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1.工場勤務アルバイト、占い師をやる

 魔法使いと呼ばれる魔力の強い人が人口のほとんどだった時代はとうに昔。

 昨今では魔法使いと言われるほど魔力の強い人間は千人に一人の確率なのだそうだ。


 マドランテリ共和国に住む24歳のラジュカは魔法使いに成り損なった一人だ。

 内包魔力は多い方なのだが、魔法使いか否かの検査の基準値に僅かに届かず。基準値に到達していないので必然的に魔法も使えないのである。


 魔法使いと言えばエリート中のエリート。生まれながらにして出世街道まっしぐら。アルバイト暮らしで根無し草なラジュカとは雲泥の差である。


「――続いてのニュースです。先月の魔法使いの出生数は1万7685人で今年度に入り上昇の傾向です。魔法使いの皆様には――」

「私も、エリートに生まれたかったなぁ……」


 惰性で付けていたテレビを魔法使いの出生数のニュースから切り替えて、今日の天気予報をぼんやり眺める。今日の天気は曇り、ところにより雨の予報だ。念の為カッパを持っていこうか、等と考えているとスマホのアラームが鳴った。


「アルバイトの時間じゃん……働きたくないなぁ~」


 ため息をひとつ飲み込んでテーブルの上の朝食を流しに片付けてからアルバイトへ向かう。

 今のアルバイトはパン工場の袋詰め。とある事情からあまり他人と関わり合いを持ちたくないラジュカにとって、ライン作業がほとんどな工場勤務は天職だと考えている。


 小型の魔導バイクに乗って出勤したラジュカを迎えたのは工場の正社員の女性スタッフ。担当ラインが違うため直接話をした事はないが、ハキハキとした話し声ときっちりとしたまとめ髪が印象的なため顔は覚えている。そんな彼女が何故かスタッフ入口付近で仁王立ちしていたのだ。入館受付以外でスタッフが待ち構えている事なんて、今まで一度もなかった事なので普通に驚いた。


「えっと、おはようございます」

「おはようございます。入館証の提示をお願いします。貴女は……袋詰めラインのラジュカさんね。突然で申し訳ないんだけど今日からしばらくお休みになるわ」

「えっ!それはどういう理由でなんでしょうか?」

「それがね……」


 女性スタッフ云く、工場内の機械が壊れてしまったらしい。ここの工場では機械の損耗を考慮してパンの生産は日中だけなのだが、早出のスタッフが朝一に稼働させようとしたところ機械が起動しなかったらしい。確認したところ魔力機構部分がオーバーヒートしてしまっていて、修理専門の魔法使いの派遣を待つしかない状況……らしい。


「ちなみにいつ頃直る予定とかって……」

「修理専門の魔法使いの派遣が遅れるらしくて、早くて一週間くらいね」

「いっしゅうかん」

「早くて、だからどのぐらい掛かるかは現時点では分からないの。ごめんなさいね。工場再稼働の日にちが決まったら電子メールとハガキを送らせてもらいますので確認しておいてくださいね」


 呆然としているラジュカを尻目に、女性スタッフは後からやってきた従業員にも同じことを繰り返し説明し、手持ちの名簿にチェックを入れているようだ。

 修理専門の魔法使いが来てくれないことには、ラジュカにできることは何もない。働きたくないとは言ったが仕事がないのは困る。


 放心したままアパートに帰ってきたラジュカは途方に暮れていた。


「まずい。諸々の支払期日が」


 貯金がないわけではないが、これに手を付けたくはない。かといって別の仕事に就いて働こうにも、求人サイトに掲載されている短期バイトや単発バイトは無慈悲にも0件の表示。工場勤務の人数は多い。各自に電話連絡を諦めて電子メールとハガキで連絡しようとしてくる程度には。考えることは皆同じのようだ。


「あまり気は進まないけど……やるか、占い師」


 占いと言えば水晶玉や水盆、カードを使ったり、手相や星、生年月日から運勢を見たり様々な方法があるがラジュカの占いは魔力を使う。

 魔法使いにはなれなかったが、ラジュカの魔力は変わった性質があるようで、直接触れた相手の直近の運勢が分かるのである。

 主に、相手が幸せになるための"ラッキーアイテム”や”おすすめの行動指針”を視て、伝えている。ちょっとした未来視のような能力だ。


 そして、何故かラジュカに触れた人間はラジュカに対して好意的な反応を示す。個人差はあるが大抵怖いくらいに好意的だ。

 ラジュカは過去に何度もストーカー被害に遭った事もあり、若干人間不信気味である。その為、極力他人と関わらなくて済む仕事を選び、定期的に引っ越しを繰り返している。貯金は万が一の引っ越しのためのものでラジュカの最後の砦である。


 占いは嫌いではない。未来の欠片が見えるのも特別な力を持っている感じがするし、相手に喜んで貰えるのも嬉しい。突然相手に熱烈な好意を寄せられるのが迷惑なだけで、ほとんどの人はストーカーになったりはしない。


 ラジュカは占い師用の仮装を押し入れから引っ張り出した。シンプルな丈の長いワンピースに認識阻害の効果がついたベール、接触を極力避けるためのレースの手袋。丁寧に扱っているためどれもすぐ使える状態だ。

 ちなみにラジュカの占いは強気な価格設定だ。一人でも占えば工場の1日分の給料は補えるだろうし、人数が増えればちょっとしたボーナスにもなる。


「覚悟決めて占い、やるか~」


 とりあえず今日は準備をして、明日から数日間副業占い師をすることにした。

 今日からやらない理由?心の準備が必要だったので。

拙作をお読み頂きありがとうございます。

次話は7/5 18:30の予定です。

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