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第一章:第十六話『焦げ臭い』

 追加で出された血は隙を見てアセナに飲ますことに成功し何とか逃げ出すことが出来た。明日の肉が少なくってしまうが、二杯飲むよりかはましである。そして次に考える事は一つ。


「――今のうちにあの血を捨てとくか。変な匂いするし、なんか虫でも湧いちゃうかもだしね~決してもう飲みたくないからとかじゃなくて、衛生上のためだから」


 これまた壊れそうな扉が音を立てながら開く。突如として鼻に届く異臭。何かがおかしいと感じながらも足を進める。一歩、また一歩、また――


 ピチャッ――


 液体を踏んだ。なんの液体かは大体分かっている血だ。暗い部屋にこっそりと忍び込んだ為明かりを持ってきていない。扉を開けっ放しにした光が入るだけ。


 こぼれたのか……?


 また一歩踏み出し、樽を確認しに行く。足に新たな感覚が伝わる。ただの物では無い。多少の反発が帰ってくる。薄い光を頼りに目を凝らす。


 ――人間……!?


 なぜ? だれ? という疑問だけが頭を埋め尽くす。一つだけでは無い。何人分もの死体が広がっている。こいつらは誰だ、どこから来た、そしてなぜ死んでいる? 疑問が疑問を呼び解けない問となる。


「そうだ、樽……樽は?」


 蓋は空き、血も半分以上無くなっている。そして死体も周りに転がっている。


「この血が殺したんのか……!? ララノア!!」


 急ぎララノアの下まで駆けつける。状況を伝える。その騒ぎに気付いたのかアセナとセレーナもいつの間にか集まっていた。


「――この血に人を殺す能力は確認できません。自ら飲めば別ですが、」


 これを持ってきた人が言っているんだそうに違いない。あとエルフだし。


「アセナ使徒様に少し飲まされたですよ? アセナ死ぬですか?」


 何に怒っているか分からないがセレーナのと魔女に怒られちゃうんであろうララノアから殺気を感じ取る。


「……大丈夫だ安心しろ。アセナならいける」


 確証は無いがアセナならいけるだろう。アセナだから。問題はこの死体……まずどこから入ってきたのか、なぜこんなものを飲んだのか。目的を判明させる。


「セレーナ、外のスケルトンは殺られたのか?」


「あの数はこっそりと入る以外手段は無いと思いますわ」


「ララノア、強欲の血で俺が強くなれると言っていたが人間もそうなのか?」


「……魔女の血を取り込んで強くなろうとする人はいますが、強欲の血ともなると適合者はそうそうに現れないでしょう。けど強くなれる人もいます。」


 やはり異世界だな。何とか教団みたいのもちゃんといるのか。確率が低いから大勢で強欲の血を狙って侵入したってとこか……で、全滅と言うわけか。


 結論に近づいたとき鼻にまた異臭が走る。さっきのとは違う匂い。


「――なんか、焦げ臭くない? 気のせいか?」


 黒い煙が隙間を縫って部屋に入ってくる。煙を辿り出火元を確認する。予想通り燃える死体の山の中一人の男が立っていた。樽の血もさらに減っている。


「――魔女に復習する。魔女を滅ぼす。その為とはいえ、魔女を崇めて力を貰おうとしてるヤツらと一緒に行動して、アイツらの血が俺の力となっているとわな……」


 怨念の炎。激しく燃え盛り、温度が上がり近づくのも躊躇してしまう。焼け焦げた同士を踏みつけこちらに近づいてくる。熱で喉を焼かれているように息がしにくい。


「お前らも魔女の仲間だろ? なら、殺しても問題ないな。魔女に加担する異常者どもなんだから!」


 突如として燃え上がる炎。彼の感情の変化に呼応するかのように炎が変化する。温度はどんどん上昇していき、近くの血液が蒸発し異臭がさらに強くなる。


「使徒様! あれは魔力によって作られた炎ですわ。私もダメージを負ってしまいますわ! まずは広いところに!」


 なら、ここを広くしよう……


「――ディヴィニティ・カルネージ・バースト――」


 貯める時間を短くし、威力を抑えつつ周りを吹き飛ばす。上への衝撃を無くし周囲横攻撃特化の攻撃。逃げ場を得た煙は外へ飛び出す。


「あまり城を壊さないで頂けると助かるのですが……自由に使えるお金減ってくだけですわよ」


 これ以外の手が見つからなかったんだからしょうが無い。お金減るのは困るが……


「アセナが行くです!!」


 近頃魔力操作に長けたセレーナによる教えで基本的な魔力の使い方を教わったアセナ。脚に魔力が密集していく。そして解放――


 魔力の瞬発的な解放による推進力を得るが、力を込めすぎ、制御を失い猛スピードで突っ込んでしまう。敵を通り越し、そしてそのまま城壁内に閉じ込められているアンデットの大軍の中へと落ちていった。


「魔力操作を練習しとけって言ったのに……しょうが無い、やるぞ二人とも」


「はい! 《死霊の呪い》!!」


 奴も呪いに掴まれたのだろう。それにしては冷静に見える。


「すげーよな魔女って。炎魔法の適正があっても魔力が少なかったから役に立たなかったけど、今じゃ魔力が溢れるほどだよ。ずっと行使しないと魔力に殺られちまいそうだ。」


 辺りは炎に包まれ、足場は燃えに燃えている。セレーナの真下、そこだけピンポイントで炎が突然噴き上がる。

「セレーナ!! 大丈夫か!?」


 魔力から作った炎だからか!? 一瞬で焼死してもおかしくないって事か……アイツが殺られそうになったらその手を使って来るだろう。なら、一撃で殺ればいいが……


「――《大氷期》」


 突然足場が凍る。ララノアの魔法によるものだ。熱による息苦しさは消え熱かった温度も下がる。相性が良い。

「先程の攻撃はこれで大丈夫かと思います」


「これで小細工は出来なくなったな。さて、よくも城を壊してくれたな!!」


 責任転換、完了。広言する事により本当ぽくなるってやつだ。


「何言ってるか分からないけど、壊したのはお前だろ? 罪まで擦り付けようとしてくるとは、魔女の仲間も腐ってやがるなー! あと、こんな氷簡単に無くなるぞ?」


 さらに周囲の熱が上がり氷も溶け始める。液体の状態を飛ばし、一瞬にして蒸発していく。


「ララノアまだ行けるか? 周囲の熱をなるべく下げてくれ! セレーナ援護を頼む」


 魔力を解放し、それを凝縮し身に纏う。熱の軽減をし間合いまで近づく。


「ばーか。死にに来たか?」


 急激な温度の上昇。肺が燃え落ちたののかと思うほどの痛みに襲われる。


「――ツっガっッ」


 声を出そうと思っても思うように出ない。代わりと言ってはなんだが血ばかり出てくる。


「使徒様!!」


「コイツがお前らの主か? こんなにも簡単に死んじまいそうだが、大丈夫か?」


 戦況は最悪だ。アセナは下に落っこち、ララノアも周りの炎を何とかするので限界、セレーナの呪いは通用しない。おまけに俺はこのザマだ、ほとんど使い物にならん。新しい能力をゲットしたいがなかなか強欲が発動しない。何とかしてコイツを……


 ふと視界に移る樽、強欲の血……手段はそれしか浮かばなかった。


「セレーナッ! 俺を樽まで!!」


「させるかよ。」


 セレーナの呪いに掴まれ投げ飛ばされる。後を追うように炎がやってくる。


「使徒様、あとは頼みましたわ!! 《死霊の呪い》!!!」


 炎が手の形に合わせ食い止められる。が、一瞬しか持たず勢いを取り戻し炎はセレーナ諸共焼き焦がす。セレーナの姿は見えなくなり後には何も残っていない。


 樽をこじ開け、頭を突っ込む。


 ――強欲の魔女! 力を、コイツらを救えるだけの力を……頼む……!!


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