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里親と私のお兄ちゃん

 聖女様が戻ってきたのは私達の就寝時間の直前だった。聖女様は歯磨きを終えたお兄ちゃんの元まで行き、一言だけ残して去った。鼓膜に刻まれる程、静かな廊下によく響く声だった。


「1年後に迎えに来ますね」


 聖女様はお兄ちゃんの里親になることにしたらしい。


 就寝時間になり、ハッとした私は先に部屋に入ったお兄ちゃんを急いで追いかけた。柔らかい布団にくるまって寝ようとしたが、先程の出来事が頭から離れない。お兄ちゃんが居なくなったら、私はどうすれば良いんだろう。聖女様は、何故お兄ちゃんの里親になることにしたのだろう。不安と疑問ばかりが脳裏によぎる。その日、私は寝ることが出来なかった。

 日が昇り、新しい朝の訪れを知らせる鐘が鳴る。壁掛け時計を見ると時刻は7時。ベッドから出て服を着替えているとお兄ちゃんが目を覚ました。いつものように寝惚けながらベッドを整え始める。


「…昨日は良く眠れたか?」


 少し不安そうで心配そうな問いだった。いつもお兄ちゃんより後に目を覚ます私が先に起きていたのが珍しかったのだろう。


「…うん。ぐっすり眠れたよ」


 お兄ちゃんに心配をかけたくない。それだけのことで私はお兄ちゃんに初めて嘘をついた。お兄ちゃんはそんな嘘に安心して私の頭を優しく撫でた。時計を見ると針は7時45分を指していた。


「そろそろ行こうか」


 お兄ちゃんは私の手を優しく包み込むように握り、一緒に食卓へ向かう。私はお兄ちゃんの変化に驚いていた。手を繋いで食卓に向かうのはいつものことなのだ。しかし、今までとは握り方が違う。優しく、居なくなってしまうものを引き止めるような握り方。引き止めたいのは、私の方なのに。

 悶々としながらも食卓に着き、食事が乗ったトレーを受け取りいつものようにお兄ちゃんの隣に座る。最後に院長先生が食卓に着いたら、いただきますの掛け声をして皆でご飯を食べ始める。今日は野菜のスープとコッペパンだ。私はスープもコッペパンも好きだけど、トーストの方が好きだ。そんな事をぼんやりと考えながらパンをちぎって口の中に放り込む。ほかほかで美味しい。

 ご飯を終えたら食器を片付ける。お皿洗いは院長先生がいつもしてくれるから、私達でできることは自分でする。自立するための簡単なルールだと先生は言っていた。初めて会った時に説明されたルールで、その時はまだ院長先生の真っ暗な顔が怖かったなと思い出す。リアリスタなんて優雅な名前に似合わない姿をしていて、最初はおばけかと思った程だ。この国に人間じゃない種族が生活しているのは当たり前だけれど、院長先生の種族を私達は知らない。別に知ろうとも思わない。家族は、無闇に詮索しない。そういうものだから。

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