第9話:魔石は「自動収穫」するものです
「む……残高が減ってきたな」
コタツでぬくぬくと温まりながら、俺は通販ウィンドウの右上にある『魔石残高』を見て独りごちた。 ログハウスの建設、家電の導入、アリスの服や食費。 快適な生活を追求すればするほど、資金(魔石)は湯水のように消えていく。
「稼がなきゃならん。だが、働きたくない」
この矛盾。 以前の俺なら、溜息をつきながら剣を持って吹雪の森へ出かけていただろう。 だが、今の俺は「システム管理者」だ。 システム屋の極意とは何か。それは「自分が動くのではなく、仕組みに動かさせる」ことにある。
「よし、設備投資だ」
俺は残った魔石を惜しみなく投入し、防衛・狩猟システムをアップグレードすることにした。
◇
『設置が完了しました。システム、オールグリーン』
数十分後。 俺はリビングのソファに深く座り、大型モニター(テレビ)を眺めていた。 映し出されているのは、家の周囲の監視カメラ映像だ。
俺が購入したのは以下の三点。
『獣害対策用・超高電圧電気柵(一万ボルト)』
『自動追尾式・圧縮空気タレット(鉄球発射モデル)』
『回収用ドローン・アーム付き』
「さあ、稼働テストといこうか」
昨日のカレーの匂いがまだ残っているのか、あるいは家の魔力に引き寄せられたのか。 森の奥から、凶暴な『レッドウルフ』の群れが十数匹、涎を垂らして近づいてくるのが見えた。
「ワンワン、ご飯の時間だぞー」
俺は手元のコントローラーで『自動迎撃モード』をオンにした。
バチバチバチッ!!
「ギャウンッ!?」
最初に柵に触れた一匹が、青白い火花と共に弾き飛ばされた。 一万ボルトの衝撃。即死はしないが、気絶するには十分だ。
仲間がやられて怯むウルフたち。 そこへ、屋根の四隅に設置されたタレットが旋回し、照準を合わせる。
プシュッ! プシュッ! プシュッ!
圧縮空気で発射された鉄球が、百発百中の精度でウルフたちの眉間を撃ち抜いていく。 悲鳴を上げる暇もない。 ただの作業だ。
モニターの中では、次々と魔物が沈んでいく。 俺はコタツに入ったまま、コーヒーをすする。
「……素晴らしい」
汗水流して剣を振り回していたのが馬鹿らしくなる。 これだ。俺が求めていたのは、この「効率」だ。
「さて、回収回収」
全滅を確認すると、俺はドローンを発進させた。 ウィィィン……と飛んでいったドローンが、倒れた魔物から魔石だけを器用に抜き取り、カゴに入れて戻ってくる。
「チャリーン♪」
通販ウィンドウの残高が増える。 完全自動化。究極の不労所得の完成である。
◇
「……あら? 何か大きな音が……」
その時、ポテチのカスを口につけたアリスが、タブレットから顔を上げた。 モニターを見ると、電気柵の前に巨大な影が映っていた。
『警告。大型個体を検知。タレット攻撃、無効』
現れたのは、体長3メートルを超える『オーガ(食人鬼)』だった。 分厚い筋肉と脂肪に覆われた巨体には、鉄球も電気ショックもあまり効いていないらしい。 オーガは怒り狂い、丸太のような棍棒で電気柵を叩き壊そうとしている。
「ガアアアアアッ!!(飯食わせろオオオ!)」
ドカッ! バチチッ! ドカッ! 激しい振動がログハウスに伝わる。
「む、さすがにBランク級となると、家庭用の防犯グッズじゃきついか……」
俺は眉をひそめた。 『ロケットランチャー』を買えば一発だが、あれは高いし、近所迷惑だ。 どうしたものか。
その時。 俺の足元で寝ていた「白い毛玉」が、ゆらりと立ち上がった。
「グルルゥ……ッ」
ポチ(フェンリル)だ。 昼寝を妨害されたからか、あるいは「俺の快適な縄張り(コタツ)」を荒らそうとする不届き者に腹を立てたのか。 その瞳は、完全に「殺る目」をしていた。
「お、行ってくれるかポチ」 「ワフッ!(任せろ、ただし報酬は弾めよ)」
ポチは器用に前足でドアノブ(レバー式)を下げて外に出ると、一瞬で本来の巨体へと変化した。
「ガァ?(あ?)」
柵を壊そうとしていたオーガが振り返る。 だが、遅い。
ドォォォォン!!
轟音と共に、白銀の閃光が走った。 フェンリルの爪の一撃。 オーガの上半身が消し飛び、雪原に赤い花が咲いた。 一瞬の出来事だった。
「キャウン!(終わったぞー!)」
ポチはすぐに小型犬サイズに戻ると、尻尾を振りながら家の中に戻ってきた。 雪を払うのも忘れ、俺の足元に飛びついてくる。
「よしよし、さすが神獣様だ。強いなぁ」
俺は通販ウィンドウを開き、約束の報酬を取り出した。 『最高級・本マグロの缶詰』。
パカッ、と開けた瞬間、ポチの目がハートになった。
「ハフハフハフッ!」
夢中でマグロを貪る神獣の頭を撫でながら、俺はモニターを見る。 ドローンが、オーガの残した特大の魔石を運んでくるところだった。
「セキュリティも万全。稼ぎも上々」
アリスは再びアニメに没頭し、ポチは腹を満たしてまた眠りにつく。 外は地獄の雪山だが、ここは楽園だ。 俺はこの「自動収穫システム」を眺めながら、二杯目のコーヒーを淹れることにした。
明日あたり、貯まった魔石でもう少し良いソファでも買おうか。 そんな平和な悩みを抱きながら。




