門司港行き特急列車
この電車は門司港行き特急列車です。
この電車は門司港行き特急列車です。
つまり私は、この電車に爆弾を仕掛けている。
なぜかというと、特に理由もなく、ただ爆弾を爆発させてみたいという、それだけである。
電車に乗り、爆弾のスイッチを鞄に入れて上の棚に置く。
少し待つ。
なんというか、この時間帯の電車は、いわゆる努力している人々で溢れている。
私とはまったく別で、強い人々だ。
今からここの人々は爆弾によって死にゆくだろうから、顔も別に覚える必要はない。
少し立ち居眠りをしてしまった。
五分くらい経っていた。
次の駅までは時間があるし、そろそろ爆発させてもいい頃合いだろうか。
鞄のある場所を見やると、私は驚愕した。
鞄がない。
何度も何度も見る。
鞄はない。
念のためにもう一度見る。
鞄はない。
間違えて取られた?
いや、それはない。
そういう間違いがないように、形も色も少し独特なものにした。
ということは、奪われたということだ。
誰に、なぜ、という疑問は置いておいて、鞄はどうでもいいが、あのスイッチだけは私の手元に置いておくべきだった。
爆弾を爆発させるのは私であるべきで、そのためにここにいる。
そう思っていると、少し先の床に私の鞄が見えた。
なんだ、よかった。
中を漁ると、スイッチだけがなかった。
私はまた驚愕した。
あのスイッチの価値を分かっているのか。
私ですら持つのをためらうような狂気物であるから、慎重に丁重に扱わねばならない。
探すしかない。
というか、スイッチを取られたら、いつ爆発してもおかしくない。
爆弾自体は、普段通らない、使わない場所に置いたから見つかることはないとはいえ、つまり私も取りにいけないということだ。
やはりスイッチを見つけるしかない。
車両間を歩き回り、探す。
探す。
探す。
すると一人の男性、三十代程度だろうか、スーツを着用した男が立っていて、手にはスイッチがあった。
物珍しそうに眺めていた。
「それは私のもので、君が持つべきものではない」
声をかけると、その男は少し驚いたが、こう言った。
「どうせ爆発させるならば、僕でもいいでしょう」
「ここには私の妻と、その浮気相手が乗っている」
「私の手で二人を殺したい」
なるほど、と思ったが、やはり私が押したい。
「理解したが、やはり返してもらう」
そう言った直後に、男の背後から女性が現れた。
今度は十代程度の、学生服を着た女だ。
「私に押させてほしい」
なぜなのか理由を尋ねると、
「私は学校でひどいいじめにあっている」
「生きる希望も価値もなくしてしまったので、ここで命を絶ちたい」
なるほど、と思ったが、それでも私が押すと言った。
二人はしょんぼりとした顔をしたが、仕方ないと、男は私にスイッチを手渡した。
「では、あなたは?」
男が尋ねた。
どういうことか聞くと、その男は発した。
「あなたは、なぜ爆弾を爆発させたいのですか?」
理由。
私が爆弾を爆発させたい理由。
特にない。
本当に理由などなく、ただ爆発させたいからだ。
だが、言い淀んだ。
この二人は、はっきりとした決意と意志を持ってここに立っている。
しかも、他の人間の凶器を奪ってまで。
ただ凶器を持っていただけの私とは、まったく違う。
つまり、彼らは強い。
やはり私とは違う人間で、それは理解していたことだと思っていたのに。
「もしも理由が本当にないのなら、降りたほうがいいかもしれません」
女がそう言う。
「理由を見つけたら、見つけることができたら、また来てください」
私はスイッチを手渡して、停車駅で降りた。
そのあとにその電車がどうなったのか、知る由もない。
それから数年経ち、まだ理由は見つからない。
強くならねばと思うが、曖昧なまま置いてしまっている。
今考えると、私に爆弾は分不相応だったと思う。
強くなれたときに、また電車に乗ろう。




