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彼女の運命を変えるために、ボクは何度でもやり直す  作者: 末次 緋夏


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第9話 仕事場でのユキ②


 その夜、俺たちはいつものように二人で夕食を囲んでいた。


 テーブルの上には、ユキが買ってきた惣菜と、俺が急いで作った味噌汁。  

白い湯気がゆらゆら揺れて、温かな家庭の景色をつくっているはずだったのにーー


(……嘘だろ。

 なんで、こんなに“ぎこちない”んだ……?)


 箸を持つユキの手が、かすかに震えていた。


「今日も忙しかったのか?」


 俺が訊ねると、ユキは一瞬、肩を揺らした。


「あ……うん。ちょっとだけね。

 でも、大丈夫だよ……」


 “その言葉”はいつだって同じ。

 大丈夫じゃなくても「大丈夫」と言う癖。


(ユキ……どれだけ抱え込んでるんだ……)


 胸の奥がふつふつと痛む。


 すると、ソファの上で体育座りしていたレオナが、あくびをしている。まるで猫みたいだ。



「やっぱり……ご飯、俺が作るよ。今日くらいさ」


 惣菜の袋に手を伸ばしながら、俺は続けた。


「ユキ、最近忙しいんだし……家のことくらい任せてよ」


 すると、ユキの動きが止まった。


「あ……うん。ありがとう。

 本当に……ありがとう、コウくん……」


 ぽつり、ぽつりと言葉が落ちる。


 その声は、どこか泣きそうで――


「ユキ……?」


「ううん、大丈夫……。

 なんか……嬉しくて……」


 笑ったまま、ユキの目の端に光るものがあった。


(……よかった。

 こういう小さなことで……救えるなら……)


 俺は胸の奥が少し軽くなるのを感じた。


 しかし。


 レオナは前髪の隙間から、じっとユキを見つめていた。


 『…………』



 「なんだよ、レオナ」


 『別に……。

 コウくんが“ありがとう”を言わせて安心してるの、

 ちょっとだけ……こわいなって思っただけ』


「は?」


 意味が分からず眉を寄せると、レオナは首をかしげて言った。


 『ユキはね……“ありがとう”って言った時、

 同時に“ごめんなさい”って思ってるように見えるんだよ』


 胸がざわりとした。


 しかし、その理由を深く考える前に、ユキが口を開く。


「ねぇ、コウくん……」


「ん?」


「……仕事、もう少しがんばってみようと思うの。

 任されてるって……悪いことじゃないよね?」


 ユキは自分に言い聞かせるように笑った。


(“任されている”……

 いや、それは違う。押しつけられてるだけだ)


 喉まで出かかった言葉を飲み込む。


 あの職場の空気を思い出すたび、背中が冷える。


(でも……今言っても、ユキを余計苦しめる……

 どうする……俺……)


 沈黙を破ったのはユキだった。


「……コウくん。

 記念日のこと、覚えててくれて嬉しかったよ」


「当たり前だろ。俺たちの、大事な日なんだから」


 ユキは照れたように笑った。


 その笑顔は――

 どこか遠くに感じた。



 翌日。


 俺は外回り帰りに、ユキの職場から少し離れた場所に立っていた。


 昨日の光景が頭から離れなかった。


(あんな環境で……

 ユキ、本当に大丈夫か……?)


 じっと見つめていると、ユキの部署の前で誰かが言う声が聞こえた。


「ユキちゃん、この前のミスの件さ、

 後でまた説明するね〜。

 ちゃんと覚えといてよ?」


「は、はいっ……! すみません……!」


 聞いているだけで胸が苦しくなる。


 俺の足は勝手に前へ踏み出しそうになった。


 その瞬間。


『コウくん』


 肩の上でレオナがつぶやいた。


『“近づいてる”よ。

 ユキの死ぬ理由に……ほんの少しずつ』


 吐く息がかすかに震えた。


(やっぱり……仕事だけが原因じゃない)


 そう直感した。


 ユキの心にある“もっと深い痛み”。

 そこに近づく鍵は、まだ見えていない。


『焦らないでね。

 ユキの心は……とても複雑だから』


 レオナはいつも通り眠そうに言ったが、

 その目の奥には、暗い色が沈んでいた。


(……ユキ。

 俺は必ずお前を守るから)


 その決意を胸に刻んだ瞬間、

 胸の奥がまたズキ、っと痛んだ。


「……っ!」


『また寿命……削れたね』


 レオナがかすかに笑った。


 その笑みに、どこか哀しみがにじんでいた。


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― 新着の感想 ―
一気に読んじゃいましたわ〜 少しずつユキさんのわずかな振る舞いに気づき始めてきましたね。 ホントに自分で抱えすぎる娘は、カミングアウトしないですからね…。世間でも鬱と自殺率の高さは真面目すぎる故、さ…
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