表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過労死して転生したのに、異世界でも社畜やってました。 〜42歳、無能と追放されてようやく気づく。俺のスキル『現代通販』は、働くためじゃなく「サボる」ためにあったんだと〜  作者: コニシ・リョウ
1/5 【第1章:導入〜拠点完成編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/18

第4話:迷い込んできた「娘」と「犬」

風呂上がりのコーヒー牛乳(瓶入り)を腰に手を当てて飲み干し、俺はソファでくつろいでいた。 時刻は深夜。 外は猛吹雪だが、断熱材とペアガラス、そしてエアコンのフル稼働のおかげで、室温は常に快適な二十二度に保たれている。

「さて、動画でも見ながら寝るか……」

通販で購入したスマホを手に取った、その時だ。 ブブブッ、と手の中で端末が振動した。 画面に『動体検知通知:玄関前カメラ』という警告が表示される。

「……あ? こんな吹雪の中にか?」

魔物だろうか。 俺は面倒くさがりながらも、アプリを開いて玄関先の映像を確認する。 暗視モードの画面に映っていたのは、雪に埋もれかけた「二つの影」だった。

一つは、巨大な白い獣。 もう一つは……人間?

「おいおい、嘘だろ……」

画面を拡大して、俺は息を呑んだ。 ボロボロの法衣。雪よりも白い肌。 見覚えがある。あれは国一番の治癒魔法の使い手、『聖女アリス』じゃないか。 なぜ、こんな辺境の森で行き倒れている?

「……見なかったことにするか?」

俺は一瞬、本気でそう考えた。 隠居生活にトラブルは御免だ。 だが、四十二歳の良心が「さすがにそれは寝覚めが悪い」と訴えてくる。

「……たく、社畜根性が抜けてねぇな、俺も」

俺は悪態をつきながらダウンジャケットを羽織り、玄関のドアを開け放った。

「重……っ」

なんとか二人(一人と一匹)を玄関ホールまで引きずり込んだ俺は、荒い息を吐いた。 温かい室内に、冷気が流れ込む。

白い獣――よく見れば、伝説の魔獣『フェンリル』だ――が、うっすらと目を開けた。 腹部には深い傷があり、血が滲んでいる。

「グルルゥ……ッ」

瀕死のくせに、俺を見る目は鋭い。 喉を鳴らして威嚇してくる。さすがは神獣、プライドが高い。 このままじゃ手当てどころじゃないな。

「はいはい、わかったから静かにしろ。……ほらよ」

俺は手慣れた手つきで通販ウィンドウを開き、あるものを購入した。 『最高級グレインフリー・ドッグフード(熟成ビーフ&野菜入り)』。 それを深皿に山盛りにし、フェンリルの鼻先に置く。

「グルッ!? ……フン、人間風情が……我を犬扱いするとは……」

フェンリルの目がそう語っていた。 だが、現代の食品科学が生み出した「熟成ビーフ香料」の破壊力は凄まじい。 鼻先をくすぐる濃厚な肉の香りに、神獣の鼻がピクピクと痙攣する。

「……ガウッ!」

プライドは一秒で崩壊した。 フェンリルは皿に顔を突っ込み、ガツガツと音を立ててドッグフードを貪り始めた。 尻尾がちぎれんばかりに振られている。

「チョロい犬だ。……さて、次はお前さんか」

俺はぐったりしている聖女アリスに向き直った。 顔は真っ赤で、呼吸が浅い。高熱があるようだ。 目の下には濃いクマ。手首は折れそうなほど細い。 ……ブラック労働の匂いがプンプンする。同類か。

「ポーションなんぞより、こっちの方が効くぞ」

俺は『総合感冒薬(金の微粒)』と、『栄養ドリンク(ロイヤルゼリー配合)』を取り出した。 アリスの上半身を抱き起こし、少しずつ口に流し込む。 苦味に顔をしかめたが、なんとか飲み込んでくれた。

そして、とどめだ。 俺はリビングに布団を敷き、その上に『電気毛布(ダニ退治機能付き・フランネル素材)』を広げた。 スイッチオン。温度設定は「強」。

「ほら、入るぞ」

アリスをそっと寝かせ、上から羽毛布団をかける。 数秒後。 電気毛布の熱線が、凍えきった彼女の背中をじんわりと温め始めた。

「……んぅ……」

アリスの強張っていた表情が、見る見るうちに緩んでいく。 それは、魔法による強制的な回復ではない。 科学と繊維が織りなす、極上の「ぬくもり」だ。

「……あたたかい……」

アリスは俺の袖を無意識に掴み、うわ言のように呟いた。

「……ここは……天国……ですか……?」 「いいや、ただの俺んちだ」

俺の答えが聞こえたのかどうか。 彼女は安心しきった顔で、泥のように深い眠りに落ちていった。

俺はため息をつき、ガツガツと飯を食い続ける犬(神獣)と、爆睡する娘(聖女)を見下ろした。

「……俺の平穏な隠居生活、初日から前途多難だな」

そう言いながらも、俺は二人が風邪をひかないよう、エアコンの設定温度を一度だけ上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ