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第一章:第四話『二条の魔女』

 やはり異世界。しっかりと敵役もいるというわけか。かと言って今できることは無い。下手に死ぬのもごめんだ。一定以上の能力はあるらしいが、自分でもどの程度なのか分かっていないならば逃げるしかない。あの沢山の兵が向かっているのだこの国がこれで急に滅びました。という事もあるまい。


「どこか安全な所は?」


「この国の中なら安全だ。兵が守ってくれるはずだ! とりあえずアタシの家に来い! ナイフとかはあるから!」


 クエイの家に急ぐ。来る時とは違い人は消え活気が取り残されたようにそのまま残されている。不穏な空気が漂っている。この世界では魔物の存在が大きいようだ。


「そんなに魔物は強いのか?」


「当たり前だろ? 魔女の手下共だったら尚更だ! 魔女の力を分けて貰ってるかもしれない。そんな奴らにどう勝てって言うんだよ!? 英雄とかそのぐらいの実力者じゃなきゃ無理だ!」


 ――魔女。確かあの時魔女って聞こえたような……


 色々と繋がりそうで結びつかない。この襲撃もあのヒロインによるものなのか。となれば魔女によって転移してきた自分はどうなってしまうのか。嫌な予感が脳裏を横切るが考えていてもしょうがないと割り切ってクエイの後を追う。


「これ持っとけ! よく手入れはしてあるからよく切れるぞ!」


 貧民街に戻ってきて案内された場所の第一印象は正直に表すならば『ボロい』耐久力の問題もあるが家と呼べるのだろうか。魔物でなくてもイノシシが体当たりすれば崩れてしまいそうなものだ。


「まぁ、安心しな。ここらの貧民街は門からも離れてる。そう来ないから」


 安心もつかの間だった。眩しい太陽の光が一瞬だけ途切れた。上空を見上げれば何かが上空を通過している。影を目で追っていくとそれは段々と高度を落としていき、目の前に静かに降り立った。一人の女性が不気味な笑みを浮かべながら声を上げて笑う。


「全く驚きだよぉ、こんなちんけな場所に強欲の配下がいるとはねぇ~」


 強欲……やっぱり俺をこの世界に連れてきたのは……そんな事よりコイツは兵士どもを突破してきたのか? つまりは強いやつじゃねーかよ!


 脳内で色々なものが結び付き始める。絡まった糸が解けるように情報が頭に馴染む。


「私、強欲の野郎嫌いだから、アイツに嫌がらせできるなんて最高だねぇ~しかもクソ雑魚の人間だなんて楽勝すぎるわぁ~」


 高い声が一層に魔女という存在を掻き立てる。不気味でうるさい笑い声が心底嫌いだ。


「おい……強欲の使徒ってどういうことだよ? お前は強欲と関係があるのか?」


 クエイの表情が一変する。あの明るい感じからは予想ができないほど暗く、憎しみを感じ取れる声で問いただしてくる。


「俺は何も分からない! 何のことかさっぱり分からない! それより、アイツは何なんだよ!?」


 何も知らない事は無い。大体は把握した。あの神殿で聞こえた声、今俺が探している人は……


 この重い空気の中場を乱すような声で横やりが入る。


「私は魔女。あんたの少し長く生きてる老いぼれの強欲の魔女に比べたら、少し劣るところもあるかもだけど、とっても強い『二乗の魔女』だよぉ~」


「マコト……もしアイツが本当に魔女ならアタシらは何もできない。諦めるしかない」


 唐突の詰みの宣告。間違っても勝てる相手ではないと察しはついている。だがしかしここで諦めたくはない。焦り、冷静さを失い、貰ったナイフを構え突撃する――


「呆れた……強欲のお気に入りだから少しは出来る奴かと思えば……期待外れのクソ雑魚だったわぁー」


 あっさりと避けられ、がら空きになった背中を突っつかれる。ただ突かれただけだが、大きく倒れこむ。この世界で初めて味わう痛みは元の世界の痛覚とあまり変わらない。ただ元の世界ではこんな状況はあり得ない。


「本当に雑魚ねぇーただ突っついただけなのにこんなに吹っ飛んじゃって魔女の所に逃げて隠れてなさいよ雑魚」


「何をしやがったんだよ……」


「何って、これが私の魔女の力よ。いったでしょ? 『二乗 の魔女』だって。今のは攻撃の威力を二乗して吹っ飛ばしただけ。何度自己紹介すれば分かるの? 馬鹿には難しいかなぁ~?」


 何だよそれ! 強すぎるだろうが!? 普通に殴られただけで死ぬじゃねーかよ!!


 この世界の魔女の立ち位置は分かった。敵の中で一番強い存在が魔女だろう。序盤で出て来る敵ですら『二乗』とか言うまともに食らえば即、お陀仏の敵だ。


「……クエイお前は逃げろ。時間はあんま稼げないだろうが、これでも一応力はあるから、任せろ」


「アンタが頑張っても十秒ももたないでしょうね。だったらアタシも殺ってやろうじゃない!」


「カッコつけたかったんだけどな、まぁ、ありがとな」


「ハイハイ、かっこいい死にざまねぇ~」


 覚悟は決まった。クエイも、もちろん俺も死にたくはない。一斉に走り出し、殺しにかかる。能力の差は明らかだ。が、こんなところで死ぬ気はさらさらない。挟み撃ちにして攻撃をけしかけるが、


「当たらないよぉー? 本気でこの私を倒そうとか考えてないでしょうね? 笑わせないでよね、これでどう勝つって言うの? 大人しく無惨に殺されればいいのにねぇ~」


 やすやすとかわされ、当たる気がしない。宙をただ切り裂く音とあざけ笑う声しか聞こえない。無駄にナイフを振り下ろし、体力だけが減っている。


 期待をしていた。もしかすると力が覚醒すんじゃないかと、奥底では勇者になってみたかった。そんな妄想は現実を前に役に立たない。未来も見えなければ、いきなり動けるようにもならない。圧倒的な差は縮まることを知らない。


「もう遊びは終りね――」


 振り上げた拳は、殺しにかかるように固くは握られていないが、二乗……どうなるかは分からない。


 クエイが死を察知したのか、苦笑いを浮かべる。


 ――死なせない――!!


 一丁前に動いた体に鈍い音と共に痛みが駆け巡る。反動により吹っ飛ばされ、地面に伏す。口の中に広がる血の味、覚えのある味。


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