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門司港行き特急列車

作者:
掲載日:2026/04/12

この電車は門司港行き特急列車です。

この電車は門司港行き特急列車です。




つまり私は、この電車に爆弾を仕掛けている。


なぜかというと、特に理由もなく、ただ爆弾を爆発させてみたいという、それだけである。


電車に乗り、爆弾のスイッチを鞄に入れて上の棚に置く。


少し待つ。


なんというか、この時間帯の電車は、いわゆる努力している人々で溢れている。


私とはまったく別で、強い人々だ。


今からここの人々は爆弾によって死にゆくだろうから、顔も別に覚える必要はない。


少し立ち居眠りをしてしまった。


五分くらい経っていた。


次の駅までは時間があるし、そろそろ爆発させてもいい頃合いだろうか。


鞄のある場所を見やると、私は驚愕した。


鞄がない。


何度も何度も見る。


鞄はない。


念のためにもう一度見る。


鞄はない。


間違えて取られた?


いや、それはない。


そういう間違いがないように、形も色も少し独特なものにした。


ということは、奪われたということだ。


誰に、なぜ、という疑問は置いておいて、鞄はどうでもいいが、あのスイッチだけは私の手元に置いておくべきだった。


爆弾を爆発させるのは私であるべきで、そのためにここにいる。


そう思っていると、少し先の床に私の鞄が見えた。


なんだ、よかった。


中を漁ると、スイッチだけがなかった。


私はまた驚愕した。


あのスイッチの価値を分かっているのか。


私ですら持つのをためらうような狂気物であるから、慎重に丁重に扱わねばならない。


探すしかない。


というか、スイッチを取られたら、いつ爆発してもおかしくない。


爆弾自体は、普段通らない、使わない場所に置いたから見つかることはないとはいえ、つまり私も取りにいけないということだ。


やはりスイッチを見つけるしかない。


車両間を歩き回り、探す。


探す。


探す。


すると一人の男性、三十代程度だろうか、スーツを着用した男が立っていて、手にはスイッチがあった。


物珍しそうに眺めていた。


「それは私のもので、君が持つべきものではない」


声をかけると、その男は少し驚いたが、こう言った。


「どうせ爆発させるならば、僕でもいいでしょう」


「ここには私の妻と、その浮気相手が乗っている」


「私の手で二人を殺したい」


なるほど、と思ったが、やはり私が押したい。


「理解したが、やはり返してもらう」


そう言った直後に、男の背後から女性が現れた。


今度は十代程度の、学生服を着た女だ。


「私に押させてほしい」


なぜなのか理由を尋ねると、


「私は学校でひどいいじめにあっている」


「生きる希望も価値もなくしてしまったので、ここで命を絶ちたい」


なるほど、と思ったが、それでも私が押すと言った。


二人はしょんぼりとした顔をしたが、仕方ないと、男は私にスイッチを手渡した。




「では、あなたは?」


男が尋ねた。


どういうことか聞くと、その男は発した。


「あなたは、なぜ爆弾を爆発させたいのですか?」


理由。


私が爆弾を爆発させたい理由。


特にない。


本当に理由などなく、ただ爆発させたいからだ。


だが、言い淀んだ。


この二人は、はっきりとした決意と意志を持ってここに立っている。


しかも、他の人間の凶器を奪ってまで。


ただ凶器を持っていただけの私とは、まったく違う。


つまり、彼らは強い。


やはり私とは違う人間で、それは理解していたことだと思っていたのに。


「もしも理由が本当にないのなら、降りたほうがいいかもしれません」


女がそう言う。


「理由を見つけたら、見つけることができたら、また来てください」


私はスイッチを手渡して、停車駅で降りた。


そのあとにその電車がどうなったのか、知る由もない。


それから数年経ち、まだ理由は見つからない。


強くならねばと思うが、曖昧なまま置いてしまっている。


今考えると、私に爆弾は分不相応だったと思う。


強くなれたときに、また電車に乗ろう。

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