8.魔法省研究局第一課第二室第八班アルテナミ支部魔法使い準助手、実質魔法使い専属占い師
お待たせ致しました。
今回気持ち短めです。
一般人が”塔”とだけ呼称する魔法使いの研究塔は、正確には魔法省の公共施設の集合体の一部なのだそうだ。治安維持局や地域整備局を内包しており、主に”塔”と呼ばれている場所は研究局の敷地らしい。尖塔が多い理由は、過去の魔法使いの伝統とイメージを大切にしているからだそうな。
今回、ラジュカが騙されて所属することになったのは魔法省の中の様々な研究を行う研究局、主に魔力についての研究を行っている第一課、魔法の研究をしている第二室、さらにその中の八番目にできた第八班、マドランテリ共和国の南西に位置するアルテナミ地域の支部である。長い。役職は魔法使い準助手という魔法使いの研究補佐を行う魔法使い以外の人物になる。班の人員は場所によってまちまちなようだが、研究班長、研究副班長、研究員、見習い扱いの助手がそれぞれ居るらしい。
いずれにしても魔法省に属するという事は魔法使いと同義のため、雇用契約に永年雇用が含まれているそうだ。魔法使いが徐々に減少し始めた頃の元首が魔法使いの減少が止まらない場合、国家運営に支障が出る可能性を憂慮してそのように定めたのだとか。制度について改めてアレルバータから説明をしてもらったが、逃げ道が完全にない状況にラジュカは諦めの境地に至った。一周回って落ち着いた気持ちである。
ちなみにアレルバータ達は魔法省の治安維持局に所属していて、呪文のような所属を教えてくれた。とりあえずは自分の所属を言えるようにと言われたが、正直に言って長すぎて覚えられる気がしない。
魔法使いは寮に住むことが義務付けられているらしい。場所は駅前の一等地――というか駅と一体型の高層マンションが全部魔法省の持ち物らしい。今は生活インフラに魔石(魔力を保持することのできる媒体、主に宝石)が使われているが、もっと魔法使いが多かった時代は各個人の魔力を利用して生活全般を支えていた。魔石も魔法使いが生み出す以外に得る方法がないため、少なくなってしまった魔法使い達を国から離さないために福利厚生や制度を盛りに盛っているそうだ。
「そういえば、こいつの名付けって必要なのか?」
「名付けってなんですか?」
「名付けは、魔法使いが魔法を十全に使うために必要な儀式的なものですね。生まれついての名前を真名と考え、真名を秘する事で魔力の扱いや魔法の威力を強力にすることができます。真名を知る人物は最小限が好ましいので幼少期は幼名で呼ばれ、魔法使いだと判明した時点で魔法使いとしての名を付けられます。それが名付けですね」
「お前の家、名家だったんなら小さい頃は幼名で呼ばれてたんじゃねーの?」
「あー……そういえばそうかも。え、でも私魔法使いではないですよね?必要なんですか?」
「魔法使いではないとなると恐らく形式的なものになるのですが、他者に名――特に真名を知られるのは望ましくない繋がりを得てしまう事にも繋がるので名付けをしておいた方が無難かと思います」
「それは誰が名付けるんでしょうか……?」
「極論を言ってしまえば誰でも良いのですが、自分で考えたりごく親しい間柄の人物や上司などが名付けるパターンが多いですね。名付けられる呼び名には必ず真名の音を一部使用しなければならないので、真名を知られても良い人物に付けてもらうのが一般的ですね」
どうやら慣れ親しんだ名前とは別に新しい呼び名が付けられるようだ。自分で付けてもいいとのことだが、どうせなら全然違う名前が良いなと思っていたのでちょっと残念に思う。ラジュカの真名を知っているのは、今この場にいるアレルバータとナディルーン、それからステフィノスとジャネライラー研究員、後はマイリーアン助手の五人は確実だ。先日ジャネライラー研究員にフルネームで呼ばれたときに居た四人と先ほど登録確認でデータを見たステフィノスの五人だ。
「一応お伝えしておきますが、真名は口頭で相手に伝えない限りは”完全に知られた”という扱いにはなりません。”完全に知られた”状態ですと相手からの様々な干渉が発生する繋がりができた状態になります。その為、相互に真名を知っているのは婚姻している等の非常に親しい間柄がほとんどですね。文字や他人から聞いた場合は薄い繋がりができます。よくすれ違う位のなんとなく縁がある状態です。なので、名付けをする場合も繋がりが生まれますから慎重に決定しなければならないんです」
「僕は名付けないからね」
「私もアルルも名付けませんよ」
「ナディ……そんなつっけんどんな言い方は」
「私も、そこの男も魔力特性がどう作用するかわからないので名付けは危険でしょう」
「それは、そうかもしれないけど……」
いつも部屋の隅でただ立っているナディルーンが急に話し出した事にラジュカは驚いた。長いグレーの前髪で目元はすっかり隠れているし、つっけんどんな喋り方から、どう見ても人が嫌いそうだ。ついでに視線を向けた先のステフィノスはむっつりとした顔をして腕を組んでいる。軽薄そうな雰囲気はどこかにいってしまっていて、まるで警戒心を露わにした子猫の様だ。
「魔力特性がどうこうって、全員が魔力特性があるんじゃないんですか?それとも、相性とかの問題……ってことですか?」
「多分、貴女の所属する研究室の方が詳しいと思うんだけど、簡単に説明するわね」
そもそも魔力特性と呼ばれるまでに何らかの特性がある人は魔法使いの約半数らしい(昔はもっと多かったとか)。魔法使い同士の魔力による相性もあるが、それ以上に魔力特性を持っている人物は魔力にクセがあり、相性が良い人物が限られてくるそうだ。相棒を組んで二人一組で活動しているのも魔力相性の兼ね合いらしい。良い相性であっても与える影響が必ずしも良い物になるとは限らないので慎重にならざるを得ないとの事。今日一日であまりにも詰め込み過ぎじゃないだろうか? 名付けとか、もう後日でも良いんじゃないかなという気持ちになってきたラジュカであった。
拙作をお読み頂きありがとうございます。
家族が次々体調を崩しており投稿が遅れました。
皆様も家庭内感染にはお気を付けください。
次話は少し遅めで9/20頃の予定です。