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彼女の運命を変えるために、ボクは何度でもやり直す  作者: 末次 緋夏


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第8話 すこしずつ近づいていく“何か”



目が覚めたとき、胸の奥にはまだ昨夜の温もりが残っていた。


(……プロポーズ、成功したんだよな)


夢じゃない。

ユキは泣きながら「うん」と言ってくれた。


朝のリビングは、いつもより少しだけ明るく見えた。


だが、その明るさはどこか“無理やり灯している光”のようにも感じた。


ユキは、いつものように味噌汁を飲んでいる。

ただ、手元の動きがぎこちないように見える。


(……疲れてるのか?)


ほんの小さな違和感。

でも、たったそれだけで胸の奥がざわついた。




『おはよ~、コウくん』


ぴょこ、ぴょこ。

レオナがスリッパ代わりに床を跳ねて近寄ってくる。

そしてそのままソファに座る


今日も影が揺れない。

足音もしない。


もうそれが“当たり前の日常”に感じ始めている自分がいた。


コウは小声で尋ねる。


「昨日の……あれで、少しは変わったのか?」


『ふふん。

 何がとは言わないけど……ちょっとだけ前に進んだよ』


「ちょっとだけ?」


 問い返すと、レオナは眠たげに目をこすった。


 その動きに合わせて、部屋にふっと静かな間が落ちる。


 ソファの上からーー

 レオナは“見えていないはずのユキ”の方へ、ゆっくり視線を向けた。


 ユキをじっと、じっと見つめる。


 色の薄いその瞳に、かすかな影が揺れた。


 寂しさというより……

 触れたくても触れられない何かを見ているような、そんな表情。


『……でもね』


 ぽつりとこぼれる声は、いつもより少しだけ小さかった。


『まだぜんぜん足りないよ』


 その言葉の裏側にある“本当の気持ち”は、やっぱり言ってくれない。


 だけどーー

 レオナの尾を引くような視線が、何より確かな答えだった。


(……まだ何かあるってことか)



ーー家を出る直前、ユキの足がふと止まった。


「……あ、今日の資料……」


部屋に戻り、鞄に何か押し込む。

その動きが慌ただしくて、どこか不安げだ。


「ユキ、大丈夫? 最近忙しいのか?」


ユキは振り向いたが、目を合わせなかった。


「うん……その……ちょっとだけね。

 大丈夫だよ、コウくん」


その“いつもの言葉”が逆に胸に刺さる。


(……ユキ。どうして目をそらすんだ)


なにか隠している気配。


だが、今のコウにはまだ理由がつかめない。



仕事中、PC画面を見つめても、

頭の中はユキのことでいっぱいだった。


(昨日の涙……

 あれは“過去の話をされた”ことへの涙……じゃなかった)


(もっと奥に……何かある、そんな気がする)


すると隣から田崎が声をかけてきた。


「五十嵐さん……今日、疲れてません?

 顔色、ヤバいですよ?」


「……そうか?」


「最近、ユキさんもそんな感じで……

 あ、いや、なんでもないっス」


「……田崎、今のどういうことだ?」


田崎は慌てて手を振った。


「いやほんとに!

 ただ、この前偶然駅で見かけたんですけど……

 なんか、うつむいてたっていうか……

 元気なかったっていうか……」


その言葉が胸に引っかかった。


(駅で……?

 俺といる時じゃなく……一人の時に……?)


田崎は続ける。


「でも、ユキさんって優しい人だから、

 会社でも結構“頼られちゃうタイプ”じゃないですか。


 断れないっていうか……

 背負っちゃうっていうか……」


その瞬間、胸の奥に“何か”が形を持った。


(……ユキは

 他人のことを抱え込みやすい性格だ)


思い返すと、心当たりはいくつもある。


誰も見ていないところで働きすぎる。

頼まれたら断らない。

限界まで抱え込んで、笑って隠す。


(……ユキ……

 やっぱりお前は……ずっと一人で戦ってたんだな)



昼休み。

デスクで頭を抱えているコウの前に、

ぴょこぴょことレオナが飛び乗ってくる。


『ねぇコウくん。

 仕事も……ちょっと見たほうがいいかもよ?』


「仕事……?」


『うん。

 ユキ、ね……最近ね……』


と言いかけて、口をつぐんだ。


「なんだよ。そこ言ってくれれば早いんだよ」


『だーめ。

 “教える”のはルール違反。

 でも、“ヒント”なら言える』


レオナはコウの手元のカレンダーを指した。


『記念日……数日後だよね?』


「……ああ」


『じゃあさ。

 その“直前のユキ”に何があったか。

 探してみよっか』


レオナはぴょこんとしっぽみたいな髪を揺らした。


『すこしずつだけど……

 コウくん、原因に近づいていってるよ』


その言葉に胸が熱くなる。


(救える……

 ユキを、今度こそ……)


だがこのときのコウは知らなかった。


“仕事の悩み”はただの入口にすぎないことを。




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