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第一章:第二十二話『魔力の使い方』

「……正義だ。この国はやってしまったのだ。してはならない事を。そして、君も――」


 自分の目にははっきりと映っている。彼女が執行対象であると分かる。この魔力量からして魔女、もしくは勇者だろう。そして書いてあった『魔女に加担した罪人』もしこの魔女が当てはまるならばこいつが元凶であり。コイツが一番殺さなくてはいけない存在。


「……いい正義ですね」


「ありがとう。だけど悲しい知らせがある。君も俺の正義によって殺される」


 十字架に貼り付け身動きを封じる。そこに二匹の蛇が地を這って襲いに向かう。ぎっちりと絡みつき、締め付けられる。


 何故か冷静で、抵抗も何もしない。今まで通り一方的に吊し上げ、殺す。


「正義……これが貴方の正義……」


 そうなるだろうな。傍から見れば虐殺に過ぎない。『いい正義』の意味が分からないが、ただ殺すだけ。


「……私の正義は守ること。ですが、裏切られてしまったのであれば敵です。単純に私の敵も敵です。貴方がまだこうして私を殺すと言うならば、貴方は私の正義に反します」


 吊し上げられているというのに呑気に話している。命はこちらが持っているのにも関わらず。


「……ダメですねぇ! 私は私の正義を貫いただけなのに……! こんな仕打ちなんて、酷いデすネェ……!!」


 予想は的中する。十字架を無理やり力で壊し、蛇を殺す。確信した。勇者という訳では無さそうだ。ならば、これほどの力を持っている奴らは一人しかいない。


 ――魔女――


「……私は憤怒の魔女、貴方ノ正義には不満があリマす」


 十三の魔女の一人『憤怒の魔女』こんな所で出会うとは思ってもいなかった。最善手を取らなければ死ぬ。執行者で殺せないのならばどうしようもない。


 未だ執行対象は生きている。バフも掛かったままだ。逃げ切るには難は無いだろう。


「クソ邪魔ダナ……正義ヲ掛ケテ殺ス――」


 明らかな変容。姿形は変わっていないが、明らかにおかしい。


 ここで争ってはいけない。負けるだけだ。


「……すまない。俺が間違っていた。間接的な人は含めない」


 執行者の対象を縮める。自分でも薄々分かっていた。あまりにも関係者が多いと、『害をなした』これだけで定義してしまったためにこのような事態が起きた。


「…………」


「これ以上の殺しはやめる」


「――なぜですか? あなたの正義なのでは? 私は見ていました。彼女が民衆の前で殺される所を。怒っていられるのでしょ?」


 怒っている。この憤怒は消えることの無い。そして悲しんでいる。初めてこの世界に来て、初めて仲良くなり、共に魔女を倒した。


 約束をした。会いに来ると。一度色々あり戻ってきたが、会ってはいない。その時には生きていたのだろうか、その時に会っていれば、あの時に一緒に来ないかと言えていれば、自分を嫌悪してしまう。


「許せないよ。だからこの国は壊す。人は選ぶ安心して欲しい。もう危害は加えない」


「……手伝いましょうか? 一瞬ですよ?」


 その方が楽だろう。魔力も使わなくて済む。だが、この怒りも消さなければならない。


「自分でやります。復習は自分でやる。これが正義ですから。でも一つ聞かなきゃいけない……」


 結論から言うと看板に書かれていた魔女は彼女ではない。ただ、強い憤怒に引き寄せられたとか、着いた時には憤怒の元凶は首を落とされていたそうだ。他の魔女は見ていない。純粋たる憤怒だったと言う。クエイは操られてもいない。全く見当がつかない。


「――では、お気をつけて。」


 憤怒の魔女はこの国を出ていった。これでこの国に自身より強い存在は居ない。


「ふぅー、じゃあ続きをしようか」


 迷わずにこの国の城へ向かう。道中の人は殺していない。ただ恐怖で立っていることも出来ない。泣き蹲るだけ。通り過ぎた後も頭を抱えどこまでも小さくなっている。少しやりすぎた可能性がある。しかしあれだけの対象がいると考えただけでまた一度締まったはずの怒りが漏れだし、オーバーエフェクトとでさらに跳ね上がる。魔王にでもなった気分だ。


「と、止まれ! ここから先は王城だぞ!」


 それを知っているからここまで来た。震えながらも槍をこちらに向け殺す準備は整っている。


「しょうがない。殺されるのは嫌だからね」


 《執行者》を使用し、先を急ぐ。後ろから聞こえる悲鳴には見向きもしない。


 扉を破壊し、上に向かう。転生してきた最初の国、一度来たことのある王城を壊しても狩り尽くしても罪悪感はまったく無い。それどころか気がどんどん楽になっていく。


「ちょ、待ちたまえ! 我は一国の王だぞ!」


 だからなんだと言うのか、もし魔物に殺されたと分かればその魔物を滅ぼしに行くし魔女に殺されたと言うならはその魔女を殺しに行く。実に簡単なことでありそれでは言い逃れはできない。待つことをせずにただ前に進むけたたましい魔力を溢れさせ目でとらえる醜いこの国の元凶ともいえる人間。


 クエイの仇……


「や、殺れ! 王国騎士団!」


 見るには強そうな男が剣を振るいあげる今まで戦った中では一番がたいの良い男だが強そうには思えない。魔女のような圧倒的な魔力も無く非力な攻撃。あの勇者のように技術が一流かと言えば秀でることの無さそうな動きだ。その時点で勝つ事は不可能である。


「奴の事は前に調べてある。実力は勇者までとは言わない! 貴様でも勝てるぞ!」


「分かっていますよ! 負ける気はありませ――」


「ディビィニティ・カルネージ・バースト」


 騎士の決意を軽々と破壊する。剣に込められた怒りと憎しみ、憎悪の魔力を込めて打った技は貯めた時間が少ないせいかそれ程の威力は出なかったが切った部分から破裂していき凄惨な死を与えた。飛び散る血が王にもかかり発狂。一国の王とは思えないほど醜く縋り付き乞い始める。


「落ち着いてください王よ。アレはただ魔力を飛ばす事しかできない赤子です」


 そんなことを言われようならばこみ上げるものを抑えようがない。もう一度、さっきより多めに魔力を溜め剣を振るう。


「《不壁落》――!!」


 確実に先ほどよりも溜めたはずだ。威力も今の方が強いはず。しかし目の前を見れば盾を構えた男が攻撃を完全に受け切った。結界を張り魔力見ても大した量ではない。アセナより少ない。それなのに攻撃を受け切った。


「これだから魔女の奴らは……魔力の使い方も分からないのか?」


 意味が分からない。なぜ防げる驚きが表情にまで表れてしまったのか相手は余裕を出し始めニヤける。しかし余裕も油断ではない。王国騎士に相応しい力だった。一人だけがこの実力とは思えない。盾、槍、剣、弓まだ四人も残っている。初手の不意打ちで一人倒したのは大きかった。魔女でも無いただの騎士だが油断が出来ない。


「行くぞ! 隊形を崩すな!」


 普通の攻撃。二乗の様に当たった瞬間死の可能性も低い。急所に当たらないようにすればいいだけ。《執行者》と魔力操作により身体能力は上がっている。決して避けられないほどではない。だが攻撃に転ずる事が出来ない。隙を他の奴がカバーし一瞬の隙を突く事が出来ない。


「《ファントムスピア》――」


 技もそれほど威力は高くない。簡単に避け切ったつもりだった。しかし刃先は身体を傷つけた。


「魔力か!? 瞬発的に出したのか!!」


 初めてのこの世界出身のチートでない強者との戦闘。国を一つ作れるレベルの大きな能力もなければ、魔女の血を取り込み膨大な力を会得した者でもない。この世界の知恵と日々の鍛練により這い上がってきた。『異世界転移からの転生で最強魔女の能力ゲットで気ままにハーレム覇王ライフを送ります!』とは行かない人の力を思い知る。


「いいな……! そういう静かな攻撃も中々だな!」


 静かで繊細な戦い方。動きは氷上を舞うように滑らかに、そして水面を揺らさないのを意識するようにバランスを考えできるだけ動作を抑え静かに、木の葉が落ちるように……


 想像したものが《オーバーエフェクト》によりすべての視界に映る。本当に氷上を舞うように物静かな戦闘になる。足音も全てが消え失せ一つの芸術を見ているかのように命を狙われている王さえも少しの間息を飲んだ。


 兵の攻撃も演出の一部でありここでこう避けるのも決まっているかのような動き。今ままでに舞った跡が線のように残り、重なり、空白を埋めていく。いつしか線は兵を囲むように辺りに広がっている。


「そろそろフィニッシュかな。感謝するよ対して魔力も使わずに済んだ」


 剣を一振り、音楽を締めくくるように振る。それに合わせ線も兵を巻き込みながら集まる。


「ディヴィニティ・カルネージ・モルテ――」


 悲鳴、喝采も聞こえずに静かに戦闘が終わった。一瞬で細切れになる兵に叫ぶ余地も無い。無論この状況を見て喝采する者もいない。残り二人王と一人の弓使い。有意義な戦いだった。この国を壊す戦いも終わったかのように近づく。


「王! あれを使います!」


 一瓶の赤い液体に入ったものを飲み干す。途端に胸を押さえ苦しみ始める。何事か分からないが一歩近づいた時感じた魔力。今ままでこの空間に無かった大きな魔力。弓を構え弦を引く。矢先に溜められる魔力は早々に人間に出せるものではないだろう。ここであの瓶の中身に気づく。


「貴様を! 射殺す!!」


 普通にしていればまず確実に死ぬ魔力量。周りに電気が走っていることから雷魔法も付与され避ける事は出来ない速さに達しているだろう。


「……ただ魔力で殺すのはもう慣れているそれには驚きも称賛もしないよ」


「ディヴィニティ・カルネージ」


 兵を殺すつもりだったが王様も巻き込んでしまいあっけなくこの戦いが終わる。これでこの国への復讐が終わった。終わってもあまり済々などしなかった。


「はぁ、とりあえず終わりか」


 城の外を見ればまるで地獄のようだ。血生臭く嫌な匂いが漂う。さっさとセレーナの城に戻りたい。そんな事を思いながら外を見ていると轟音と共に光の柱のようなものが国の壁の向こうに見える。侵入した所ら辺であり、憤怒の魔女が向かった先、嫌な予感が全身に走る。


 窓からでも飛び降り全力で向かう。間に合ったとて憤怒の魔女には勝てない。待機しているであろうあの三人なら尚更である。


「憤怒の魔女!!!」


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