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彼女の運命を変えるために、ボクは何度でもやり直す  作者: 末次 緋夏


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第12話 会いに行くコウ


ユキの実家からの帰り道、

俺はずっと胸の奥にひっかかった棘を指でなぞるような気分だった。言葉に出来ない違和感。

今までの人生でこんな感覚になったのは初めてだ。


(……ユキの母親。やっぱり原因はそこなのか?)


ユキの父の話を全部信じていいのかは分からない。

それでも、あの“娘は俺の言った通りに育った”と言い切る声は、

どうしても“母親のせいで家庭が崩れた”という物語に俺を引きずり込んだ。


(……ユキを苦しめた元凶がいるなら、知りたい。

 そして出来るなら……話したい)


そんな思いが頭の中で渦を巻く。


家に帰ってもユキはどこか上の空で、

妙に穏やかな笑顔を浮かべていた。

その笑顔はーーどうしてか、痛々しかった。


(……ユキには言えないな。余計な不安を与えたくない)


気づけば、翌日にユキの母親へ連絡を入れていた。

ループ前の葬儀の時に、形式的に交換した連絡先。

まさかこんな使う日が来るとは思わなかった。


最初は詐欺なのか疑われた。当然の反応かもしれない。この世界線では初めての接触なのだから。

だけど、ユキの名前と誕生日、ユキと交際していること、ユキのお父さんの名前、それらを話すと信じてくれたようだった。



その結果、明日指定された喫茶店で会うことになった。

その様子を、横でレオナが俺をじっと見ていた。


『ユキのお母さんに、会いに行くの?』


「……ああ」


『そうなんだ……』


その声はいつもより少しだけ低かった。

何かを言いかけて飲み込んだような、そんな沈黙。


「……何か言いたいことでも?」


『……ううん』


俯いたまま、小さく首を振る。

それ以上、何も言わなかった。


(……レオナは母親のこと、あんまり触れてほしくないのか?

 でも……理由は分からない)


レオナの沈黙が胸に引っかった。その日はなかなか寝付くことが出来なかった。ユキの母親に会うのに緊張しているのかそれとも別の理由なのか。


風呂に入り、布団に潜る。

天井の模様をぼんやり見つめながら、

眠れないまま時間だけが過ぎていく。


隣でユキは静かに寝息を立てていた。


(……変だ)

(全部つながりそうなのに、最後のひとつが見えない)

(何か“決定的なピース”があるはずなのに……)


喉の奥が乾くような、正体のない焦りが胸を締めつける。


(分かってる。

 本当は……もう分かってるのかもしれない。

 でも、触れるのが怖いんだ。

 気づいた瞬間に何かが壊れそうで……)


自分の中のどこかが、わざと目をそらしている感覚。

眠れない理由は疲れでも緊張でもなく、

“見てはいけない何か”を前にして震えているだけかもしれなかった。



翌日、ユキの母親に会うために家を出た。

ユキには「友人に会いに行く」と嘘をついてしまった。心苦しかったけど仕方ない、そう自分に言い聞かせた。

外の空気はまだ朝の冷たさを少し残していた。

レオナはいつものように“ぴょこぴょこ”とついてくる。


『コウ君、歩くの早いよ〜』

 

レオナの少し困ったような声が聞こえてくる。

俺は一度立ち止まった。そして、振り返ってレオナの方を見た。


「……お前、嫌じゃないのか?ついてきて」


俺がそう話すと、緑の瞳が少し笑っていた。


『嫌も何も……そもそも私はコウ君からあまり離れられないからね。

 そういう契約だから』


「……契約、ね」


契約。1回やり直すごとに寿命一年。やり直しのこと。まだ分からないことだらけだ。


(……コイツの正体、本当に何なんだ?)


空を見上げると、雲ひとつない。

なのに胸の奥は重く、霞がかったように息苦しい。


(……まあ、でも……レオナがいなかったらユキにも会えなかった)

(それだけは……感謝してる)


自然とそんな言葉が胸に浮かんだ。


歩いていると、急に息が詰まる。


「……っ、は……?」


軽い息切れ。胸がじりっと熱を持つ。

昨日は普通に歩けていたのに。


『コウ君……?大丈夫?』


「大丈夫、大丈夫……疲れてるだけだよ」


言い訳みたいな声が漏れる。


(……寿命、一年。

 早速、何か影響出てるのか?

 いや、考えすぎだ。多分……疲れてるだけ)


胸のざらつきを誤魔化すように歩き続けた。



指定された喫茶店の中は少し薄暗い雰囲気を漂わせていた。ユキの母親はどこか辺りをみわたす。

だけど、じっくり見なくてもすぐに分かった。


ユキの母親はカウンター席の奥に座っていた。

派手なネイル、金のブレスレット。

年齢の割に若作りなミニスカート。

明るすぎる口紅。


(……っ)


そして葬儀の日、泣いたあとに電子タバコを吸っていたあの横顔。


格好は違ったけど間違いなくユキの母親だった。

こちらに気づくと、派手な笑みを浮かべた。

あらかじめLINEで写真は送っていたから。


「はじめまして……よね、コウくん」


その瞬間、背筋に冷たいものが走った。

それは得体のしれない感覚だった。


(……なんだ、この違和感)


あの日から胸に残っていたざらつきが、

一気に輪郭を持ち始める。


ユキ父のあの厳しい言葉。

ユキの沈んだ曇った顔。

レオナの何か言いたげな沈黙。


全部が、喫茶店の薄暗い空気の中で重なり始めた。


(俺は……大きな勘違いをしているのか?

 それともーー)


まさか、このあと“衝撃の事実”を知ることになるなんて。この瞬間の俺はまだ知らなかった。


ただ胸の奥の不穏だけが、

ゆっくりと形を帯びていくのを感じていた。




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