後日談
それは休日の午後の出来事。
窓から差し込む光が、部屋の中をやわらかく照らしていた。
俺はリビングのテーブルに紙を広げ、
静かに水彩の筆を走らせていた。
筆先が紙をなでるたび、淡い色が滲み、重なり、形を作っていく。
陽だまりみたいに静かな空気。
だけどその背中には、どこか切なさと、祈るような思いが宿っていた。
ユキがキッチンから顔を出し、ふとその姿に気づく。
「……コウくん、何描いてるの?」
そう尋ねる声は不思議そうで、どこか少しだけ怖がっているようでもあった。
俺は筆を置くと、紙をそっとユキに見せた。
「……俺が見た、レオナの姿」
ユキはそっと歩み寄り、絵の前で膝をつく。
そこにはーー
ふんわりした黒髪、
あたたかい緑色の瞳、
いつもより少しだけ柔らかい表情の“少女”が描かれていた。
ユキの呼吸が、ひとつだけ震える。
「……レオナは、こんな姿だったんだね……」
その声は驚きより、懐かしさに満ちていた。
ユキは絵にそっと指先を伸ばし、
まるで愛しいものを撫でるように優しく触れた。
紙越しなのに、指先に確かに“温もり”が伝わった気がした。
ぽたり。
ユキのまつ毛から、透明な涙が一粒落ちる。
「……会いたいな……レオナ……
きっと、見ていてくれるかな……?」
小さく震える声でそう話す。
コウは言葉に詰まりながらも、そっとユキの背中に手を添えた。
「うん。きっと……見てるよ。ずっと」
二人の影が絵に落ちる。
その瞬間だった。
絵の中のーー
レオナの緑の瞳が、ふっと光を帯びたように見えた。
一瞬の錯覚か、本当に残された奇跡なのか分からない。
けれど、それは確かに“レオナらしい光”。
次の瞬間、窓からやわらかな風が吹き込み、
カーテンが風にゆられてふわりと揺れた。
ユキは涙を拭いながら微笑む。
「……レオナだ」
風は優しく二人の間を通り抜け、
絵の端をそっと揺らした。
まるで、あの子が言っているみたいだった。
ーー大丈夫。見守ってるよ。
これからも、ずっと。




