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7.占い師、詐欺に遭う

8/12 タイトル抜けがありましたので修正しました。

 昨日は昼寝と言うには長すぎる睡眠後、夕飯を作って食べて、いつも通りの生活を送った。一種の現実逃避である。いつも通りに起きて、いつも通りに用意をしたラジュカは、意を決して指定の十時よりやや早い時間に”塔”に着いていた。

 正直、逃げてしまおうかとも思ったが、昨日の事情聴取時に身分証明書を確認されているのですべての荷物を捨てて迅速に夜逃げでもしないとすぐ捕まるのが関の山だろう。こんな事で手配書が回って引っ越しも仕事もできなくなったらそれこそ”詰み”だろう。


「おい、何やってるんだ」

「ひゃっ!……お、驚かせないでくださいよ……」


 ”塔”に入りたくない気持ちが強く、入口に牛歩で近付いていたラジュカに乱暴に声を掛けたのはステフィノスだった。ついじっとりとした目を向けてしまうのは仕方がないだろう。


「まぁ良い。ついてこい」

「はい……」


 一昨日とは違い被害者側の筈だが、犯罪を犯して連行されている感がどうも否めない。一昨日と同じオフィスのような部屋をいくつか通り過ぎ、一つの部屋の前で立ち止まる。中に入れとジェスチャーを受けて歩を進めたラジュカを迎えたのは、応接室のような部屋に似つかわしくないよく分からない機械と痩身の研究者だった。


「ふむ、待っていたよ」

「えっと、これはどういう……」

「ステフィノスくん、説明をしていないのかね」

「僕も聞いていませんけど」


 一昨日にラジュカの魔力について調べてくれたジャネライラー研究員曰く、非常に面白い研究テーマだと感じ個人的に研究を進めていたところ、タイミングよく被験者(ストーカー)見つかり(捕まり)嬉々としてデータを取ったそうだ。そして、被害者側(ラジュカ)の事情聴取が行われると知って自身を聴取メンバーに設定したらしい。


「失礼します、アレルバータです。遅れまして申し訳ありません」

「ちょっと、あんたもどういう事?」


 軽やかなノック音と共に入室してきたのは一昨日に頼りになったアレルバータとその相棒(バディ)のナディルーンだ。どうやらグレンディンがラジュカに接触するのがラジュカの精神衛生上好ましくないと判断したジャネライラーにより聴取メンバーの追加が行われたらしい。ちなみにグレンディンは現在単独で警邏に出ているらしい。万が一の時のための相棒(バディ)制度だったと思うのだが良いのだろうか。

 ちなみに有能なジャネライラーはステフィノスの端末にきちんと連絡をしていて、ステフィノスが知らないと言っていたのはシンプルに確認不足だったようだ。届いていたメールを見て納得がいかない顔をしている。


「さて、今日も魔力について調べさせてもらおうか」

「その前に!昨日の件での事情聴取が先です」

「まぁまぁ、ステフィノス殿、落ち着いて下さい。ジャネライラー研究員も、先に事情聴取を行いましょう」


 ステフィノスはどこか子供っぽい感じで声を荒げていたが、アレルバータが巧いこと話をまとめてくれる。まるで委員長みたいだ。アレルバータの誘導で改めて昨日の経緯を説明する。他の人の目撃情報や監視カメラの映像も出ているようで、齟齬がないことを確認しているようだ。


「状況も経歴も一致してるね。接近禁止令の違反と暴行罪だから慰謝料を兼ねた罰金刑と懲役3年くらいになりそうかな。一応裁判してからになるけど、結果が出たら通知がいくと思うよ」

「わかりました。ありがとうございます」

「終わったかね。犯人の魔力についても調べたので、改めて魔力データを取らせてもらいたい。今回は念のため、同意のサインをいくつか書いてくれ給え」


 聴取で疲れてきていたラジュカは死んだ魚のような目をしながら同意のサインを書いた。少なくとも検査の最中は疲れる問答はないはずだ。一昨日のように家族の話を引き合いに出されて半ば脅しのようになるのも面倒だと思ったのだ。一時協力すれば後はもう関係がなくなるはず。”塔”にこんな短期間に何度も来ることはないだろう。そう思ったのが間違いだったと気付くのは検査が始まって一時間ほど経過した頃だった。


「――では、これで今日の検査は以上だ。明日からは朝の十時までに出勤してくれたら良い。これがラジュカくんの準助手用管理カードだから無くさないでくれ給え」

「はい?」

「サインする時は文面をきちんと確認する事だ。先ほどラジュカくんがサインした()()()()()の控えは後で送っておこう。寮が希望なら部屋を用意するので早めに告知し給え」

「え?……え?」


 どうやら、ラジュカはジャネライラーに嵌められたらしい。渡された名刺サイズの薄紫色のカードには、金文字でラジュカのフルネームが書かれている。記載された肩書は準助手だ。どう考えても正規の”塔”所属の証明になるカードである。

 呆然とするしかないラジュカ、さっさと部屋を出ていくジャネライラー、怒ってくれたアレルバータと無言のまま立ち尽くしているナディルーン、複雑そうな顔のステフィノス。先日の際限のように室内は混迷を極めていた。


「ごめんなさいね、内容をちゃんと確認していると思っていたから……。実物がこの場にないから何とも言えないんだけど……雇用契約書の内容にもよるんだけどね、魔法使い向けの内容をそのまま使っていたら――退職できないの。もちろん辞退とかも」

「ばっかじゃねーの、あいつ。やっぱ研究員って変な奴しかいないわ」


 そもそも、”塔”に所属しているのは例外を除いて魔法使いのみだ。魔法使いは生まれながらのエリート達だが、進路も全て法律によって決定されているのだ。中等科までは一般市民と混じって教育を受けるが、高等科からは魔法使いだけが集められた魔導学院に通うのだ。在籍期間は一般市民の高等科と同じだが、学院在籍中も”塔”の所属となりアルバイト先も”塔”になるらしい。魔法使いには機密事項も多いため契約を何重にも重ねて国に仕える。その見返りとして高収入で名誉ある仕事をしている。

 準助手は魔法使い以外が”塔”に就職するための例外として規定されているが、扱いは魔法使いに準ずるので高収入で国に仕える形になって、そして魔法使いと同じで退職や辞退が不可能のようだ。


 退職不可――それを聞いたラジュカが、迂闊な自分を呪い、その場に崩れ落ちたのは当然だろう。


「残念だけど、お前のデータが正式に登録されてるっぽいぞ。職員データで検索掛けたら出てくる」

「ええと、ラジュカさん。こうなってしまったら仕方がないと思いますので、良ければ制度や寮について説明しますが……どうしますか?」

「……おねがいします」

拙作をお読みいただきありがとうございます。


次話は8/19 18:30の予定です。

しばらく投稿頻度は10日に1度ペースの予定です。


2025/08/16追記

12日よりコロナに罹患し体調不良のため、次話投稿まで日が空きます。早く体調が良くなるようにゆっくり休みたいと思います。

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