第2話:おっさん、ログハウスを建てる(DIYチート)
一夜明け、冬の森。 『極厚・マイナス対応寝袋』の中で目覚めた俺は、大きく伸びをした。
「……ふあ。腰の調子は……まあまあか」
昨晩のビールは最高だったが、現実は甘くない。 手持ちの魔石は、昨日の爆買いでだいぶ目減りしてしまった。 優雅な隠居ライフを維持するには、資金——つまり魔石が必要だ。
「かといって、今さら剣を振り回して走り回るなんて御免だしなぁ」
以前のパーティでは、前衛のサポートをするために森中を駆けずり回っていた。 膝はガクガク、息はゼーゼー。 あんなのは若者のやるスポーツだ。四十二歳の運動不足ボディには荷が重すぎる。
「さて、大人の狩りを見せてやりますか」
俺は温かいコーヒー(缶)を飲み干すと、ウィンドウを開いていくつかの「仕事道具」を注文した。
『害獣対策用・有刺鉄線(カミソリ刃タイプ) 100メートル』 『業務用・超強力とりもちシート(象でも動けない)』 『カメラ付きドローン(スピーカー機能搭載)』
総額、魔石3個分。安い投資だ。
俺は魔物の通り道になりそうな谷間の獣道に、有刺鉄線ととりもちを設置する。 もちろん、自分が動くのは最低限。 あとは焚き火のそばに戻り、ドローンのコントローラーを握るだけだ。
「起動。……行ってこい」
ブィィィィィィン……という軽い羽音を立てて、ドローンが飛び立つ。 画面越しに森を探索し、凶暴な『ワイルドボア(巨大猪)』の群れを発見した。 俺は手元のマイクスイッチを入れる。
『あ〜、テステス。……オラオラ! こっちだ豚野郎!』
ドローンのスピーカーから、俺の挑発が大音量で流れる。 突然の騒音に激怒したボアたちが、ドローンを追いかけて猛突進を始めた。
「よしよし、いい子だ。そのまま真っ直ぐな」
俺はあくびを噛み殺しながら、スティックを親指で倒すだけ。 ドローンに誘導された猪突猛進の群れは、そのまま俺が仕掛けた罠エリアへと雪崩れ込んだ。
――ギャギィィィッ!!
悲鳴が上がる。 先頭が強力な粘着シートに足を取られて転倒し、後続がそれに突っ込み、さらに有刺鉄線が絡みつく。 地獄絵図だ。だが、俺は指一本触れていない。
「さて、あいつらが弱るまで……二度寝するか」
俺は寝袋に潜り込んだ。 勇者レオンたちは「レベル上げだ!」と言って徹夜で狩りをしていたが、実に非効率だ。 寝て起きたら獲物が手に入っている。これこそが、大人の余裕というやつだろう。
◇
数時間後。 罠にかかって絶命、あるいは瀕死になっていた魔物たちから魔石を回収した俺は、ホクホク顔だった。
「大漁、大漁」
回収した魔石は、ざっと五十個。 これだけの資金があれば、アレが買える。 男の夢。一国一城の主。 俺はずっと目をつけていた「超高額商品」をポチった。
『北欧風・高級ログハウスキット(※施工サービス付き)』
「施工サービス付き」というのがミソだ。 DIYは嫌いじゃないが、一から丸太を組む体力はない。 購入ボタンを押した瞬間、目の前の広場に巨大な魔法陣のような光の枠が出現した。
ズズズズズ……!
地響きと共に、雪を溶かして整地が行われ、虚空から現れた極太の丸太が勝手に組み上がっていく。 屋根が乗り、窓がハマり、断熱材が詰め込まれる。 その光景はまさに圧巻。現代建築技術と異世界魔法の融合だ。
ものの五分もしないうちに、森の中に似つかわしくないほど立派な「新築一戸建て」が完成した。
「……すげぇ」
重厚な木の壁。三角屋根には煙突。 そして建物の裏手には、異世界には存在しないはずの『エアコン室外機』が鎮座し、シュールな存在感を放っている。
俺は雪を踏みしめ、真新しい木の階段を上がった。 ドアノブを回す。 カチャリ、と小気味よい音がして、重い扉が開いた。
フワッ……。
鼻腔をくすぐるのは、新築特有の、清々しい木の香り。 まだ誰も住んでいない、俺だけの城。
「ここが……俺の終のすみかだ……」
靴を脱いで、真新しいフローリングに足を踏み入れる。 冷たい風も、魔物の鳴き声も、ここには届かない。
俺はリビングの真ん中で大の字に寝転がった。 天井が高い。 誰にも命令されない。誰にも邪魔されない。
「最高だ……」
だが、快適な生活にはまだ足りないものがある。 俺はニヤリと笑い、再び通販ウィンドウを開いた。 次は「中身」を充実させる番だ。




