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第一章:第五話『上手く行っている』

 ――また、死ぬんだろうか。


 少しでも動こうとすると痛みで死んでしまいそうになる。


「マコト!! 生きてるんだろ? 死んでも生き返られるんだろ?」


 ――生き返るか……これはコンテニューできそうにないな。一回殺させて、また殺されて、一日に何回死ねばいいんだよ? せっかく異世界に来たのに、まだ何も成せてないじゃん。


「――まだ死にたくない……こんなところで……!!」


『条件を満たしました。強欲が発動。能力《死に物狂い》を獲得。能力《起死回生》を獲得。』


 突如として頭に響く声。転移した時から頭に響く声、こういう展開を俺は知っている。


 起死回生……これならやれる気がする。


「……おっ、おい大丈夫なのか?」


「まだ生きてたのか、雑魚のくせに頑丈だねぇー全体的に能力値が高いのか? だからと言ってももう死にかけだッ――」


 真っすぐ最高速度で突撃。一点集中の一撃。完全に油断し反応が送れている。一瞬にして片目を刺す。


 初めての感覚。魔女とは言え人のようなものだなんのためらいもなく刺せるのはこの窮地だからか、能力か、魔女の配下となったからか。


「ッツ、クソガァァァァ!!」


 ……とっても冴えてる気がする。相手の攻撃が見える。この傷も浅くはないはずなのに、調子がいい。

 大ぶりの拳をかわし、左下から右上へと一気に切り裂く。魔女の攻撃が空を殴り、その間に切り傷を確実に当てていく。


「ッチ! 調子に乗るなよ!! 魔女に勝てるわけがないだろうガァァ!!」


 一撃、一撃が着実にダメージを重ねていく。浅い傷口から血を垂れ流し、服のにじみを通り越し宙に跳ねる。力任せにただ暴れるだけしか考えていない頭は失血死などという言葉は詰まっていないのだろう。


「クッ――ッツ雑魚ガァ!」


 魔女も負けずと地面を思いっきり叩きつけ破片が飛び散り土埃が舞う。視界を遮断し体制を立て直そうと考えているのだろうか、だが読める。動きが分かる。考えられる。大振りの一撃だった。そう簡単には動けないはず。


 ナイフを一本、魔女がいた所に投げる。


「どこに!?」


 反応した。魔女は位置を移動していない、立ち位置からして狙うはこっち側から……


 片目を潰したことによる死角からの一撃。首を切り裂き、確実な致命傷を与える。薄い悲鳴が聴こえボタボタと血が溢れ出る。


「私は……魔女だぞ!! それがこんなやつに! せっかく貰った力なのに――」


 ぼやける視界の中魔女が倒れていくのを見届ける。


 地面に倒れ動かなくなり勝ったと気を抜く。


「マコトー! やったぞ! 魔女に勝ったんだぞお前! すごいな!」


 油断しまくってるとは言え、この世界で一番強い種族をこんな序盤で倒すとは、俺の異世界ライフも、もうぶっ壊れちまったのだろうか。きっとこのまま強くなって、



「異世界ハーレムライフを堪能するんだろうな……」


「助かった。ありがとな。お前のハーレムライフに参加する気は無いけどアタシは最大限お前に協力するぞ!」


「無事でよかったよ」


「ごめんな。私のせいでそんなにボロボロになっちまって。すぐに直してくれるよう頼むからな」


 全く感じない傷口のおかげで全然痛痛いとは思はない。さっき手に入れた能力の効果だろうか? だが、血が止まってないな。


「大丈夫か!? ふらついてるぞ!? 血もめっちゃ出てるし、どうすれば……街の連中がなんて言うか分かんないけど、助かるよな?」


「――それでは、ご一緒にご同行願いますか?」


 後ろから声を掛けられる。見知らぬ人だが、身に着けているものからして……


「誰だよ。今忙しんだ、早くこいつの血止めないといけねーんだよ」


「申し遅れた、王国騎士団のものです。魔女の件でお聞きしたいことがあるのでついて来て頂きたい。もちろん傷の手当などもする。」


「そうか? ならついて行こう。安心しろマコト。助かるからな、ゆっくり休んでくれ」


 この言葉を聞きすっかり安心してしまったのか、ここから先は記憶はない。



 ***



 そして現在――


「強欲の魔女の使徒など今すぐ処刑だ!」


「何を言っているのですか? こいつがいなければ今頃二乗の魔女によって国は莫大な被害を受けていたんですよ? 国の恩人を死刑にはできません。」


「お前らは魔女の使徒の肩を持つというのか!? さてはお前らも魔女の手先なのだろうな!」


「何を言っておられるのですか?恩を仇で返すなどありえてはいけない。死刑にはできません。」


 傷がまだ完全に癒えてない中、僕の運命を握る裁判と言うか、ただの言い争いが起きている。有罪だと困るので無罪にしてほしいものだが、『強欲の魔女の使徒』という身分が足枷となっている。


「――そもそも強欲の魔女に使徒を死刑にしたとなったら、強欲の魔女がこの国を終わらせに来るかもだろうが!」


「貧民は黙っていろ! なんだその身なりは汚らしい。部外者はさっさと帰れ!」


「アタシも魔女倒すのに協力したんだけど? 部外者じゃねーし!」


 なんかノリノリでクエイも口論してる。貴族への日頃の鬱憤を晴らしているのが分かり、いつになく生き生きとしているのが窺える。クエイの体の傷はそこまで重症なものは無かった。問題は僕の方でなぜ動けていたのか、なぜ生きているのかというレベルだったそうだ。


 しかし異世界、回復速度はすさまじく一ヶ月足らずで一人で動き回れるようになった。これも強欲の魔女のおかげなら感謝をしたいところだが、こうして嫌われるのも強欲のせいなので何とも言えない。


「そもそもこいつが簡単に死刑にできると思ってるのか? 魔女を倒す力を持ってるんだぞ!」


 入院中に色々検査されて俺の強さは英雄級の力があることが分かった。人間の中で一番強いとされるのが『勇者』であり次に『英雄』、『兵士』という序列。さらに強欲の力もある。そう、俺は世に言う異世界でチート無双して最高の人生を送ります状態と言うわけだ。


 あとはハーレムパーティーを作るだけだ。すべてがうまく行っている


「――ならば、国外追放だ!! こんな奴が国に居たら夜も眠れん。」




 ……そうだな、うまく行ってない事というと魔女がめっちゃ嫌われていて、国外追放になったことだな。


「さてどうするものか……」


「今日中にだろ? まだ時間はある。案内の続きだっただろ?」


「お金は無いからな。勘弁してくれよ?」


 クエイの報奨金があるそうなので。国中を練り歩いた。この世界に来てからこうもすぐに出て行く羽目になるなど思ってもいなかった。


 時間を忘れ楽しんでしまった。異世界は見たことの無いものが沢山で、でっかいトカゲみたいのにも乗ってみた。聞いたことの無い肉の部位は意外とおいしかった。この世界の事を聞き、元居た世界の話をした。


 行くあてもないし、そもそもこの世界の事なんて全く分からない。この先は何が起こってもおかしくない。一人でやっていかなければならない訳であって。助けは望み薄だ。


「……本当に行っちまうのか? 大丈夫だバレやしないからここに居ようぜ?」


 消してここから居なくなりたい訳では無い。この国で暮らしても良かった。だが、強欲の力がそうさせない。魔女の端くれと転生してしまったから。


 無言の返事を察するが、クエイは引き下がらない。


「じゃあアタシも付いていくよ! これならいいだろ?」


 ……正直言ってありがたい。だが、クエイにはきついだろう。


 人から嫌われ、何故か魔女からも恨まれている。絶対に助けられる自信は無い。俺に着いて来たらまずまともな生活にはならない。


「――ごめん。連れては行けない。危なすぎる。これからはある魔女を目指して旅をすると思う。何が起こるか分からない。」


「アタシだって役には立つだろ? 確かに魔女とかには全く歯が立たないけど……お前はこの世界の事全く分からないだろ? ほかの街に行ってもボッタクられたりして終わるだけだ!」


 ……その通り過ぎる。何も言えない。痛い所をついてくる。


「それでも、連れては行けない。クエイ、君はここに残っててくれ。確かにここに居ても裕福には暮らせないかもしれない。それでもここの中なら安全だ。せっかく一回守った人が死ぬのは嫌なんだ。だからクエイはここに居てくれ」


「――でも、」


「それに、クエイは強欲が嫌いだろ?過去に何があったかは知らないけど、間違いなく何かはあったんだろ?」


 クエイの言葉が詰まる。


「クエイはここに居てくれ。いつか勝手に門をくぐって会いに来るから」


「――そんな事したら捕まっちまうぞ?」


 決心したのだろう。クエイは少し笑いながら答えてくれた。


「まぁ、今日はもう日も暮れ始めているからな外には出れないぜ!」


「……確かにな。今日くらいはまぁ、良いだろ」


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