表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残月の彼方  作者: 夕月かんな(月原悠)
第二章 決意
9/9

第11話 決心

この話から第二章に入ります。

拓真にとって、避けて通れない現実と向き合う章になります。

僅かな時がまるで砂時計から落ちるように過ぎていった。

僕の心は抜け殻のようだった。

由香里さんの面影は消えることがなかった。

気づくと僕は公園のベンチに向かっていた。


ベンチに一人の見覚えのある男性が立っていた。

その表情に笑みはなく、どこか遠くに視線を移していた。

僕は思わず息をのんだ。


「お嬢様が‥‥‥」

「どうしたのですか?」

「いえ、申し訳ありません。できれば助けてあげてほしいのです」

「由香里さんは今どうしているのですか?」

「はい、気づけばいつも窓の外から何かを想うかのように見つめているのです」

「大丈夫ですか?」

「最近は大学にも通っておりません」

「なんとか連絡が取れないでしょうか?」

「それは出来ないです。電話すら管理されていますから」

「そんな‥‥‥」

「本来ならば申し上げる立場ではありません。ただ‥‥‥私に出来るのはここまでです。失礼いたします」


僕は、由香里さんの家に仕える、あの男性の寂しい後ろ姿を、呆然と見つめるしかなかった。

僕の中で何か崩れ落ちる音がした。


そして、僕の苦悩はさらに大きくなった。

何もできない僕が憎らしかった。


気がつくと、空には笑みのない星が瞬いていた。

僕はどうすればいい。

どうしたら由香里さんと連絡が取れるのだろうか。

由香里さんの笑顔が頭から離れることがなかった。

気づくと僕の頬から流れるものがあった。


これが、現実というものなのだろうか。

由香里さんの決められた人とはどんな人なのだろうか。

今、由香里さんは何を見て、何を思って、何をしているのだろうか。

そういった気持ちが行ったり来たりした。


僕は思わずベンチから立ち上がり家まで走った。

走って。息が止まるまで走りつづけた。

走りながら、何度も涙がこぼれた。


自宅に帰りつくと母さんが思わず僕に声をかけた。


「どうしたのかい? 何があったの?」


僕は何も言わず、布団に入った。

答えてしまうと、一気にためていたものが零れ落ちていきそうだったから。

そして、眠れない夜をまた過ごした。

僕が今できることを必死で考え続けた。


僕は歩み続ける決心をした。

それが、由香里さんと再会できる一歩だと思ったから。

すぐに会えなくても、必ず会える、そう確信した。

まずは、仕事探しから始めた。

土木作業の仕事が見つかり、面接を受け採用された。

幸いに職場の雰囲気も家庭的で親しい同僚と交流できるようになった。

僕は体力には自信があったので、次第に仕事にもなれていき、認められていった。

ただ、由香里さんのことは忘れることはなかった。

由香里さんの微笑み、香り、温かさがいつまでも僕の中にあった。

でも、今は失われている。

それだけが、僕の心に暗い影を落としていた。


「おい、拓真、何を考えている」

「ああ、友樹、なんでもないよ」

「どうせ、彼女のことでも考えているんだろう」

「いや‥‥‥」

「どうした、急に元気がなくなったじゃないか。失恋でもしたか」

「実は‥‥‥」


僕は友樹という同僚に事情を話した。

何とか解決の糸口を見つけたかったからだ。

彼も交際相手と別れ話を持ち掛けられたみたいで、互いに同じ悩みを抱えていた。


「俺の場合は彼女が別の男を好きになったみたいだが、お前の場合は違うから、何かの解決の方法があるんじゃないか? だけど、深刻だな」

「そうなんだよ。そもそも連絡が取れないんだ」

「直接、家に行ったらどうだ?」

「それは出来ないと思う。顔が知られているはずだから」

「行ってみないとわからないじゃないか」


同僚の勧めもあり、なんらかの打開策を見つけなければと思っていたので、

今までの経緯からして、困難であるのは想像できたが実行に移す決心をした。


その日の夜、僕は公園のベンチへと向かった。

僕の決心を固めるためだった。

ベンチに座ると由香里さんの笑顔が思い起こされ、

ますます、行かなければいけないという思いが募ってきた。

そう思うと全身が震えるようだった。


残月は静かに僕を見守ってくれていた。


僕は翌日になって、桐沢家の住所を調べた。

それが、現実と向き合う最初の一歩になるとは、その時はまだ知らなかった。

次話は重要な場面になるため、少し時間をかけて書く予定です。

よろしければ、ブックマークしていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ