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過労死して転生したのに、異世界でも社畜やってました。 〜42歳、無能と追放されてようやく気づく。俺のスキル『現代通販』は、働くためじゃなく「サボる」ためにあったんだと〜  作者: コニシ・リョウ
1/5 【第1章:導入〜拠点完成編】

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第5話:朝食は「厚切りトースト」と「コーンスープ」

チーン。

軽快なベルの音が、アリスの意識を覚醒させた。 目を開けると、知らない天井。 だが、冒険者特有の不快な目覚めではない。 背中が痛くない。寒くない。それどころか、体がふわりと雲に包まれているかのように軽い。

「……ここは……天界……?」

アリスは呆然と身を起こした。 鼻腔をくすぐるのは、香ばしい香り。 焦げた小麦の匂いと、深みのある……そう、貴族が飲む「珈琲」のような豊かな香り。

彼女は恐る恐る布団(と呼ぶにはあまりに上質な羽毛の塊)から這い出し、匂いの元へと向かった。

「お、起きたか。おはよう」

リビングへ行くと、昨日助けてくれた初老の男性――ゲイルが、キッチンに立っていた。 彼は湯気の立つマグカップを二つ、テーブルに並べているところだった。

「あの、私……」 「難しい話は後だ。まずは飯にしよう。腹、減ってるだろ?」

ゲイルに促され、アリスは椅子に座った。 目の前に置かれた朝食を見て、アリスは目を丸くした。

「これが……パン、ですか?」

皿に乗っているのは、見たこともないほど分厚い、正方形のパン。 表面はキツネ色に焼け、その上で黄金色のバターがとろりと溶け出し、ジュワジュワと生地に染み込んでいる。

「『超・厚切り食パン(四枚切り)』だ。バターは惜しみなくな」 「い、いただきます……」

アリスは震える手でトーストを持ち上げ、一口かじった。

サクッ。

小気味よい音が響いた直後、フワッとした柔らかさが口いっぱいに広がる。

「え……?」

アリスの知っているパンではない。 冒険者が食べるパンといえば、歯が折れそうなほど硬く、酸味のある黒パンだ。 だがこれは、まるで綿菓子のように柔らかく、噛むほどに小麦の甘みが溢れ出す。

「……おい、しい……っ!」 「スープも冷めないうちに飲めよ」

言われて、黄色のスープを口にする。 『インスタント・コーンポタージュ(粒入り)』。 お湯を注いで混ぜただけの粉末スープだが、異世界人には未知の味だ。

「あま……い……!?」

トウモロコシの濃厚な甘みと、クリーミーな舌触り。 冷え切った内臓に、熱々の優しさが染み渡っていく。

「うっ……ううっ……」

気づけば、アリスの瞳から大粒の涙が溢れ出していた。 ポタポタとテーブルに落ちる。

「パンが……柔らかいです……スープが、甘いです……!」 「……そうか。そりゃよかった」

ゲイルは苦笑しながら、自分のゆで卵の殻を剥いている。 足元では、昨日は殺気立っていたフェンリルが、小型犬のようなサイズに縮んでゲイルの足にスリスリと身を擦り付けていた。

「クゥ〜ン(意訳:旦那、あの肉の棒をくれ)」 「はいはい、ポチも朝飯な」

ゲイルが『犬用ビーフジャーキー』を投げると、伝説の神獣は尻尾をブンブン振って飛びついた。 その姿は、ただの愛犬そのものだ。

完食し、『ドリップコーヒー(モカブレンド)』を飲み終えた後。 アリスは意を決して、ゲイルに向かって深々と頭を下げた。

「ゲイル様! お願いがあります!」 「ん? なんだ」 「私を、ここに置いてください! 掃除でも洗濯でも、何でもします! メイドにしてください!」

アリスの目は真剣だった。 もう、あの過酷な教会やパーティには戻れない。 戻りたくない。 この温かい部屋、柔らかい布団、そして美味しい食事。 一度知ってしまった「文化的な生活」を、手放すことなどできなかった。

ゲイルは顎鬚を撫でながら、少し考え込み……そして、あっさりと頷いた。

「まあ、いいか。一人だと話し相手もいないしな」 「ほ、本当ですか!?」 「ああ。ただ、掃除はあいつ(ルンバ)がやるし、洗濯も機械がやるから、仕事なんてほとんどないぞ?」 「へ……?」

アリスは首をかしげたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。 仕事がないなら、なおさら最高ではないか。

「ありがとうございます! お父さ……いえ、ご主人様!」

こうして、おっさんと聖女と犬の、奇妙な同居生活が確定した。

一方その頃。 ゲイルのログハウスから数キロ離れた森の中。

「くそっ……寒い……なんだこの雪は……!」

勇者レオン率いるSランクパーティは、地獄を見ていた。 昨晩からの猛吹雪でテントは倒壊し、火も起こせない。 頼みの綱だった回復役(聖女)も、雑用係ゲイルもいない。

「おい、ポーションはまだか!?」 「もうないわよ! 荷物は全部、あのおっさんに持たせてたんだから!」 「食いもんは!?」 「カチカチに凍った黒パンしかないわ!」 「ふざけんな! ……ああ、くそ、あいつの入れてたお茶が飲みてぇ……」

寒さと飢え。 そして何より、今まで当たり前のように享受していた「サポート」を失った喪失感。 彼らが自分たちの愚かさに気づき、後悔するのは、もう少し先の話である。


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