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第一章:第十七話『使えない解』

「――あぁ……もう繋がった。ごめんねぇ、あの時は。ごめんねぇ。でも、またこうして繋がった。私を必要としてくれて、私を頼ってくれた……私を、私が必要なのね。すっごく嬉しい。誠くんの中に私の力が、私の血が入って行き、どんどんお揃いになっていく。誠くんが私のモノとなっていく……」


 頭の中、ぼやけた人影が見える。口調、言葉、姿は見えはしないが感じられる雰囲気、全てが不気味に感じる。彼女がアセナの集落を襲い、セレーナの国を潰した魔女。ヤバい奴ということはわかっていた。分かっていたはずだが、想像の何十倍もの不気味で、嫌悪感のある魔女。


「……でも、まだ足りない。もう少し時間が必要かな? 誠くんは私を愛せていない。大丈夫だよ、私はずっと待ってるから。またすぐに会うことになるよ……」


 繋がりが消え、声が消える。それと同時に頭にまた声が聞こえる。


『強欲のスキルが発動しました。能力《勝利への途中式》を獲得しました。』


「解を出せ。」


『――解。ララノアの力を解放する。』


 これほど苦労して手に入れた力だと言うのに、思ったより期待外れの能力だなと思う。


 解放の仕方とか教えろよ!? どうすれば良いんだよ! 力を上げるには……


「ララノア! これでアイツを!!」


 樽の残りの血を全てララノアにかける。突然の事で口に入りむせている。


 これは賭けだ。思いつく最善の方法がこれしか見つからなかった。だがこれで――


 ララノアの魔力が膨れ上がりあたりの温度が下がっていく。氷が地面を凍らせそれを溶かす炎。分が悪かった。炎はみるみる消えていく。


「相性が悪いな……アイツを殺すまで俺は死ねない。ここは一旦引くとしよう。だがお前ら魔女の手下共もいずれ殺すからな覚えておけよ」


 激しい炎を出しそれを消す氷の煙の中に姿を消した。城の大穴から飛び降りたのだろう。


「修復費……払え――」


 払わないまま逃走して逃げられてしまった。ともあれ難は逃れた。城も体もボロボロになってしまったが、皆何とか生きている。


「――アセナ何もやってないです。戦いたかったです……」


「アセナがアイツと戦ってたら毛が全部燃えることになるよ?」


「……やっぱり戦わなくて良かったです!」


 セレーナが消えちゃったけど、幽霊だしまた戻ってくるだろ。


「使徒様申し訳ごさいません。魔女教らのことを頭に入れておくべきでした」


 深々と頭を下げ謝る。今回は彼女に責任は無い。むしろ戦闘では助かったこちらが頭を下げるべきだろう。


「いやいや良いって良いって。こっちも助かったし」


 まぁ、多少金貨を借りるだろうけどね。ちょっと多く貰っても良いかな……


「あの男は始末しますか? 今からではそう遠くには行けません。」


 セレーナを消された恨みもあるしな。あと城の恨みも。


「セレーナを消したやつは何処にいる?」


 近ければ赤い点として表示されるが線として表示されている。逃げ足の速い奴だ。この国からはもう出ているだろう。大した傷も与えていない追いかけた所で勝てるかは分からない。セレーナが一人いないのもある。


「レヴナントって消えても戻ってくるよね……? 戻りし者だし……?」



***



 セレーナが焼失してはや三日そろそろ完全に消えたのではないかと心配になってくる。アセナ以外は火傷痕も治ってきた。ララノアが微弱ながら治癒が出来たのが大きい。


「……俺に《死霊の呪い》を使ったやつは何処にいる」


 能力《復讐者》による追跡。自分、または仲間に害がなされるとその敵の居場所が分かる能力。とは言え焼失した者までも捉えられるとは思っていなかった。


「……そこに居るのか? セレーナ」


 示した場所は目の前。姿形は見えないが、そこに居ると言っている。


「ごめんな、セレーナ。お前のおかげでアイツを撃退できたよ。ありがとな。城の修繕費はアイツから奪うから、もう少し待っててな」


 この声が聴こえてるかは分からない。そんな事よりもセレーナがまだこの世界に居ると知れたことで十分だ。


「……セレーナ。ちゃんとアイツから奪うから俺の使える金を減らさないでくれ」


「使徒様誰と話してるですか? 誰もいないです!」


「セレーナだよ。そこにいるんだぜ」


 セレーナの方を見ているが何も見えないのでポカーンとしている。指をさして場所を教えてあげるもその周りをぐるぐると周り居ないと言い張る。


「使徒様にしか見えないですか!? 何も居ないです!!」


 手を振り回し確認するが感触も何も無く、だんだん怖くなってくるアセナだった。


 ――その四日後


「――使徒様。只今戻りましたわ」


 そこには元気そうなセレーナの姿があった。長い白髪も死んでも綺麗な瞳もいつもの豪華なドレルを身にまとっているが、


「……なんか、薄くない?」


 ところどころ透けているというか、全体的に色が薄い。しかもデフォルトで宙に浮いてるため完全に幽霊だ。

「元の姿になるにはもう少し魔力が必要ですわね」


「まぁ、良いや。所で金……」


「早速ですが。城の修繕費の話ですが、ララノアさんの金貨だけではだいぶ足りないので節約はもちろんですが、そろそろ動かなければ行けない頃ですわ」


 早い。手を打つのが早いな……俺が言おうとしてたことを先読みしたのか? あれが聴こえてたのか?


「そろそろ動くのか? 良いんじゃない? 何をするのかは知らないが……」


「荒稼ぎですわ。」


「な、なるほど……?」


「時に使徒様、金はどこにあるかご存知で?」


 ……似たような会話アセナともやったような気がするな……


「そうだな……人間の金持ちを襲うとかか?」


「惜しいですわ。金を作るところを襲えばいいのですわ!」


 た、確かに!? そっちの方が早い!! なぜ気づかなかった! そうすれば一生困らない!


 しかしふとした疑問が浮かぶ。どこで作っているか分からない。各国々で一つ持っていたら経済が大変なことになる。となればどこかの国にあるのだろうが、それが何処かは分からない。


「どこの国で作ってるか知ってんのか?」


「知らないですわ」


 全ての計画は破綻した。今の時間は一体なんだったのか。時間を返して欲しいと思いつつも、いい案を聞いたと内心満足だ。


 ――どうせ人間共は分からないだろうから、偽の金貨を作ってぼろ儲けしてやる!


「人間の国に用はないですわ。さらに元である金を奪いに行くんですわ!」


 ……確かに純度を下げて偽金貨を作るにしても金は必要だな。俺としたことが、計画が甘かったな。


「そこで、黄金の魔女の所に行きますわ」


 黄金の魔女聞くからに金を持っていそうに名前をしているな。期待大だ。


 セレーナによると、黄金の魔女は砂漠の一角を砂金に変えて黄金の宮殿を築き、大半の金融機関を牛耳っているらしい。金を貰える為にやることは一つ気に入られる事だ。


「――なるほど、砂漠か……」


 暑いのは嫌いだ。行ったはいいものの気に入られなかったら終わりだ。そんな賭けに乗りたくは無い。疲れるからな!


 あまり気は乗らないが一発逆転が狙えるとも言える。どうしたものか……


「あっ、ちなみに使徒様は強制的に行きますわよ?この城を壊した本人ですからね」


 逃げ場はないようだ。


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