14.第八班の準助手、波乱に満ちた昼食
それから全員で自己紹介をしたが、超絶美少女顔のニアラローズの事が全く目に入っていない様子のマイリーアンと、先日の”未来視”について根掘り葉掘り聞き出すニアラローズに挟まれ居心地の悪い時間を過ごすことになった。ちなみに注文は空中ディスプレイを呼び出して注文する形式で、しばらくすると配膳ロボットがやってきて食事を提供してくれるシステムらしい。配膳ロボットは人間にそっくりだが、見分けがつくようにか耳に識別タグが付けられていた。ラシェールカはあまり食欲がなかったので、スープとサンドイッチを注文した。届けられた食事にもそもそと手を付けて、繰り広げられる会話に相槌を打っていた時だった。突然、誰かに背後から抱き締められて硬直してしまう。
「見つけた!どこに行っていたんだ?心配したんだぞ?」
「ひょぇ」
「ちょっと~、貴方誰ですか~!?うちの新人に~、手を触れないでください」
「わ、わたしのラシェールカさんに触らないでください!」
「先輩!何しているんですか!」
ここ数日ですっかり聞きなれたステフィノスの声から、急に抱き着いてきた不審者の正体が分かってしまった。ちらりと背後を伺えば、見覚えのあるチョコレート色の髪の毛が視界の端に映る。どう考えても先日の占いから挙動不審なグレンディンだろう。ただ静かに昼食をしたかっただけなのに、どうしてこうなってしまったのかラシェールカには理解ができなかった。頭上ではじまってしまった言い合いと、抱き締められたまま離れない腕にどうしていいか分からずぬいぐるみのように大人しくしているしかない。ラシェールカは現実逃避をしていた。
(あ~ここのご飯ってもしかして有名な三ツ星シェフとかなのかな~。スープもとっても美味しかったしサンドイッチもパンからして味が違うもんな~。というかなんかいい匂いがする……え、この不審者いい匂いがするんですけど!?不審者なのに!?)
「彼女は俺の家族だ。ずっと心配していたんだからな」
「家族なわけないじゃないですか~!ラシェールカちゃんの血縁は~別に居ますけど~!?」
「グレンディン先輩!落ち着いて、落ち着いて一旦離れてください!」
「は、離れてください!セクハラですよ!」
丁度、皆が食事を取る時間帯だったせいで食堂にはそこそこ混み合っている。急に騒ぎ出した集団はどう考えても目立つだろう。周辺から何をしているのかという視線とざわめきが広がっていくのが分かり、あまりの羞恥にラシェールカは今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。しかも、全員そこそこ大きい声で会話をしているため、食堂中に丸聞こえである。せめてもう少し小さい声で話をしてくれないだろうか。隣の席だった男性がそそくさと席を立っていくのが見えて、ラシェールカは悲しい気持ちになった。できることならこの現状から助けて欲しかった。せめて助けを呼ぶなりしてくれないだろうか。
「ラシェールカと言うのか……可愛い名前だな。俺はグレンディンだ。俺と……シェーラは家族なんだから愛称で呼んでくれ」
「この人いきなり愛称で呼び始めてるけど~!?ラシェールカちゃんとそんな関係じゃないでしょ~!?」
「先輩!?僕にも愛称呼びをさせてくれないのにこいつには呼ばせるんですか!?」
「信じられない……!あの、ラシェールカさん。わたしも愛称で呼ばせてもらいたいです」
本当に誰かこの混沌とした状況をどうにかしてくれないだろうか。生気を失った顔でされるがままの状態のラシェールカは何が何だかさっぱり分からない。何となく、愛称呼びは親しい間柄とかなのかな~位しか考えられない状況だった。
「何事だ!」
ざわめく食堂に鋭い男性の声が響く。しんと静まり返った食堂にカツカツと男性が近付いてくる足音が響く。後方からのため、声の主の姿は見えないが目の前の皆が緊張した雰囲気になったのはわかった。ラシェールカを抱き締めたままのグレンディンが顔だけで振り返ったのが分かる。
「グレンディン、お前……何をしているんだ?その腕の中の女性は……?」
「ブランジェラ課長、今からお昼ご飯ですか?折角なのでご紹介させてください。私の家族のラシェールカです」
「ちがいます」
「違うようだが?」
「?よくわかりませんが、シェーラは私の家族ですよ。こんなに相性が良くて落ち着くのは家族以外にはいませんから」
ブランジェラ課長と呼ばれた男性は、朗らかに笑うグレンディンと虚ろな目をしたラシェールカを交互に見て、明らかにやばい奴を見る顔をしていた。ようやく見えた一筋の光にラシェールカは助けて欲しいという気持ちでブランジェラ課長を見やる。
「そ、そうか。グレンディンも昼食か?そのままだと彼女も食事を取りにくそうだ。こっちの席に座るといい」
「あぁ、シェーラ。ごめんな、食事がしにくかったな。ゆっくり食べてくれ……その量で足りるか?追加で注文してやろうか?」
「けっこうです」
ようやく離れたグレンディンに安心するはずが、何故かほんの少しだけ寂しさを感じる。自分の良く分からない気持ちに戸惑っていると、ニアラローズがさっと間に入ってくれる。少し遅れてマイリーアンはラシェールカの背後を守るような位置に立ち、ステフィノスはブランジェラ課長という上司がいるからか待機姿勢をとったまま微動だにしていない。ニアラローズがブランジェラ課長にひそひそ耳打ちをしている。どうやら今までの経緯を説明しているらしい。ニアラローズ目線では、昼食中にいきなり現れたグレンディンがラシェールカに抱き着いた挙句、家族を自認していますとしか言いようがないと思うが。
「ニアラローズさん、さっき抱き着いてきたグレンディンさんですが、先日検査をする切っ掛けになった人物です。辻で占いをしていた時にお客さんとしてやってきたんです」
「あ~、そう、なのね……」
ラシェールカが小声でニアラローズに伝える。先日占いをしたため、このような奇行に走っている事を理解してもらえただろう。ニアラローズは先ほどと同じようにブランジェラ課長に耳打ちをしている。落ち着いてよく見ると、ブランジェラ課長は筋骨隆々な壮年の男性だ。小柄で美少女としか言いようのないニアラローズが耳打ちしている姿は、どう見ても犯罪にしか見えない。概要を聞いたであろうブランジェラ課長は、苦虫を嚙み潰したような顔で小さくため息をつき頭を抱えている。
「あ~休憩時間が終わりそうなので~、私たちは先に失礼しますね~」
「それは大変だ、戻ると良い」
ニアラローズがわざとらしい台詞を言い捨ててくれたので、現場から上手いこと離脱することができた。どうやら耳打ちをしていた時に戦線離脱する事を伝えてくれていたらしい。なんて頼もしい上司なんだ。心なしか早歩きで研究室まで戻ってきた事でようやく安堵のため息をついた。ちなみにマイリーアンは動きが遅くて同じタイミングで離脱ができなかったためあの空気最悪な食堂に置いてきてしまった。彼女も強く生きているだろう。
「ご、ごめんね~~まさかあんな事になるなんて思って無くって~」
「いえ、あれは私も予測なんてできませんよ……ありがとうございます」
「なんだ、戻ってきて早々に騒がしいな」
湯気が立ち上るコーヒー片手にジャネライラーが声を掛けてくる。その姿でさえも安心感を覚えてしまうのはトラブルに巻き込まれたからだろう。涙声で謝罪を口にするニアラローズはさっきあったトラブルをジャネライラーに説明しはじめた。ラシェールカは先ほどの疲れからテーブルに突っ伏して無になっていた。もう何も考えたくない気持ちである。
拙作をお読み頂きありがとうございます。
次話は12/5 18:30の予定です。




