第一章:第十五話『悪意?』
基本的な魔力操作をセレーナから教えてもらい身体強化、結界など色々学んだ。その集大成とも言えるのがこの国土全域に張った結界だ。
結界。大きく分けて二つの種類がある。一つは誰もが容易に想像できる攻撃などを防ぐことの出来る結界だ。魔力を固めるだけで守ることが出来る。しかしこれはあくまでも物理だけの武器と戦う時ぐらいでしか使えない。魔法攻撃、またはスキルを使うような戦いではほぼ役に立たない。簡単に壊れてしまうからだ。
そして魔力を戦闘に使えるだけ持っているか、または戦闘に役立つスキルを持っている敵と戦う時に使う技が結界を応用した技である。結界を薄く延ばすようにして通常の結界を張るスタンスで薄い結界を張る。それを魔力に反応させるだけだ。この結界を開くと辺りの魔力を色覚化できるようにする。そしておおよその魔力を判断する。
そしてその結界を少し応用して金貨の場所を分かるようにする!
「まずこの辺から探すか」
結界が発動し街ゆく人々のポケットに金貨があると分かる。紙幣などでは難しかったがこの世界のお金はすべて硬貨だそうだ。
「さて、稼がせていただきますか!」
手始めにすれ違いざまにすろうとした時、非常事態が起きた。結界内にとんでもない量のお金を持った人が現れたのだ。結界の感覚としては超音波が脳を刺激するような感覚だ。少し頭が痛くなる量の金貨。
「こっちか!?」
思わず手を止め、反応があった方へ急ぐ。一台の馬車にとてつもない量の金貨が積み込まれていると分かる。
「――襲うか……!?」
まじまじと馬車を見ていると綺麗な銀髪ミディアムヘアーの一人の女性が出てきた。着ている服、乗ってきた馬車からしてここのような無法都市に合わない。
「強欲の使徒様ですね。私は強欲の魔女の配下、エルフのララノアと、申します。」
――これ程の魔力を持っていて、どうして結界に引っ掛からなかったんだ!? まさか、金貨も大量に持ってるから合わさって分からなくなったのか!? めっちゃ大穴あるやん!
「あの……使徒様?」
しかもエルフだと!? ならばこんなにも綺麗なのも合点が行く。
見てみたい! 耳を見てみたい! 異世界に来てついにエルフと出会った! しかも強欲の配下だと言う、ならば権限は俺の方が上……良くやった強欲の魔女!
「使徒様……?」
「――ぜひ、仲間になって頂きたい。」
「それで、今日はどうされましたかな? エルフさん。こんな汚いところで申し訳ありませんね。」
「使徒様? こうなさったのは使徒様のせいですわよ? 元はここはとても荘厳な場所だったのですわよ?」
……それは申し訳ないとは思っている。
「本日は魔女様のご命令で来ました。」
やっと俺をこの世界に召喚した魔女様か動き出したか。俺を連れ戻しに来るのか?
「現在、強欲の魔女様は強制の魔女と戦争をしています。使徒様を殺したのが強制の魔女の手によるものだと判明したからです。」
――強制の魔女か、確か一三人の中にあったような……同じ一三人の魔女である『事象の魔女』と戦って国が滅びたんだ今回もどこか潰れるかもしれないな。
「強欲の魔女に会えないなら何しに来たんだ?」
「今回はお届け物を届けに来ました。」
最強の魔女の一角に入る魔女からのプレゼント、さぞかし凄いものが来たのだろうと勝手に期待し伝説の魔剣アークデモンスーパーソード的なのを夢見ていたが送られてきたのは、そんなものではなかった。
「――これは、ワイン? 随分と赤いが……大丈夫か? 果汁入れまくった的な?」
それともこの世界のワインはこんなんなのか? と疑問に思いつつも未成年であるため飲むことを回避できる安堵感が半端ない。
「強欲の魔女様の血でございます。」
理解が追い付かず一度グラスに注がれた赤い液体に目を落とす。確かにそんな気はしていたものの本当に血だとは思っていなかった。そしてララノアの後ろにある樽に目を向ける。同じ樽がいくつもある。察し、恐怖する。今頃貧血で倒れているのではないだろうか。
「な、何で血なの……?」
「飲んでください。そうすれば強欲の力も大きく出来ます。一定量摂取し、魔女の血が濃くなると強欲の魔女様と繋がることもできるそうです」
そういう事か、にしても多いよな……
「ちなみにあと四樽ありますから早めに飲んでください。」
「――キツくね?」
とりあえず今はパスしておいた。
***
「――使徒様お食事の準備が整いましたわ。」
「分かった。今行くよセレーナ」
いつも通り豪華な机にはデカデカと肉が置かれている。横にはサラダの入った皿が二枚あり横ではアセナがその肉にかぶりついている。ここまではいつもと同じ光景だ。そして今日は……
「――これ、本当に飲まなきゃダメ?」
グラスに注がれた深紅の血が脇に置かれている。このグラス一個で雰囲気を台無しにしている感が半端ではない。魔力も感じられる。
「アセナ飲むか?」
「嫌です。」
アセナでも即答するほどである。血液から発する独特な鉄の匂いが食欲を減らしていく。それと同時に後ろから早く飲めと殺気が漂ってくる。
別に俺は吸血鬼じゃないんだけどな……
嫌々ながら飲み干したが予想通りの味。口の中に不快感がいつまでも残る。
――四樽どっかに捨ててこようかな……それまではアセナに飲ませるか。
「おや、使徒様グラスが空になっていますね。注いで差し上げます」
「……」
***
「――ここに強欲の血があるのか……」
晴れていた昼の空は雲に覆われ、雨音が全てを遮る。影は動き出しているということも分からぬまま時は進んでいく。
「そろそろ行くぞ、準備できたか?」
一同一斉に放たれた返事は雨の遮りなど意味がなかった。影は城へ向かって行く。




