔らかい毛の感触。まさか!
「やだっ!弥恵さん?!」
「う……?」
ムク……と起き上がる顔のわりに大きい体。180は優に越える長身男は起きて早々天井に頭をぶつけ、苦痛にうめいている。
「弥恵さん!何で私の横に?!沿い寝はやだって言ったでしょ……」
ヘタレは頭が起きたらしく、にへらと笑い、
「しぃちゃん起こそうとしたら気持よくて寝ちゃった……」
何て呑気な事を言い出す。『だってここ窓際だしね?』
「……セクハラ」
「えっ……俺としぃちゃんの仲じゃない」
本気で焦っている弥恵さんがおかしくて、つい笑みがこぼれた。
色々やって座席につくと、朝食が運ばれて来る。うん、今日はマロンパイとローズティー……甘さに酸味が良く会う、何だか恋みたい、何て思う朝食だった。
弥恵さんはそれを聞くと大爆笑したので、忽ち私達は乗客の顔見知りになる。
「弥恵さん……笑いすぎ」
「ごめん!だって女子高生からこんなにクサいセリフが出るなんて恋愛小説位なんだもん!」
「……!」
思わず赤面、私、そんなにクサかったかな?
恋をすると誰でもクサいセリフの1つや2つくらい、言いたくなる物なのだと自分にいい聞かせ、何とか落ち着かせた。
ふと、弥恵さんを見るとバッチリと視線がぶつかる。え、あっちも私を見てた。慌てて顔をそらす。
「何ですか?」
「うんや。俺しぃちゃんの事何も知らないなぁ……って思ったのさ」
「これから大体の事は分かりますよ。実家に行くわけだし」
「うん」
「弥恵さんこそ、私の中では“謎多き隣のヘタレホスト”です」
「せめて“隣のホストさん”と言って欲しいな」
「ヘタレが足りません」
「……やっぱ?」
にへらと笑うけど、どこか苦笑混じり。何だかそれが妙に色気があって大人の男を感じさせる。
……ちょっと、寂しい気持になった。私は何だかんだ言いながら結局は仕事の後輩で、隣に住んでいるだけなんだ……
私の気を知ってか知らずか、頭に優しい感触が触れた。弥恵さんの、優しい表情がある。柔和な顔付きはしているけど、私はこの人が優しい表情をするところをまだ2回しか見ていない。
弥恵さん、妙に冷めていたりするから、時々怖くなる。それだから優しい笑顔を見る事が出来る人って私くらいなのかも、とか勝手に想像したり。
舞い上がってボーっとしていたら弥恵さんに不思議そうな顔をされた。
「……しぃちゃん今日は考え事多くない?俺にも構ってよう」
「え……?あ、ああ!済みません」
余りに幼い言い方につい苦笑が混じる。弥恵さんはいち早くそれを察知したらしく、むくれた。
「なんだよ。誰だって相手にされないと悲しいじゃん」
「分かってますって」
「……」
ちょっと照れ臭そうに、頭を掻く。言うことや態度は幼い癖して、ちゃんと大人であるべき所はきちんと育てられた、と言う感じ。もしかして弥恵さんて、実はかなり良い所の坊っちゃんなのかも。
どうこうしているうちに、景色のなかに寛大な、ツンと立つ日本一の背高帽が見えた。
「すげー!生富士山初めて見た!」
――山梨だ。
テンションの高くなる弥恵さんに比べ私はテンションが下がる。
――あぁ、これからあの大嫌いな白い家に行くのだ。
考えただけで私は身震いした。
「しぃちゃん……大丈夫だよ。なんたって女性の話を聞く仕事してる俺がいるんだし」
「お母さんなら弥恵さんの言うこと聞いてくれるかもだけど……」
「あちゃー……お父さん居るの」
「当たり前!」
「……っ俺んちは居ないよっ……」
「え……」
もしかしてこれは弥恵さんの事を知るチャンスかも。聞こうとしたのに、時間は私の見方ではないようだ。
『次は甲府――次は甲府――……』
「あっ!降りなきゃ!」
「おっマジ?」
慌てて荷物を掻き集めて電車が停止するのを待つ。
私はさっきの事が聞きたかったけど、弥恵さんが話す時に話してくれると信じて、今は聞かないでおく事にした。 駅を出て、町中に入り、市営のバスで実家がある地区へ行く。甲府市にあるとはいえ、若者で賑わうショッピングモールの近くに家があるわけではなく、郊外にあり、そこには静かな住宅地が広がる。
私と弥恵さんは一番近いバス停で降り、実家へ向かって歩き出した。私の実家付近は、何故だか坂が多く、成れた私にはなんの障害もないけど、体力の無い弥恵さんは(絶対子共の頃からお酒やってた)ハァハァ言い、ついに実家まであと少しのところで膝にてをつけて止まった。
「し、しぃちゃんは……疲れない、のぉ?」
「弥恵さんは酒の飲みすぎですよ。いかにも体力なそうだし」
「なっ……」
「ほら、あの坂を上れば私の実家です。頑張って」
「うぅ〜」
弥恵さんは足を引きずり着いてきた。家が近くなるに連れて、言葉数が少なくなる私を見て、弥恵さんは一生懸命話しかけてくれた。
「……着きました」
大きな、真っ白すぎる壁。庭がやたらでかくて、庭の隅には昔飼っていた犬、ジャスティの墓がある。
「じゃ、戦いに行きますか」
「はい」
インターホンに手を伸ばす。けど、やっぱあと少しのところで手が震えてしまう。
――と、不意に手に暖かい優しさ。
「弥恵さん……」
「大丈夫。俺がいるから。ね?一緒に押そう」
「うん!」
重なった手が、ゆっくりとインターホンに近付き、
ピンポーン
インターホンをならした。