第一章:第十四話『集会』
――強欲め、復讐の邪魔まで送って来て……あんな強いやつどうしろって言うんですかね……
「――この王座良いな、売ったら何円になるだろうか。」
この声はアイツか、油断しやがって今すぐ殺して、
「使徒様、コイツ起きましたですよ」
不意打ちは無理ですわね……
ゆっくり立ち上がる。強欲の魔女を殺そうとしたのだ、殺される準備は出来ている。すでに足などとうに消し飛んでいる。逃げるなどと考えも思い浮かばない。
「――仲間にならないか? お前も強欲に振り回されて困ってんだろ? 俺も色々あったからさ、気楽にやってかないか?」
「私は強欲の魔女を殺そうと考えてたんですわよ? だから貴方がここに来たのですよね? 使徒でもこの強さ、私じゃ一生勝てない……もう、分かったんですわ。無理だって……」
話がすごい方向に進み、困惑の中遅れて理解する。自分は彼女を殺すために来たと思われている事に。
「あの、殺す気とか全くないよ? 俺はただ住む所とかが無いから来ただけだよ?」
――殺す気は全くなかったのね……きっとさっきの戦いも戯れ程度だったんでしょうね。
「強欲の使徒様。先程は誠に申し訳ございませんでした。私はこの城の管理者ですわ。無礼の謝罪として私、ネクロス・セレーナ、そしてこの城ともご自由にお使いくださいませ。」
「分かった。全てを許そう。今日からは俺の仲間となるのだ! あと、金貨ってどこにある?」
少し驚くことだろう。こうもあっさりと罪を許され、奴隷、下僕ではなく仲間として私も受け入れたこと、重罪人なんかより金貨にしか目がない強欲の使徒。
――私は、なんて人と戦っていたのでしょう。強欲でも良い人は居るのですわね。安心して仲間になれそうですわ。
『能力《承認服従》発動しました。』
――あっ……
胸元に紋章が刻まれる。アセナの時のように抵抗も苦しんでもいない。少しの間無言で胸に刻まれた紋章を眺め顔を上げたセレーナと目が合う。
「……使徒様の言う仲間とは奴隷を意味していたんですわね。確かに私は強欲の魔女を殺そうとしてましたし、当然ですわね。」
――気まず……!!
「ごめん、オートなんだ。許してくれ。」
「許しませんわよ? 罰として、お金の管理は私がしますわ!」
「えっ!? ちょ、それは困るのだが?オートなんだってどうしようもなかったんだ、お金をくれ! 頼むから!!」
「必要な物は別に買ってもいいんですよ?必要な物は」
「じゃあ、肉をいっぱい買うです! 大量です!」
何故か立場が逆転しているが。新たな仲間と、半壊にした城と、金貨を手に入れた。
***
天井が崩れ月明かりに照らされる中、王座に座る影があった。召喚され殺され、転生し、強欲の使徒となった彼の名は夏川 誠。溢れ出す魔力と不気味に赤く光る目のエフェクトを使い強キャラ感をかもし出す。
「――ここからは、俺の時代だ。」
「仰せのままに使徒様。」
「とりあえず、どこかぶっ潰すのです!」
とりあえず、強欲の魔女を殴ってやるか。聞きたいことも、二人の恨みもあるしな。
「教えてくれ。この国で何があったのかを」
この国の惨状、常識の通じる次元ではないことは理解している。
「魔女同士の戦い。いえ、戦争ですわね。」
この世界には十三人の最強と言われる魔女がいる。
傲慢、強欲、色欲、憤怒、暴食、嫉妬、怠惰。これに加え涅槃、夢幻、事象、久遠、代償、強制 、の十三人。もう何百年も前の魔女の集会『ガヴン』での意見の食い違いによる、ちょっとした喧嘩のようなものから始まった。
強欲の魔女と事象の魔女の戦争。どちらも、無敵であり簡単には決着はつかない。戦火はこの国にも及びこの有様となった。ちょうど『国を一個潰していた』と、知ったところで戦争は中断された。
事象の魔女はその後どこかへ消えた様だけど強欲はここに残った。
「今度は私たちが相手……暇つぶしになったってことですわ。簡単に砦は陥落。王城に呑気に歩いてきたのです。私は死霊系魔法が使えるのでもちろん抵抗しましたわ。でも、」
王城も陥落。人間では勝てる存在ではなかった。その際にセレーナは一度死んでしまった。
「そしてまた地獄の始まり。強欲の魔女は人間にしては強いからという理由で私をレヴナント『戻りし者』としてこの世に蘇生されたのですわ。代わりに力を貰いましたが、そんなものは要りません。国、親、すべてを奪われたというのにも関わらず、ただ力を与え興味があるから生かされる。こんな事ならば死んでしまった方が楽でしょう」
「……復習とは言え、よく生きる道を選んだな」
――セレーナは幽霊みたいなものか。だから腕を切り落としても血は出ないわけだ。魔力で実態を作っていると言ったところだろうか。
「いつかぶっ殺そうと思っていましたけど、使徒にすら私の魔術が効かないとは……しかも一瞬で私に魔力の乗っていない攻撃は当たらないと理解して、部屋を魔力で満たすなんて……使徒様はお強いですわね。」
「なぁ、魔法ってどうやって使うんだ?」
「どうって、先ほど大きな爆発を発生させてたじゃないですか?」
あれが魔法なの!? 魔力を外に出すことが魔法となるのか? もっとこう魔法陣とかそういうのではないのか?
「……もしかして、あれはただ体内の魔力を集めて解放しただけなのですか!?」
驚いた表情でこちらを見てくる。それほどのことをしたのだろうか。
「純粋な魔力だけであの威力を出せるだなんて……さすがは強欲の使徒様。魔力量がぶっ壊れていますわね。」
アセナも誠と同じタイプである。己の魔力を集め、留めることにより物理ダメージを負わせることが出来る。その上位互換となると膨大すぎる魔力が集められ、行き場を失い膨張し、爆破する。あの規模の爆破となると、膨張しているのにも関わらずさらに過度に魔力を注ぎ、剣が壊れるほどの魔力を無理やり留めすぎたということ。魔力はその人自身から発せられる。魔力量はその人の魔法的性度とも言えるだろう。全く使えない者もいる。
「――ですから、私のように死霊系魔法は使えません。天使の加護によって特殊な魔法は出来るか出来ないかがは決まりますわ。」
あの勇者の話も合わせると転移者は転移した時に天使から加護をもらえる。しかし強欲の魔女によって転移したため天使の加護では無く強欲の使徒として強欲の力を使えるようになった。つまり強欲以外の力は手に入らないという事だ。
情報も簡潔にまとめ終わり、すべてが丸く片付いた。いつの間にか夜になっており月が雲に隠れはじめ、辺りはいっそう暗くなっていく。赤く光る目のエフェクトがよりいっそう輝いて見える。遠くから雨の音が聞こえ始め、静かな夜は終り、王座が雨に濡れ始る。
――自分で言うのもなんだけど、こんなに城を壊さなければよかったな……
***
「使徒様~この雨どうにかして欲しいです!」
「無理だ。天候は変えられない」
セレーナとの戦いの時に勢い良く半壊にしてしまった城は今やオンボロ城と成り果てた。それから何週間か過ごしている。比較的壊れていない部屋で寝るものの、王の椅子があるため基本的にここで日中を過ごしている。吹き抜けとなった天井からは普通に雨が降ってくる。
「さすがに雨漏りが酷いですわね。まずは城の修復費ですわ。あんまり金貨も無いと言うのに……」
「いざとなったらお前が貯めてた城の周りのゾンビを解き放て、混乱に乗じて金を奪ってくる」
自分で壊したのだ。これくらいはしなければならない。多く取ってきて余った分は魔剣でも買う事にしよう。クエイから貰ったのはナイフであり戦闘に向いていない。デスナイトの持っていた剣も錆び始めていた。
「お金の管理は任せてください? 資金の調達も我々でやりますわよ?ついでに変なの買ってきそうなので」
「……分かった。任せよう……」
何とかして稼ぎが必要だな。バレたら資金にされちゃうから、極秘でやらないといけないな。




