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彼女の運命を変えるために、ボクは何度でもやり直す  作者: 末次 緋夏


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◆ 最終話 そしてこれからも


 レオナは静かに俺たちを見ていた。

まるで、すべてのループを見届けたような目で。


『……コウくん。もう言わなきゃいけないことがあるの』


その声はやわらかくて、でもどこかで覚悟している声だった。


「……寿命の話だろ」


レオナはこくりと小さく頷いた。


『うん。本当はもっと前に言わなきゃいけなかったんだけど……

 言ったら、きっとコウくんは止まってしまうから』


「俺は……後悔なんて」


『ううん、違うよ。

 コウくんはユキを守るためなら、自分を投げ出す子だから』


その瞬間、胸が締めつけられるように痛かった。

レオナは少し笑った。


『でもね……代償ってね、

 “命の量”が減ることじゃないんだよ』


「……え?」


レオナはゆっくりと俺の胸に手を置いた。

小さくて、あったかい手。


『コウくんが短くなるのは “時間そのもの” じゃなくて……

 “ユキといられる未来の長さ” のほうなの』


「……っ」


『それでも生きる?

 ユキのそばで、残された未来を一緒に歩く?』


そんなの答えは決まっている。

迷いなんてひとつもない。


「構わない。

 短くてもいい。

 俺は……ユキと、生きていく」


ユキが涙をこぼした。

その涙を、レオナはそっと指でぬぐう。


『……よかった』


その瞬間、レオナの体がふわりと光を帯びた。


光の粒が服のすき間からこぼれるように溢れだし、

風に舞うみたいに空へ昇っていく。


「……やだっ……待って……!

   レオナ……行かないで……!」


ユキが光を掴もうと手を伸ばす。

見えないはずのレオナを。光を。

でも、指のあいだをすり抜けてしまう。


「レオナ……っ、まってくれ……」


俺の声も震えていた。

レオナは光に包まれながら、

小さな笑顔をこちらに向けた。


『大丈夫だよ……

 ボクがいなくても、もう二人は大丈夫だよ。

 ーーコウくんがいるから』


ユキの手を見て、レオナは微笑む。


『ユキ。もう抱え込まなくていいよ。

 泣きたいときは泣いていい。

 弱くても、壊れても……

 コウくんはあなたを離さないから』


そして最後に。


『ユキをよろしくね、コウくん』


まるで、大事な宝物を託すように。


光は優しく揺れて、

ふわり、と。


静かに、静かにーー消えた。


あれから季節は流れ、冬から春になった。

2人の薬指には指輪が付いている。

ユキは少しだけふっくらして、

前よりも自然な笑顔を見せてくれるようになった。


相変わらず仕事帰りは疲れているけど、

前みたいに潰れそうな顔ではない。

職場の人たちと上手くやれているようだ。

ーーユキ自身が変わったから。



ユキ父とはゆっくり距離を戻し、

ユキ母とも時々メッセージを送り合っている。


「少しずつでいいよ」


そう俺が言い続けた結果だ。


子どもはいない、無理に作らなかった。

この先、どうするかは分からない。

俺はユキが自分の足で立てるようになるのを

大事にしたかったから。



ーーある日の出来ごとだ。

それは買い物の帰り道の出来ごとだった。

夕暮れの公園の前を通りかかると、家族連れの中に一匹の猫がいた。カゴに入っているようだ。

その猫は同じ色の目をしていた。俺はふと気になって隣にいるユキに声を掛けた。


「……猫、飼う?」


ユキは微笑んで首を振る。


「ううん。

 レオナは……レオナだから。

 あの子の代わりなんていないよ」


そして夕暮れの空を見上げる。


「ただ……どこかで見ていてくれたらいいなって。

 私、幸せだよって。

 ちゃんと、生きてるよって」


ユキの手を、コウはそっと握る。

今度は離さない。


「行こう。これからも、ずっと」


「うん……」


二人で歩き出す。


もう誰もいないように見える夕暮れ。

でも、ふわりと風が吹いた。


あの日と同じ、レオナが跳ねるときの、柔らかい気配がした。


この先も、生きていく。

三人で、ちゃんと紡いだ未来を。



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