第一章:第三話『唐突な襲撃』
「――で、気づいたらここに居たのか。なんか信じらんねーな。マコトは死んでも生き返られるんだな」
道中長々と壮絶な一瞬の出来事を聞かせたのにも関わらず、あまりしっかりと伝わってない。正直語っている自分自身でもまだ理解しがたい。いや、理解はしている。信じがたいと言おうか。まだどこかでここは夢の世界だ。と、思いたい自分がいる。死んだなど考えたくもない。だが、楽しんでいる自分も否定はできない。
「そろそろ中心街だ!」
歩いて行くにつれ人の声が大きくなっていき、だんだん活気の溢れる街並みとなってくる。端にはいくつもの商店が品物を広げ見たことない物から地球に会ったものと似ているものまで多種多様にそろえられている。The,異世界と言う感じだ。
街には機械的なものは少なく、車の代わりに謎の大きくなった爬虫類にまたがり移動をしている。無論、元の世界では炎を自分の力で生み出すことなどできないが、この世界ではやはりそういうことが出来るようだ。適性があればの話なのでそう使える人間は多くは無い。
クエイ本人は使えないが使える人が近くにいたため、間近で見たことがあるそうだが本当に突然現れるような不思議なものらしい。是非とも見てみたいものだが戦場にでも赴かない限り見る事もないだろう。
当たり前のように見たことのない生き物に乗って移動する人たち、人間以外の特徴を持った人間、魔法、文明は全く違う。そんな世界線をどれ程夢に見ていただろうか、そんな考え事はクエイの声により思わず止まりただ圧巻な街並みに意識を取られる。
「着いた、ここが大都の中心街だ!」
噴水から水が上がり、大層立派なお城が奥に聳え立っている。ここから見えているだけでも十分な大きさだ。機械などは無いが建築技術は高いのがよく分かる。賑やかな大道りでは少し目を離せばクエイを見失ってしまいそうな程混んでいる。どこからともなく美味しそうな匂いが漂い、通行人の持つ食べ物に目を引かれる。いかにも何かを揚げましたという見た目だが匂いは美味しそうだ。
「スゲー……何か異世界って感じするわ」
「お前たまによく分からんこと言うよな」
一瞬だけの記憶、あの場所も城みたいな所だった。もしかするとあそこに手掛かりがあるかもしれな。そしてあの謎しかないヒロインも、
「あの城にはどうやって行くんだ?」
「お前本気か!?」
目を見開いて驚いているクエイを見てどこか地雷でも踏んだのかと焦る。城の中には入れないかもしれないがもしかすると入れてもらえる可能性もある。
「アタシらみたいな奴じゃ、近づけないよ。アタシはあそこ周辺が嫌いなんだ。最悪殺されちまうぞ?」
それは困るが、その他の道がない。普通のシナリオならば転移した後にあのヤバめのヒロインが登場し、魔王を打ち滅ぼせなどの話を聞き代々伝わる伝説のソードを手に入れて旅に出るものだったんだろう。しかし死んでしまい離れ離れになってしまった。早急にシナリオ通りに戻したい。
「じゃあこっそり近づこうぜ? 何があるかは知らないが、バレなきゃ大丈夫だろ。」
「これは、高くつくからな!」
この時金をとられると初めて知った。
愚痴を言いながらもしっかりと城まで案内してくれる。途中何回かはぐれかけたり等のアクシデントはあったものの順調に城へと足を進める。段々と人通りが減っていき道の脇にも何かを売っているような人の姿は見えない。
されに進んで行くとがやがやとして雰囲気は完全に消え失せどこかのお偉いさんかお嬢さんかが増えてくる。こちらを見る目も厳しいものとなってくると、ぶつかっても何も言わず舌打ちだけ残していくような人もいる。流石に貧民街の子と穴が開いたり赤く汚れた服を着ている人が通るのは確かにハードルが高い。
路地にはなんか強そうなやつらが待ち構えており、子供と、格闘系をやったことのない俺たちだけではまず、通れないだろう。
「悪いな。ここまで案内してもらって」
「いいさ。案内料にプラスしておくだけだからな!」
そんなお金は無い。もしやこのまま払わなければ高く売られてしまうのではないかと思い、逃げる準備はしておく。
そんなことで気が小さくなりながらも城の下まで到着した。遠くで見るよりも随分と大きい。繊細な装飾が施されている門からも高い塀からもこの国の偉大さが伝わってくる。
「ほら、行けるのはここまでだ。この先に行きたいなら、塀を超えて行きな。捕まっても知らないけどな」
「捕まりたくはないから、入らないよ」
だが困った。これではこの中に居るであろうヒロインに会えない。これ以上ストーリーが滞るのは勇者戦記が書けなくなってしまうと少し焦りながらもこれ以上はどうにもできない諦めはついいてる。本気で勇者になれるとも思っていない。
「で、この後はどうするんだ? 名前とか服装からして、この辺りの人間じゃなさそうだから何か起こるのかと思ってたけど、何も起こらないしな、帰るか?」
「収穫はゼロ。まったくこの世界はどうなってるんだよ。ヒロインに合わせてくれよ。……もしかしてこいつなのか?」
首を傾げながら早く帰りたそうにこちらを見返す。こいつではない。もう少し大人であって欲しい。この世界に来たばかりの自分を優しく支えて守ってほしい。
「おい。そこで何をしている?」
城の警備の人に声を掛けられる。確かに格好からして怪しい人と間違われても仕方ない。ここは穏便に対処するのが吉だろう。適当に茶を濁し名が退散を決断する。
「いや~何でもありません。失礼しました~」
急いで城を離れようとした時、鐘の音が響く。鐘が聞こえた瞬間、街があわただしくなっていく。段々と人通りが少なくなっていき、城から金属音が聞こえる。門が開き鎧を身にまとった兵士が外に出てくる。
「一体何があったんだよ?」
「分かるだろ? 魔物が来たんだよ!」