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彼女の運命を変えるために、ボクは何度でもやり直す  作者: 末次 緋夏


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第11話 ユキの家庭に潜む罠

 

 ユキの実家へ向かう道中、ユキはずっと無言だった。俺の手を握っているのに、指先はひんやりと冷たい。その横顔はいつもの、明るい雰囲気に影を落としていた。


(……相当緊張してるな)


だから俺はユキにこう話しかけた。少しでも安心できるようにしたかった。


「大丈夫だよ、ユキ。俺がついてるから」


繋いでいる手をぎゅっと握り返してこう伝えた。

俺に出来ることは出来るだけしたかった。


「……うん。ありがとう」


俺の言葉と握り返した手に安心したようだ。白かった顔に少しだけ色が戻ったように見えた。


その様子をじっと見ていたらしいレオナ。


『ありがとう……コウ君。ユキ、安心したみたいだよ』


穏やかな声が後ろから聞こえてきた。それを聞いた俺も少しだけ胸を撫で下ろした。


そうしているうちに、ユキの家の前まで着いた。

ユキの家は普通の一軒家だ。どこにでもあるような。訪れるのは、同棲の挨拶をしに来た時以来か。



玄関のチャイムを鳴らすと、ドアが開いた。出迎えてくれたのはユキのお父さんだった。


「お、コウくん。よく来てくれたね」


優しげな笑顔。そして丁寧な物腰。

どこにでもいるような「普通の父親」の姿だ。


「お邪魔します」


案内されたのは、きちんと整えられた和室。

テーブルの上には湯のみが三つある。

その“ひとつだけ空いた席”に、何故か俺の胸はざわついた。


(……ユキのお母さん、今日はいないのか?)


少し考えたあと、さりげなくユキに訊ねた。


「そういえば……ユキのお母さんは?」


その瞬間、部屋の空気が氷点下になったように感じた。

ユキ父の表情は険しくなり。湯のみを持つ手が、ぴたりと止まった。


「…………ああ」


ユキのお父さんはゆっくりと顔を上げる。

さっきまでの柔らかさが霧散していた。


「別にいなくてもいいんだ、彼女は」


何処か突き放したような声だった。ユキから「離婚している」と事前に聞いているとはいえ、こんなに冷たいものなのだろうか。両親がそろっている俺にはいまいち理解が出来なかった。ユキのお父さんは続けてこう話し始めた。


「……あの人の話は、もうしないほうがいい」


そう話した時。横で、ユキの肩が小さく跳ねた。


「…………っ」


ユキの表情が更に冷えた。

目の奥だけが、凍ったみたいに動かない。


(ユキ……そんな顔、今まで見たことない……)


俺はユキのために少しでも場の空気を変えようと必死に弁明した。もしかしたら不自然だったかもしれない。


「いや……その、気になって……」


俺が答えると、ユキ父は腕を組み、ひとつため息をついた。


「暗い話題はしたくないんだがね……あの女は、ろくでもない母親だったんだよ」


そう話す声はどこか悲しかった。まるで自分自身を責めているようで。


「家のこともしない。自分勝手。

 ユキには、あの人の血なんてひとつも似なくてよかった……本当に……」


確かに、ユキの外見はお父さんにとても似ている。

葬儀の日に会ったお母さんは喪服を着ていたけど何処か派手な印象だった。ユキとは正反対だ。

だけど何故か。


(……なんか、変だな)


言葉にできない違和感が、胸につっかえる。

だけど今の俺にはそれを説明できるだけの語彙が分からなかった。


その時だった。

俺の隣でちょこんと座っていたレオナが、

ユキのお父さんの隣に移動した。


その小さな拳を、ぎゅうっと握りしめる。


(……レオナ?)


緑の瞳が細まり、ユキのお父さんを鋭く射抜く。

その視線は、まるで刃物みたいに冷たかった。


(ユキ母の話……そんなに嫌だったのか?

 そりゃ……ユキの家は複雑だったんだろうし……)


レオナの視線は、ユキ父の言葉の端々を、ひとつひとつ観察しているようだった。


「ユキは母親に似ず、本当に良かったよ。

 ……なぁユキ、お前はな、俺の言った通りにまっすぐ育ってくれた」


どこか満足げな声音でそう話すユキのお父さん。

詳しく聞くと、ほとんどひとり親状態で育てたようだ。その苦労は並大抵ではないだろう。


だけど、その言葉にユキは何故か小さくうつむいた。目元も今にも泣きそうなくらいに震えている。。


(ユキ……?)


俺がそっと手を伸ばそうとした時、ユキはふいに笑った。


「……うん。ありがとう、お父さん」


その笑顔は……何かを押し殺すみたいな笑顔だった。


(……あれ?)


五十嵐家で見せた柔らかい笑顔とはまったく違う。

でも俺には、その違いの意味がまだ分からなかった。


(ユキ母が……そんなに酷い人だったのか……

 ユキが避けるのも無理ないよな……

 レオナが怒ってるのも……母親のせいなのか……)



そうーー

この時の俺は本気で“そう信じた”。


レオナが見ているものが、

本当はまったく別のものだとは知らずに。



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