表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

悩みと涙

多少シリアス?よく分かりませんが内容だけは真面目な話です。

 小さい頃の記憶。どこかはハッキリと分からないけど、多分当日住んでいたフランスの郊外にある家。

 私がバイオリンを弾き始めた日の記憶。


「なぁ?抱え込まないで。俺に話せよ」


「弥恵さん……」


「しぃちゃんには世話になっているからとことん付き合うよ」


「……」


 私は弥恵さんを正面に据え、押し黙った。だいたい、一体何で関係ない弥恵さんに私の事を話す必要がある?


「黙ってないで早く言えよ」


「本当に……何でもありませんから……」


「またか!そおやって!いつも俺に……隠して」


「……弥恵さんには関係ありませんから」


「何でだよ!」


 肩を捕まれ、激しく揺すられる。


「家族の事だって!何も話してくれない……!」


「……」


「お前はそれで良いのか?!それじゃ、何のために……」


 辞めて。それ以上何も言わないで。


それを言われてしまったら、私は……


「紫唖……何だよ!なんでそんな……悲しそうなだんよ!」


「……ひ……弥恵さぁ……」


「話せよ!俺に。何でも聞く。俺、お前の力になりたいよ」


 今日だけはヘラヘラしてなくて。何だか真っ直ぐな視線が私の心臓を掴んだ。


「なぁ紫唖……。お前そんなに頑張って成績上げて、何がしたいんだ?」


「……っ!」


 何で……?私は本当は分かっていた。私が大学を出てやりたいこと?大学なんか出たいの?本当は……本当は……。


「バイオリンがしたいんだろ?」


「うん……うん!」


 気付けば、弥恵さんの胸に抱かれて、泣いていて。普段なら有り得ない光景で、こんな時なのに、ときめいた。


 抱き締めていた手の力が、不意に緩む。私は心なしか、不安になり弥恵さんを見上げた。


 ――数分後


「じゃあまた!俺としぃちゃんは帰るからね〜」


「はぁい。お疲れさぁん」



 弥恵さんと一足早く帰宅する。私が泣いている所を、ナヤトさんが見付けてくれ、『う〜ん。理由は分からないけど……今日は帰りな?』と言ってくれた。弥恵さんが私を離したのは、ナヤトさんが来る気配がしたかららしい。気配が分かるなんて凄いと思った。

 普段ヘラヘラしているからに、弥恵さんが凄い人に見えた。

 肩越しに弥恵さんの顔をみる。


「お?しぃちゃんは俺に惚れたな?」


「……」


 つい恥ずかしくて、弥恵さんの前を歩くようにした。


「反応なし、か。しぃちゃんだけだよ。落とせないのは」


「え?」


「フフフ……何でもないよ」


「なんか……ムカつく」


「ハハハッ!まぁ、しぃちゃんはまた俺に仮が出来たね」


「あ!」


「……飯でいいから。それから……」


「?」


 ピラランピピラ〜


「ん?」


 携帯がなる。全く、せっかく良い雰囲気なのに……。


「あ……」


 両親からだった。震える手で電話に出る。


「はい…うん。そうだよ。うん。うん……明日ね。ばいばい」


「なになに?しぃちゃん顔が暗いぜ?」


「……弥恵さん……私明日……バイト行けません」


「親から?」


 黙り、頷く。ゆっくり顔をあげれば、笑顔の弥恵さんがいた。


「安心しな。俺も行ってやるから」



「……はい」


 ちょっと待って下さい。笑顔だけでも反則なのに、優しい笑みって何ですか。

 あんまり魅力的すぎて、1分くらい見つめてしまった。


「……俺もそろそろ……だな」


「え?」


「いや。何でもないよ。さぁっ!明日は戦いに行くんだから、体力の温存のために早く帰ってねるよ、しぃちゃん!」


「……はぁ」


 き、気になる!と思いつつ、眠たい目を擦りながら帰路につく。各部屋の手前て私と弥恵さんは別れた。

 ――次の日

 数時間前に会ったばかりのホストは既に私の家に来ていたらしい。私を起こしてくれた。


「おはよう、しぃちゃん。今日も綺麗だね……」


 甘い表情を出して手を握ってくる。私は無意識に口元が緩んでしまったが、直ぐにこれが弥恵さんの悪戯だと分かり。


「盛ってんじゃねぇ!」


「いだだだだ!」


 弥恵さんの頭を連打。


「おい!馬鹿になったらどうするんだよ?女に甘い言葉が言えなくなるだろ?」


「大丈夫。もう弥恵さんは底まで来ていますから」


 言い終わったあとの小悪魔的な笑みも忘れない。


「小悪魔!」


「本当の事を言ったまでです」


 弥恵さんが苦笑したように頭を掻く。これは、勝ち目がないと分かった時の仕草だ。


「全くその通りだ。うん!しぃちゃんってば俺の事、分かりすぎ〜」




 確に。言われて初めて、やっぱり弥恵さんが好きなんだとか。


「……」


「しぃちゃんは俺、大好きだねぇ」


「……無駄に一緒に居たら、そりゃ分かるようになるってもんです」


「ふぅん」


 返事はそっけないけど、心なしか楽しそうな弥恵さん。

 一足先に食べ終わって、ヘラヘラ笑いで頬杖を突きながら私を見つめてくる。


「……何ですか?」


「ん?否……」


「変な弥恵さん……ごちそうさま」


「はいはい」


「弥恵さんが作ったわけじゃないでしょ」


「お。悪い……つい」


 にへらぁ。

 頭を掻く。その仕草さえも……魅力的……。


「しぃちゃん?」



「……!」


 面と向かってジッと見つめていたらしい事に気付き、慌てて顔を反らし片づけへ向かう。


「……しぃちゃん……今……」


「それ以上言ったら殺す」


「はい」


 恥ずかしさ勝っての、言葉は、もしかしたらチャンスだったかもしれない今を潰す。

 弥恵さんと自分の食器を流しにもって行くと、後ろに弥恵さんが立つ。


「なぁ……俺がついてるからさ。ヘタレだけど……こう言う事は、得意なんだ」


「ヘタレ自覚してましたか」


「あぁ。……いっつも済まない。一人ではなにも出来ないんだ……」


「弥恵さん……」


「……?」


「そろそろ戦いに行きましょうか」


「お。行くの。頑張ろうな」


「……うん」


 私はそれから数十分準備をし、いつも伸ばしている髪を結い、制服の短いスカートは下ろし、いかにも優等生を装う。


「……なんだか……しぃちゃんじゃないや」


 そんな私を見て、弥恵さんは苦笑混じりに呟いた。


「弥恵さんも、スーツのインナー、間違えてお仕事用にしないでください?」


「分かってるよ」


 弥恵さんの準備が整ったのを確認し、家を出た。……ちゃんと鍵をしめて。


 現在、ここ東京から電車に乗り、実家のある山梨へ向かう。

 電車だとかなり時間がかかってしまうので、もちろん特急を選んだ。


「う〜ん。実は俺、実際に電車のるの、初めてかも」


「マジですか?」


「マジマジ〜。これ、ちゃんと寝るスペースがあるじゃん」


「そうですね」


 中に設置してあるベッドをながめ、弥恵さんがニヤリ、と笑う。


「ねぇしぃちゃん」



「はい?」


「沿い寝しよ?」


「絶対嫌です」


 即否定(だって……!)した私を見て弥恵さんは多少楽しそうな感じ。私はと言うと、緊張のあまり、駅弁的な物も食べられなかった。


「しぃちゃん、着くまで寝よう。ゆっくり休まないと明日体がもたないよ」


「はい」


 辺りはまるで銀河鉄道に乗ったかのように、美しい星達が輝いていた。


「綺麗だね……」


 弥恵さんが寝る前にそう言ったのを、私は翌日まで覚えていたが、やがて薄れていった。



続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ