第一章:第二話『ヒロイン』
彼、夏川 誠はその日も何ら変わりない日常を送っていた。学校に行き座っているだけでしっかりと聞きはせず、適当に過ごしていた。決して成績が良い訳でもないが人並みには考える事はできる。懸念があるとすれば少し漫画やアニメの見過ぎだろうか、こんな状況に陥っても精神は安定している。夢にまで見た異世界転生。現実で起こるとはさらさら思っていなかった。
つまらない学校も終わり、一人で下校中。いつもと同じ光景。軽い鞄を置いて、少し長い信号を待っているときだった。
瞬き一つ。そこはいつもと違い、知らないところだった。
そんなとことを疑問に思っているのもつかの間、後ろから斬られ、意識が無くなり、現在に至る。
――《《また》》、知らないところ。
辺りを見渡すが知らない所だ。さっきのところとは大きく違い貧民街の様な所に立っている。建物はボロボロで住むのには向いていないだろう。地面に広がったゴミは通るのに邪魔で蹴っ飛ばしてでも歩いたのか、通れるだけの道しかない。転生場所としては最悪である。
人はいるようだが、皆覇気がない。あまり食べれていないのか、痩せている。人だけではなく、ふさふさとした耳が頭について尻尾も付いている。
「獣人? あーー……あ~ね」
『――により称号:《転生者》を入手しました。《転生者》により一定以上の力の譲渡が行われます。第三者からの妨害を検知しました。能力の引渡しが大幅に遅延します。』
『――回収に失敗しました。常時更新して――』
『――憶の確定が不安で――』
『妨害が入りました。対処には時間がかかります。』
『――失敗しました。』
『――器が足りません。』
『魔力の上限の拡張――』
『――称号が失われました。』
『失敗しました。』
『――情報過多。』
『失敗しました。力の定着が強いです。』
『強欲の魔女――ため、使用が一部解放。』
『――には失敗、並びに他三十八件も失敗しました。』
『接続出来ました。不安定なため、時間がかかります。』
『新たな存在を確認――』
『――――』
何十にも重なった同じ声が頭の中に響き、聞き取ることが出来ない。無数に聞こえてくる声が頭を痛くする。
最初のいくつかは聞き取れた事もある。転生してきたということだ。少し振り返ると痛みまで思い出せる。背中の傷と胸に突き刺さる剣、痛み。ドクドクと流れ出し止まらない血。
あれ? 体はどうなっているんだ?
「――傷がない」
背中を切り裂かれ、突き刺された傷が全く無い。しかし、服は破れ、シャツには自分の血がベッタリと付いているためあれは本当に遭ったことであり、これは夢ではない事を理解させられる。
分かってはいたが本当にあそこで自分は死んでしまったと考えると実感が湧かない。
「けど、生きてるな」
何ともあっけなく第一の人生が終わってしまったものだ。なぜ俺は死んでしまったのか、だれに殺されたのかも全くわからない。
「……転生って本当にあるんだな」
一度は夢に見た事もある転生だが、本当に起きてしまい困惑の中、妙に面白がっている自分を覚える。
でも、まだお約束の可愛いヒロインが見当たらないぞ?
もしかするとハーレムでも作れるのではないか? という下心満載の異世界ライフを思い描くが、そういう感じの世界線ではないということはもう気づいているため、少し落胆する。
……もしや、さっきの声の人がヒロインなのか? なら俺、死んでしまったぞ?
「これ……詰んだやつか?」
少し冷静に考えてみると、色々気になる。最後に聞こえた声は味方ではあるのだろうがどこか嫌悪感を覚えている。もしあれがヒロインであるならば結ばれたくないものだ。何のためらいもなく人を殺す狂人。まず普通の人間ではないだろうということは分かる。
しかし、この世界のことなど分からない。現状一番僕を導いてくれる人であろう。ならばあのヤバいヒロインであろう人物に俺を見つけてもらい、助けてもらうしか生きていく自信がない。
「となると……まずは『ヤバいヒロイン』を見つけ出し、助けてもらおう!」
「――男が最初から助けを求めて行動するとか、ダッサイな」
勢いよく振り向くとそこには、自分よりも身長の低い少女が立っていた。
着ている服などからして、ここに住んでいるのであろう。服が少し破けているが、お構いなし。だが、顔立ちは整っており長く綺麗な金髪が後ろで結ばれている。この年でこの髪色ではだいぶ目立つと思うがこの世界では普通なのだろうか、獣人がいる時点で何でもありだとは思っていたが元の世界の一般常識は通じないのかもしれない。
この世界は貧民でも可愛いという事が分かった。
ハーレムライフは完全には終わっていないようだな。
「……なんだよガキ。男だって知らないところに来たら助けを求めるんだよ」
「誰がガキだよ!? 一応これ でもアタシは十は越えてるんだからな!」
いや、ガキだろ。というか、十才の子供がこんなところに居るってことは、あんまり良くない国に来ちゃったようだな……
現代知識を使って無双するほどの知力はあいにく持ち合わせていない。こんな事になるならば火薬の使い方とかは知っておけば良かったなど元の世界でしっかりしておけばと思う。
「おい、お前さっき『知らないところ』って言ってたよな? もしかして奴隷で捨てられたのか? にしては……傷はないみたいだが。」
今いる場所からして治安とか社会構成もやばいんだろうなとは思ってたけど、奴隷までいるところに来ちゃうとは……絶望的すぎる。転生者とか高値で売れるんだろうな。
異世界転生はチート能力を持って生まれるのが王道なため正直甘く見ていた。現状況を把握しこの世界を考察する。日常スローライフも描けそうにない。
「別に俺は奴隷じゃねーよ。ただ、……気が付いたらここに居たんだよ」
「まぁ、捨てられたんだな。ドンマイ、ドンマイ! 強く生きなよ!」
なんだこのガキは。煽りに来たのか? こっちは急に飛ばされてこっちに来ちまって頭に来てるんだぞ。茶化されるだけならもう行くか。
少しずつ苛立ちを覚えてくる。この状況を打破する力も無ければ助けを求める相手もいない。お人好しヒロインが助けに来ないのはおかしい。
「けど、捨てられちまったのは可哀そうだしな。アタシがこの辺りを教えてやってもいいぞ?」
この言葉で一気に気持ちが晴れる。さっきまでの苛立ちも、コイツに対する不満もすべてが消える。手のひら返しも良い所だ。自分でも心底思う。
しかし、見知らぬ所に一人で行こうものなら、絶対にこの世界の地雷を踏みまくって、いちゃもんつけられて最悪の場合捕まったりするかもしれないが、現地住人と一緒に回れば色々小技的なものまで教えてもらえる。ならば断わる理由がない。
「ぜひ頼む! 助かるぜマジ!」
「分かった。助けてやろう! アタシはテルフォード・クエイよろしくな。」
「俺は夏川 誠だ。」
クエイは少し首をかしげた。