第一章:第二十話『欲しがり』
『――解。自爆』
やはりここで生きて帰る事は難しいか。ここに未練んも何もない。今すぐここから逃げ出したいが、セレーナやララノアの命は保証されていない。ここで逃げだせば二人が死ぬかもしれない。
「ちょっとだけ時間稼ぎするから、相手になるよ黄金の魔女」
「魔力だけでは生きていけないよ? しっかりと技を使わなきゃね。こんな風に――」
左右、前後ろ、上にも影は無い。一体どこから……
「この国は私が作ったの。だからここの黄金も自由自在」
笑う歯から喉の奥まですべてが黄金。声を聴くだけで眩しいと思えるほどに、
「……ッ!!」
地面が盛り上がり、大きく空中へと飛び上がる。下には黄金で出来た棘が確実に殺せるほど研ぎ澄ませれている。
「ディヴィニティ・カルネージ!!」
根こそぎぶっ壊すが、その奥にも黄金の輝きが見える。
時期に着地しなければならない。下は地獄。確実に死ぬ。黄金は赤く染まりる。
これ、死んだらまた転生できるのかな……?
しょうがない。どうなるかは分からないが、やってみるか――
全身の魔力を感じと取る。血液の様に流れる魔力を心臓に集める。さらにまだ残っている魔力も、すべてを出し惜しみなく。今までのすべてを、今までで一番カッコよく。最高にオーバーに……
「使徒様……? 大丈夫です?」
少し離れた所からでも感じられる圧倒的魔力。そこだけが空気違う段々とその空気は広がていく。否、魔力だ。
「アセナ! ここも効果範囲に入るかもしれません! あの規模、一国を破壊する勢いですわ!!」
さらに、さらに……! すべてのバフを使い、善能力値を上げる。
全魔力の解放に耐えられなくなってきた体が熱を発し、口から漏れ出る血の量が起死回生の適用範囲までくる。
残りの寿命が短いということを分かりながらもさらに上げていく。
「強欲!! だから嫌いなんだよ!! お前らは!」
視界が真っ暗になる。黄金により閉じ込められたのだ。
これじゃあアイツを巻き込めないかもしれない。
「強欲の魔女!! 力を貸せ!!!」
しかし、応答はなく依然として死に向かって行くだけ。
新しい能力は無しかよ……いい感じで生き残れるかと思ったんだけどな。
心臓がこれ程まで速く脈打つ事があるだろうか。一回の鼓動の終わりには次の鼓動が始まっているような感覚。
体がとてつもなく熱く、意識がボートする。
『――が解放されました。最大魔力量の十%を――』
どこからともなくさらに溢れ出る魔力。さすがに体が持たない。
体に集めた魔力の塊をゆっくりと外に出す。それを素体としてさらに魔力を流し込む。
体が吸い寄せられる様な気がするがお構い無しに続ける。
外から聞こえる轟音。この黄金に何かが打ち付けられているのだろう。
「セレーナ! 使徒様は大丈夫です……?」
逃げている最中の目に飛び込んだのは都市一個分の建造物全てが一箇所に集まり防ぐ様である。無理に固められた球体はさらに大きくなっていく。
「使徒様出れないです! 助けに行くです!」
「ダメだわ。ここからでも感じ取れる……あの魔力はもはやちょっとした攻撃なんかじゃない」
「私達では死んじゃうわ。重力も歪み始めている。」
集められ、固められた魔力は質量を持つ。それがさらに固められ高質量を持つ物体となる。
この作り出した魔力の結晶、魔力の星には重力が働く。微弱ながらも吸い寄せる力がある。
さらに集めら固める。中心の魔力はどうなるか、周りからの圧力により、魔素は崩壊する。
崩壊した時のエネルギーがさらに固められる逃げ場のないエネルギーはさらに肥大し、大きくなる。
圧倒的魔力量があるからこその技。転移時、転生時に貰った魔力、強欲の魔女の魔力、そして開放された魔力。彼だからできる技である。
この魔力が爆発すればどうなるか。まず、ここら一帯は消し炭になるだろう。黄金の魔女も分かっている。威力を半減させようと黄金で固める。国全体の黄金を彼に集中させ、全力で食い止める。ここで殺すことによる暴発より、万全な防御を取り完全に封じ込める策に出たのだ。
――これじゃあ、俺が死んじゃうな……
何度か経験のある感覚。この状況でも冷静でいられるほど感覚がおかしくなっているのだろうか、
……感覚はもうないか。
「――ダメ……死んじゃダメ。私がせっかくまた呼び寄せたんだから。ダメだよ? 生きて」
はっきりと聞こえる声、見えない姿。前と同じ嫌悪感。強欲の魔女だ。
「助けたいのだけど、少し離れているし、強制の魔女が邪魔でね……ごめんねぇ。助けたあげられなくてぇ、そんなに傷つけちゃって……」
感覚も消えたはずだというのに全身をまさぐられるような感覚が駆け巡る。
「私が守ってあげるからねぇ――」
声が途切れ、解放される。そして響く声。
『条件が満たされました。強欲の呪いが付与されました。『欲望過多』によりシンクロが起こります。』
痛みが消えた。それどころか、さらに魔力が増えた様な気がする。しかし慣れた力ではない。嫌いな魔力。不快な魔力が体内を流れるのを感じる。
さっさとすべを吐き出したい。
「――ディヴィニティ・デモリション ……!!!」
魔力を流し続け、中心のエネルギーを止めていた魔力を止める。解放されたエネルギーが爆発する。
一瞬の光を感じ取り、意識が無くなる。
「セレーナ!! ヤバいのです!!」
いとも簡単に黄金を砕き、粉々にし、塵まで消す勢いの爆発。激しい光と衝撃波が伝わり、何もかもが崩れ壊れていく音が聞こえる。まるで一つの星が爆発したような大きな爆発。
何も残さない光に包まれる。
***
辺りは更地と化し、立派な黄金の宮殿はどこにも見当たらない。小さな金が辺りに散らばるばかりである。
「使徒様ー! どこですー?」
遠くから聞こえるアセナの声。あの爆発で何故か生きているようだ。自分の視界には青い空が見えている。黄泉の国ではない。
『《希望の魂 》が発動しました。』
頭に響く声、『発動しました。』土壇場で能力を獲得していたのだろう。
「使徒様ー! 生きていらっしゃいますわよねー?」
声が聞こえるが、中々ここまでたどり着かない。こちらも呼ぼうとするが、声が出ない。体に痛みはあまりない。バフの効果を受けているのだろう。《起死回生》か、《死に物狂い》。どちらにせよ瀕死でしか発動しない。状態はあまり良くない。
「使徒様居たですー!」
視界の上からひょっこりと顔を出すアセナ。見た感じ重症では無い様だ。逃がして正解だった。
「使徒様体がないですよ!?」
「ゔぁ!?」
「生きてたです! ちなみに体もあるです」
無かったら死んでるだろ……
確認の仕方に少し思うところはあるが、良いとしよう。セレーナ、ララノアも合流し、皆無事のようだ。
アセナにおんぶされて近郊の街まで行くことにした。
黄金の宮殿は跡形もなく。散らばる砂金が多少すごいと思える程度にしかならない。黄金の魔女がどうなったかは分からない。多分生きているだろう。
「そう言えば、あの勇者はどうしたんだ?」
「適当に置いて来たです。生きてるです」
「ならいいか」
「また、襲われるかもしれませんわよ?」
「使徒様の方が強いから大丈夫でしょう」
「俺は魔女も退けたからな!」
何事も無かったような他愛もない話、金も集まり、日常へ戻る。




