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彼女の運命を変えるために、ボクは何度でもやり直す  作者: 末次 緋夏


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第21話 邂逅

退院した日の午後。

ユキの実家に向かうまで、ユキの手はずっと震えていた。

握っているだけで、その震えが伝わってくる。

それは恐怖なのか、覚悟なのか……その両方だった。


それでも、ユキは一歩も引かなかった。

逃げずに俺の手を握り返してきた。


(……偉いよ、ユキ。

 あの日の続きに、やっと触れるんだもんな)


玄関を出た瞬間、冬の風がユキの髪を揺らした。

その冷たさで、ユキが小さく息を呑むのが分かった。


それは“帰りたくなかった家”へ向かう足取りだった。


ピンポン、とチャイムが鳴る。

しばらくして玄関が開いた。


「……ユキ? なんで急に……」


驚いたように目を細めた父の表情は一瞬だけ。

次の瞬間には、

ぴたりと貼りついた“理想の父親”の仮面へと戻っていった。


「おお、コウ君も来てくれたのか。まあ、入りなさい」


その丁寧な物腰は隙がなく、完璧で、

逆に“人の感情が生きていない”ようにすら見えた。


家に上がると、空気は凍るように静かだった。


ーー整いすぎている棚の上。

ーー新品みたいな綺麗なラグ。

ーーずれのないテーブル。

そこは生活の乱れが許されていない家だった。


(……ここだ。

 ユキが“泣くことすら許されなかった家”だ)


喉の奥がぎゅっと塞がる。



三人でソファに腰を下ろす。

だけど座った瞬間から、ユキのお父さんは当然のように語り始めた。


「で、何の話だ? まさか母親のことか?

 また余計なことを……」


その瞬間、ユキの肩が硬い音を立てて跳ねた。

父は気づかない。


「ユキ、お前は母親とは違う。

 あの女の血が入っているのは……まあ、不運だが」


空気が “ばちっ” と弾けた。

レオナが獣のように身体を震わせ、

小さな拳をぎゅうっと握りしめて、父を睨む。


『……それ、絶対に言っちゃいけない言葉だよ』


普段眠たげなレオナの声が、

まるで鉄でできているみたいに硬かった。



俺の胸が一気に熱を帯び、気がつけば声が出ていた。


「お父さん。それ……やめてください」


ユキのお父さんは驚いたように眉を上げた。


「何だ急に。私は本当のことを」


「ユキは、ずっと苦しかったんです」


俺の声は震えているのに、

不思議と一言も揺るがなかった。


「“似るな”とか、“あの女の血が入ってる”とか……

 言われるたびに、ユキは傷ついてたんです」



俺の隣で、ユキの指が小さく震えた。

ぽたり、と涙が落ちる。


「……ユキ?」


がかすかに揺れたユキのお父さんの声。

いつも完璧に整えられていた“父の形”が、ようやく揺らいだ。


ユキは唇を震わせ、

押しつぶされていた言葉を、初めて外に出した。


「……お父……さん……

 本当はね……ずっと言いたかったの……」


「お母さんのこと……悪く言わないで……

 私……すごく大好きだったの……!」


声が震え、涙があふれる。


「“似るな”って言われるたびに……

 私……私……消えたくなるくらい、苦しかったの……っ」


部屋の空気が急激に変わる。

暖房がついているのに、どこか寒く感じる。


ユキは泣きながら言い続けた。


「私は……お母さんの子で……

 それが嫌だったことなんて一度もないのに……

 “違う、違う”って否定されるのが……いちばん……痛かった……」


俺はユキの手をそっと支える。

ユキもぎゅっと握り返してくれる。


その姿を見て、父の目が大きく開いた。


父は何かを言おうとして――

震える声でたった一言を落とした。


「……私が……間違っていたのか……?」


その声は、

これまでの硬い、冷たい言葉とは全く違っていた。

長年家の空気を縛っていた“呪い”が、

ゆっくりと剥がれ落ちていく音がした。


レオナが、静かに目を伏せて言う。


『……やっと、ほどけたね……』


父の家を出ると、夜風が身体を包んだ。

冷たさが逆に心地いい。


ユキは泣き疲れたのか、

小さくコウの袖を掴んで歩いていた。


その指先はまだ少し震えていたけど、

どこかほっとしているようにも見えた。


夜の道は静かで、

さっきの家の張り詰めた空気とはまるで別の世界だった。


コウは深く息を吸い、意を決して口を開く。


「ユキ、信じてもらえないかもしれないけど。

 俺、実は……」


横でレオナが静かに頷く。


『言ってあげて、コウ君』


「……俺、時間を巻き戻してるんだ。

 何度も何度もユキを失って……

 それで、レオナに願ったんだ。

 “もう一度やり直させてください”って」


ユキの足が止まる。

風の音まで止まったような沈黙。


「え……? レオナ……って……」


その名前を口にした瞬間ーー

ユキの肩がびくっと大きく震えた。


まるで頭の奥の“鍵”が回るみたいに、

ユキがこめかみに手を当てる。


「……あれ……?

 レオナって……知ってる……?」


レオナの緑の瞳が大きく見開かれた。


『ユキ……?

 もしかして……覚えてるの……?』


ユキの瞳が揺れ、

ぽたりと涙がこぼれ落ちる。


『あなた……あの時……私を……!』



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