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第一章:第二十一話『暗転』

「いつもの日常とはおさらばだ!!」


「肉ですー! 肉てすー!!」


「…………」


「使徒様! 使徒様! 肉です!」


「よし! 肉にするぞ! ララノア!」


「えっと……肉ですね、あまり調子に乗らない方が良いと思いますが、」


 ララノアの言いたいことは分かる。さっきからものすごい殺気と言うべきか、圧を感じる。


「……良いだろ? セレーナ……?」


「……はぁ、使いすぎては行けませんわよ?」


 黄金の魔女を倒し、金をありったけゲットした。本当に黄金の魔女を倒したのかは分からない。だが、逃げれたのだから良しとしよう。


「この肉も買うです!」


「じゃあこれも買ってしまおう!」


「これも食べたい」


「良いぞララノア好きなものを買え」


 大量の肉を買い、街から少し離れ盛大に火を焚く。勝った祝いの楽しい夜がすぎていく。


 朝は適当に高そうな店に入り適当に食べる。あとの時間はゴロゴロと悠々自適に過ごした。


 体力、魔力が回復する間この生活を続けた。


「――そろそろ私の城に戻ってみるのもいいと思いますわ」


 当初の目的は城の工事資金だったからな。そろそろ戻った方がいい。


「一つ寄りたい国があるんだが、良いか?」


 あれだけ裕福な暮らしをしてもまだこれだけの金貨が残っている。黄金の魔女はもう会ってくれないだろうからな。


 馬車に揺られ何日か立った時、見慣れた国の城壁が見え始める。


「クエイはなんて言うかな~驚くだろうな~」


 そう、クエイに会いに来たのだ。案外再会と言うものは早いもので、まだ一年も経っていないだろう。とは言え半年ぐらいはたっている。城でダラダラするだけだったがな……


「さて、二乗の魔女みたいに空から入れれば良いんだけどな」


「持てる金貨が多少少なくなりますが、飛ばすことはできますわよ」


 セレーナに連れられ空中にふよふよと浮く。


「こっからは投げますわよ?」


 セレーナにはもう触れられていないが、感触が伝わってくる。段々と高くなっていき、壁の高さを超える。大きく揺れたかと思うと、上空へ投げ飛ばされた。


「着地の事考えてなかったな……」


 上に飛ばされ段々とスピードが落ちていき、また今度は段々と速さが上がっていく。


 魔力を放出し、なんとか勢いを殺そうとする。


「セレーナは隕石を落としてるですか?」


「あれは……使徒様ですねこっそり忍び込む予定があんなに目立ってしまっては着地地点に兵が待っている事でしょうね」


 隕石の様に着地し、辺りを見回す。クエイの家の近くではない所に降りてしまったようだ。


「あの門から前に襲撃があって……て、事はもうちょいあっちか」


 ガチャガチャと鎧のうるさい音が聞こえた気がして急いでその場を離れた。


 日が暮れ始める頃やっとクエイと通った事のある道を見つけ、それをたどり家に向かう。


「お、あった。クエイ~?」


 しかし、返事はない。外とは布一枚で隔てているだけだから近いた時にはいないと分かっていた。


「待つか……」


 だが、日も完全に落ち、月が薄く光る夜となった。さすがに遅いと不安になりつつも、あのクエイなら根気強く生きているだろうなどと思っていた。


 久しぶりに帰って来たのだから街を見て回ることにした。兵が沢山いるが、自分とは反対の所で魔力を少しはじけさせ、注目をそらしている。


 少し開けたところ、目には見たことの無い柱が立っている。上を見れば鳥が集り、餌でも採っているのだろうか。地面にはシミが残っているが、暗くてよく分からない。


 手前に机があり、何かが乗っている。ボールのようにきれいな丸ではない。何度も、生きていれば絶対に見るもの。それをこうして見ることは少ないが、この世界に来て何度か見たことがある。


『――魔女に加担した罪人の首――』


 面影があった。綺麗な金髪、整った顔立ち、しかし骨を砕かれたのだろういびつな形となっている所がある。


 怒りが漏れ出し、柱の上に集っていた鳥たちが鳴きながら羽ばたき飛んでいく。


 自分でもはっきりとしない感情。怒りは勿論あるだろう。だが悲しみもあれば、まだ理解しきれていない疑問も浮かぶ。なぜ死んだ。なぜ殺された。誰がやった。なぜこうなった。考えれば考えるほど分からない。ただ、魔女が関わっている。訳の分からないまま感情が重なり、気持ちが悪い。


 クエイとの思い出が脳内を回り、思い出させる。


 どうして。


 一緒に居た時間は確かに少ない。しかし苦楽を共にした。魔女を倒した。俺たちは英雄となった。


 どうして。


 約束をした。また会うと決めた。


 どうして。


 貼り付けられた身体。


 どうして。


 目の前にある頭。


 どうして。


 クエイの身長も丁度このくらいの高さだった。


 どうして。


「――クエイに害を与えたのは誰だ……!!」


 能力《復習者》を使用する。復習の対象まで赤い線で導き、遂行までバフが掛かる。


 視界は真っ赤になった――


 視界がすべて赤く染まる。復習者は対象一人にバフが一回入る。今までに無いほどの力がみなぎってくる。どうにかなってしまいそうだ。


 ――今すぐに、コイツらを……殺したい……!!


『条件を満たしました。能力《復習者》が能力《執行者》となりました。』


 赤く光る通行人。この人もきっとクエイに害をなした。そして執行対象となった。


「そうか、国か……国がダメなんだな、もう!!」


 周りを歩く赤い人たちが十字架に張り付けられ、宙に浮かぶ。ヘビが体を這い、締め付け、首元で鳴き執行の合図を待つ。恐怖に怯え、騒ぎ立てるが気にも留めずに、また一人また一人と吊るし上げていく。


 目に見える範囲の人間は張り付けられ恐怖に怯えている。


「た、助けて……」


 上から静かに滴る血液がゆっくりと地面に落ちて行き弾ける。次第に流れ落ちる血液の量は増えて行き、ボタボタと音を鳴らしながら恐怖の声は消えていく。


 しかし、怒りも消えなければ、真っ赤になった視界も戻らない。ゆっくりと歩いて行き自分の放った魔力に引き寄せられた兵士達の所へ向かう。視界に映る赤く光った人間が張り付けられ、宙に浮かんでは血を垂らす。

 兵士も戦うと言う思考ではなくなり、ただ畏怖し、逃げ惑う。しかし執行者からは逃げられない。魔力を基とした蛇が足を絡め取り、張り付けられてから全身を絡める。


 人間の下っ端兵士では手も足も出ないまま、死んでいくだけだ。


 国中を徘徊し、殺す。だが、無差別殺人では無い。執行者の名のもとに罪人、今ではクエイに害をなした者だけが吊るし上られる。家の中、楽しく団欒でもしていたのだろうか、それが突然終わり、親が吊るされ死ぬ。子供に罪は無い。大人が悪い。


「いや、周りから見れば罪人は俺か……」


 泣き声が響き、汚い叫び声、汚い手、汚い地面。


 通り過ぎ、後ろを見れば赤い視界は薄くなる。地面にはそれよりも暗い赤が広がる。


 視界も良くなってきた頃一人の女性が目の前に立っている。少し恐ろしさを感じる。まず普通の町人では無い。服装からして、そしてもう一つ確信的な事がある。魔力が異常だ。隠しているつもりだろうが、


 ゆっくりと口を開き、問いかけられる。


「それは、正義ですか?」


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