16.第八班の準助手、慄く(いろんな意味で)
頭を抱えてしばし黙り込んでしまったブランジェラ課長は、ため息をついてからその重たい口を開いた。明らかに目が据わっていて厳つさが増している。
「あいつは魔力相性が良い奴が皆無だ」
「皆無、ですか~?」
「皆無だ。……グレンディン隊員は魔力特性が少々特殊でな。あいつと組ませる相棒を探すのも苦労したくらいなんだ。……家族だなんだと少々イカレた発言をしていたようだが、元々家族くらいしか身体接触ができないからな……魔力相性が良い相手が皆無なのだから共鳴現象が起こった事などないだろう。身体接触可能な人間=家族という認識が根底に有るからかは分からないが、本人が変な思い込みをしているのは間違いないだろう」
「あちゃ~……とりあえず~思い込みの訂正をすべき、ですかね~」
「それはそうなんだが、訂正したところで魔力相性を変えられるわけではないからな……ラシェールカくんだったかね?悪いんだが、一度グレンディン隊員の思い込みの訂正の為会話の席を設けさせて頂きたい。いいかね?」
「は、はい……」
「思い込みの訂正次第、グレンディン隊員はしばらく出張に行ってもらう。これで時間を稼ぐことはできるだろう」
「ご配慮ありがとうございます~」
「では追って連絡をしよう。私はこれで失礼するよ」
ぱたりと閉まったドアを見て、誰からともなくため息がこぼれる。とりあえず研究室に戻ろうという雰囲気になったので周囲を警戒しながら研究室へ戻る。まだ勤務一日目だがここで平穏無事に過ごすことができるのか、ラシェールカは一抹の不安を抱いた。
「ラシェールカちゃん、あのね、言いにくいんだけどね……」
落ち着いて聞いてね、と続けられたニアラローズの話はあんまり直視したくないこれからの話だった。現在のグレンディンは魔力相性が良い相手が皆無だったため相性が良い相手に対してどう対応していいか分からない状態だという。特に魔力特性が特殊なタイプというのがよくなくて、相性が良いラシェールカの事を家族であると変な思い込みをしている、この思い込みは訂正しないと衆人環視の中で変質者とも取られかねない行動をしかねないので訂正した方が良い。しかし、魔力相性が変わるわけではないのでグレンディンからしたらラシェールカの事が好ましい状態である。つまり、家族という認識が外れればべたべたとしたスキンシップを避けることはできると思われるが、今度は恋人になりたいグレンディンからのアプローチを受ける可能性が高いとの事。
「一応~、勤務態度は冷静で落ち着いた人物で家族思いのようだから~、アプローチをしてくるにしても~落ち着いた接し方をしてくれる、と思われるんだけど~……」
「ニアラローズさん、私、ちょっと触れただけでストーカーになった人物がたくさんいるんですけど……」
「そ、そうなのよね~……大丈夫だと思うんだけど~」
「ご愁傷様としか言いようが無いな。諦めて結婚でもしておいたら良いのではないか?」
「結婚……ですか。そんなに軽々しくするものではないと思うんですが」
「魔法使いは精神面の安定の意味も含めて結婚が推奨されているぞ。僅かではあるが魔法使い同士の方が魔法使いの出生確率可能性が上がるからな。それに、魔法使いは独占欲が強いタイプが多いと研究結果が出ている。溺愛されて幸せな結婚にはなるだろう」
「溺愛してくるタイプはちょっと……ストーカーがトラウマで恋愛とか考えたことありませんし……」
「まぁ落ち着いて~、とりあえず今日はバタバタしてたし、疲れちゃったと思うから~あがってもらってもいいよ。そういえば~引っ越し業者の手配もまだなんだっけ?手続きだけしちゃおうか~?」
「そう、ですね……とりあえず引っ越しの手配だけしてもらってもいいですか?」
「おまかせあれ~」
早く家に帰りたい気持ちでいっぱいだったので、ニアラローズの提案にありがたく頷いておいた。魔法使い専門の引っ越し業者は物凄く手早く運搬・家具配置などをしてくれるらしく守秘義務もきっちりしているらしい。そもそも服と寝具を持ち込むくらいで考えていたと伝えると、それなら今日中に運搬してくれるとの事だったので手続きをお願いする。
「そういえば、新しい部屋ってどこになるんでしょうか。昨日、アレルバータさんから今日から寮に入れると聞いたような気がするんですけど」
「わ~ごめんね、てっきり~聞いてると思ってて……ちゃんと説明してなかったね」
どうやら昨日、アレルバータとニアラローズとで就職?と引っ越し関連の手続きの一環で説明をしてくれていたようだが、イエスマンになっていたラシェールカはあまり覚えていなかった。寮には最新の家具家電が備え付けられていて今日からもう入れる状態になっているのは覚えている。昨日、引っ越しの話になった時に、二人は前の家からの荷物が多いのかと思い、休日の手配で話をしていたらしい。ラシェールカは最新の家具家電があると聞いた時点で今の家具家電はいらないなと思っていたのだが、思っていただけで口には出していなかったためすれ違いが発生していたようだ。
「そうしたら、私も早上がりしちゃお~ラシェールカちゃんに寮の案内も必要だろうしね~」
「分かりました。後は今日の検査結果を纏めておきましょう」
「ありがとうございます」
ニアラローズに案内されて辿り着いたのは”塔”の目の前にある大きなマンション(”塔”よりは低い)だった。そういえば”塔”の周辺施設はすべて国の持ち物で、魔法使いに優先的に使用されていると説明を受けた事を思い出す。
「今回は使わなかったけど~マンションから”塔”までは~地下に専用通路があるから~、それを使ってもらってもいいからね~この後場所を教えるね~」
「へ?」
なんでも、魔法使いの為だけの地下通路があって、ホバー型の自動運転車がどこでも呼び出しできるらしい。目的地を入力するとそこまで送り届けてくれるので便利らしい。”塔”内部でも端から端まで移動するのには広すぎるため、地下での移動が推奨されているらしい。魔法使い以外はそもそも存在を知らない事が多く、頭がパンクしそうだ。
「ラシェールカちゃんが~住むことになったのは、研究塔から~真っ直~ぐ西に進んだ先の~単身者用のマンションだね。北がA区画、北東がB区画って感じで~ここはG区画になるよ~。ここもさらに区切られているんだけど、ラシェールカちゃんの部屋はここ~。夜明け棟の303号室だね」
「ええと、G区画の夜明け棟?の303号室ですね?」
紺色の屋根に薄紫色の壁面は確かに夜明けと言えるのかもしれない。マンション入ってすぐのエントランスホールには受付のお姉さんが居て、右手側に食堂とコンビニ、左手側にジムが見えた。ラシェールカはちょっとした高級ホテルか何かと間違っているのではないかと思った。エレベーターを上がり、ラシェールカの住む部屋だと説明されたのは2LDKの広い部屋だった。
「部屋タイプが選べなくてごめんね~」
「いや、いやいやいや。ひ、広すぎませんか?」
「そう?こんなもんじゃ~ないかな?」
聞けば、部屋のタイプがいくつかあるらしくロフト付きやキッチン広め等を希望することもできるらしい。希望の部屋が空いていればすぐ入居できるが、今回は突発的な入居の為空いている部屋をニアラローズとアレルバータで見繕ってくれたらしい。
「ちなみにほかの部屋が良ければ~希望を出しておけば~、空き次第移動できるからね。壁紙とかは~好きに張替えができるから、気に入らなかったら~部屋のオプションから注文を出すんだよ~。ご飯も食堂で食べてもいいし~、デリバリーでも自炊してもいいからね~あ、注文は部屋のオプションからするんだよ~」
「……私、近々死ぬんですかね?」
しかも、生活費は趣味以外は全て無料だという。流石、出生率が年々下がっていくエリート達だ。彼らを何をしてでも繋ぎ留めたい執念を感じる。実際、これだけの福利厚生があっても国は損をするどころか得をしているのだろう。考えるのも恐ろしいことだ。
拙作をお読み頂きありがとうございます。
次話は12/25 18:30の予定です。




