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第一章:第十九話『降参』

 大量の金貨を先程乗ってきた奴らに乗せることで馬車を借りるお金を削減。やはりあそこで借りたのは間違っていなかった。こっちで借りたほうが安く済んだという現実は見なかったことにする。


 変な生き物に引かせて帰ろうとしていた時だった。聞き覚えのある声が聞こえてくる。The 日本語文、半殺しにされたのを思い出す。


「ここで会ったが百年目! その首討ち取ってやるぞ!」


「……元気だったか? 天野 勇成!!」


 両者とも臨戦態勢。黄金の武器が形を変え、槍となる。前の戦闘で黄金の武器を使っていたが彼もまた黄金の魔女に気に入られた存在だったということだろう。お金ではなく変形する武器をもらったということだろう。


 こちらも負けじと能力《復讐者》 能力オーバーエフェクト 能力オーバーアクション 能力《勝利への途中式》己の最大限の力を出す。立ち上る魔力はハッタリでは無い。ハッタリも含まれているが今度は全てでない。自身の成長がよく分かる。


「解を出せ!」


『――解。普通に。』


 この能力ふざけてんだろ?

 愚痴をこぼしつつも負ける事は無いと思っている。こちらは戦った経験のあるアセナ、エルフだから強いだろうララノア、普通に厄介なセレーナも居る。このメンツで負けるわけが無い。


「何のために俺がここに来たと思う? この単身で乗り込むには訳があるとは思わなかったか?」


 鎧の色が変わっていく。正確には上から金に覆われて行くだけなのだが、


「アセナ、アイツを持っちゃダメだぞ。鎧に刺される。」


 この勇者も黄金の魔女に認められた。そしてコイツは今日また武器を貰った。自由に変形出来る鎧ともなる武器を。変形できるということを考慮すれば全身が棘のようになる可能性がある。圧倒的な戦力の差はあるが油断はできない。


「さて、準備は整ったか? 行くぞお前達!」


「《大氷河》」


 一直線に地面が氷始める。


 凍てついた地面からは冷気が発せられ近づきたくもない。勇者はそれに足を拘束され身動きが取れなくなる。絶好の機会。


 アセナがまだコントロール出来ない魔力を力任せに解放し、勇者を目掛ける。防御力に自信でもかあるのか一向に動こうとしない。


 とてつもない衝撃音と共に砂煙が上がる。地面を覆う氷まで粉砕する威力伝わった衝撃波は黄金にも伝わり周りの家にも被害が出る。それをもろに食らったのだ生きていては困る。


 流石に死んだだろう。フラグとも分かりながら確信する。


 そしてフラグ回収。大きな黄金の盾に守られ氷も抜け出している。


「そりゃ一筋縄では行かないか……」


 ゆっくりと形を変えていく黄金を前にどうするべきか分からなくなる。


 攻防共に強い。しかし向こうは一人しかいない。どうやって数の有利を生かすか。


 このまま波状攻撃のように削っていくのが途中式さんの言っている事だ。


 しかし、あくまでもこの状況下での話。相手の仲間が来ればもう一度解き直す必要があり、勝てるとは限らない。


「《死霊の呪い》」


 あの勇者は知らない技だろう。実際見るに困惑している。黄金の鎧により腕は潰されていないが、動きは鈍る。


「《大氷弾》」


 巨大な氷が空中で生成される。ララノア自身の魔力で作られた氷は周りの水蒸気も使いすぐに大きくなっていく。


 重さに耐えられなくなったように落ちる。何にも抵抗もせず、ただ潰されるだけ。


 激突の衝撃により粉々に砕け散る氷が美しく見える。綺麗な白色……


「これでも死なないのか。流石勇者と言ったところかな?」


 丸く固められた黄金が周りを包み氷は届いていない。


「悪い魔女に加担する極悪人どもめ! これが僕の力だ!!」


「強欲はダメで何で黄金は良いんだよ? おかしいと思わないか?」


「知らん!!」


 ダメだこいつ……


 アセナが先を急ぎ走り出す。先程と全く変わらない攻撃方法


「混金武器・アックス!!」


 すぐさま形の変形が起こる。アセナなど一刀両断できるのではないかと思う程の大きな斧となる。


 かろうじて避けるも、深く罅割れた地面から攻撃の威力が伺える。


「それぐらい俺だって出来るわ」


 拳を握り思いっきり地面を叩き割る。


 オーバーアクションの効果によるものであり純粋な力技では無いものの、力を見せつける面では効果抜群だろう。


「俺はこれだけじゃないぜ!?」


 武器から電気の流れる音がする。


 相手の強さがビリビリと感じ、鳥肌が立つ。


「俺はお前と戦った後に特訓を詰んだんだよ。この魔力をどうするか考えた。そして手に入れたんだこの魔道具を」

 全てが黄金の装備の中に一つ違うものがあると思ったが、アレがこの雷を操っているのか。


 ネックレスぐらい簡単に破壊できそうだな。


「あのネックレスを狙え。アイツの雷の動力源だ」


 アセナ、セレーナ、ララノアが目的を絞りネックレスの破壊目当てで動く。


 簡単な狙いが定まればコチラの物だ。だが、相手も勇者そう簡単には行かない。攻撃は避けられ、捕まえてもすぐ逃げる。


 只々黄金の都市を壊しているだけである。埒が明かない。


 鞘から剣を抜き出しゆっくりと刃先を勇者に向ける。


 全身にに流れる魔力を感じ取り剣へ流す。


 先端に、より鋭く、尖り、高密度に。


 辺りが暗くなるように強欲から譲渡された魔力が辺りに漂い始める。


 赤子であろうと感じ取れるこの魔力。気づかない訳もなく慌てふためく。


「――ディビィニティ・カルネージ・パチッシュ」


 まるで糸のように細い魔力が剣の先端から一直線に伸びる。


 魔力の糸。否、レーザーと言った方がしっくり来るだろうか。勇者の肩に差し掛かり、爆ぜる。


 細かく無数の爆発が黄金の装甲を剥がす。そこに加わる第二の刃。


 爆発の後を追うように本命の攻撃が刺さる。


 極限まで濃縮させた魔力の解放。一直線上に効果範囲を狭め線上を剥ぎ取る。


 黄金の鎧などいとも簡単に削り取り、空中を舞う。


 黄金の中に飛び散る真っ赤な血が引き立つ。


 高く吹っ飛び、血を撒き散らながら嫌な音を立てて落ちる。


「もう降参したらどうだ?」


「僕は勇者だぞ? この借りも返してやらないと行けないしな」


 大量に流れる血が地面に跳ね飛び散る。ボタボタと止まることを知らない。


「……お前の左腕もきっちり切り落としてやるよ。魔女の使徒!」


「――!? アセナもう良い! アイツは戦えない!」


 魔力を手に纏いしっかりと殺せる威力の攻撃。片腕では防ぎきれないだろう。


 しかしその攻撃は弾かれた。分厚い黄金の壁によって。


「私のお気に入りと国を壊すつもりか強欲の使徒? アセナたんには手を出さないが、お前は違うからな?」


 先手必勝、逃げの一手。魔女に勝つことは難しい。どこぞの二乗とは違い、こちらを完全に敵視し油断をする気配もない。


 思いっきり逃げようとするが、足が動かない。


 足元を見れば黄金がまとわりつき、足が抜けない。


 前を見れば黄金の魔女の姿は無い。


「……へ?」


 当たりが暗くなる。自分の周りだけだ。少し見渡せば他は明るいままである。


「おいおい、黄金の魔女さんよ……」


 ゆっくりと上を見上げると、太陽を隠すほどの大きな黄金の塊が上から迫ってくる。


 激突により黄金が砕け、辺りに拡散する。


「うわっ! 使徒様大丈夫です!?」


「大丈夫だよ。破片は当たってないか? ここまで飛ばしたのは俺だからな」


 あの質量の攻撃を簡単に総裁は出来ない。奥の手でもある『ディビィニティ・カルネージ』で吹き飛ばした。


「すごい技だな。魔力総量が私より多いからなせる技か。強欲ってのは使徒にこれだけ魔力をあげて大丈夫かい?」


「この魔力の三割は強欲のかもな。だが、大体は転移した時と転生した時に貰ったやつだ」


「……そう」


「アセナ、セレーナ、ララノアお前たちは逃げてろ。そこの勇者も連れてってやれ害はないだろ」


「分かりましたわ。ご武運を使徒様」


 三人は勇者を連れて離れていった。


 正直に言ってこの国から出る勢いじゃないと巻き込まれるだろう。


 受け技を必殺技にしないと受けきれない。これが魔女の力。


 そして、この魔女より強い、俺をここに呼び出した強欲の魔女……


 そして、その強欲の魔女から力を貰ったんだ。負ける気がしない。


 《復讐者》によるバフをかける。


「……解をだせ」


 正直勝てるとは思っていない。勝とうともしていない。思っていた通りの返答が返ってくる。


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