第一話 新しい同室の女の子
お兄ちゃんが孤児院から出て、私は年上の男の子たちに掃除やごみ捨てなどを押し付けられるようになった。今まではいつもお兄ちゃんと一緒に居たから、弱虫な絶好のカモだと思われたんだと思う。先生は、多分気付いている。先生は皆の意思を優先する人だからまだ行動していないだけ。それに迷惑はかけられないから言わない。私のお母さんである以前に、皆のお母さんだから。皆の役に立てるのは嬉しいけど、掃除をしているときにゴミ箱のゴミを撒かれるのはかなり嫌だなと思う。
最近は、一人部屋に慣れてきた。本当は二人部屋だけど、同室になる子が決まらないからまだ一人。寂しいけど、本を読んだりすればそんなこと忘れられる。本ってすごい。
ある日、昼食後に皆が集められた。これは新しい子が来るときにだけ行われるものだ。お兄ちゃんが孤児院から出て、新しい子はこれで三人目だと思う。同室の子が決まるかもしれないと内心楽しみにしていると、車椅子に座った新しい子を先生が連れてきた。
「れいらです」
彼女が言ったのはその一言だけだった。きれいな金色の髪と左右で色の違う瞳。私達とは住む世界が違ったのだと一目で分かってしまう程、きれいな子だった。れいらちゃんは車椅子を自分で操作してさっさと部屋へ向かってしまった。
「ルーチェ。れいらと同室でも大丈夫そう?」
彼女と同室なのか。うまくやっていけるかは分からないが、歩み寄る事はできる。私は、大丈夫だと答えて部屋へと向かった。……自分の部屋なのに入る勇気が無い。強そうな女の子だったから、仲良く慣れるか不安だ。
「早く入りなよ」
部屋の外の私に気付いていたのだと知り急いで部屋に入る。れいらのベッドの周りには沢山の段ボールが置いてあった。あまりの荷物の多さに驚いてしまう。多分、裕福な家の子だったのだと私でも分かる。
「よろしくね」
「ん。よろしく」
挨拶を返してくれた。気が強いだけで良い子なのかもしれない。友達がいない私の初めての友達になるのかも。
「荷物整理手伝おうか?」
「別にいい」
会話が続かない……そもそも私と会話をする気がないのかもしれない。本でも読もう。読んで気持ちをリセットしよう。そうしよう。
そっと私はベッドの上に置いていた本を読み直し始める。これを読み終わったら、また会話を試みようと思いながら本の世界にのめり込む。