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第一章:第十一話『オーバーアクション』

 そう言い放った瞬間、誠の周りに強いオーラが漂い始める。じわじわと広がっていくオーラはより広くより濃くなっていく。アセナの尻尾も逆立ち、危険な空気が感じ取れる。一歩前に出ただけのこと。それだけにあれほど身を震わせ警戒している。


「そんな力残してたんだ……ハハッ……」


 能力オーバーエフェクトは精神干渉系能力であり、実際のところはただ前に進んだだけである。この状況をカメラで撮ればただ歩いてくるだけの人にめちゃくちゃビビっている人になってしまう。


 当の本人もこの能力の影響は受けるため、突如周りにオーラが現れ本人も心境舞い上がっている。ついに異世界チート無双ライフが始まったと勘違いをしている。


 踏み込み、大きく間合いを詰める。踏み込んだ地面は大きく凹み、風を切り、今までとは比にならない速さが出る。


 実際のところは《オーバーアクション》による凹み、《オーバーエフェクト》による風を切っているように見える幻覚と思考鈍化が発動し速く見えているだけであり、スピードは先ほどと同じである。


 ――速い!! 槍では追いつけない。なら、


 大きく後ろに回避し、槍が変形し双剣となる。


 まけじと勇者も前に出る。ぶつかり合う剣から火花が飛び散る。いくら速く見えるからと言ってもスキルで偽っていない力の方が上手になってくる。段々攻撃をしていたはずが逆転している。止まらない双剣による連撃により傷を負う。このままケリをつけようと更なる連撃仕掛ける剣技にオーラも薄れていく。


 さすがに強いな勇者は、これでも勝てないのか?


「本気って言うのもこんなものか? もうボロボロで死にそうだぜ?」


「――まだまだこれからだし……」


 もう一度大きく踏み込み距離を詰める。が、


 ――さっきよりスピードが出てない……! あのオーラが出てきた時はどうなるかと思ったがいける!


 カウンター。踏み込んだ一突きを流され、大きく切り裂かれる。場所的に急所では無いが、出血が多く乾いてきた血だらけの制服がまた血でぬれる。


「使徒様……!!」


 アセナが飛び出し応戦するが、アセナでは決め手にはならない。絶体絶命のこの状況。しかし手札がそろった。


「……さてと、起死回生と行こうか」


 先ほどと同じで大きく踏み込む。痛みは無い。身体も軽い。二つの能力が解放された今速度は先ほどの比ではなくなるだろう。


「また同じ技か。それはもう対応でき――」


 予想を大きく超える倍の速さ。地面を穿つ音と共に光る刀身が目の前まで迫る。紙一重でかわし、カウンターを繰り出すも浅く終わる。


 動き続ける間も血は止まっていない。また加速する。少しの傷でまた加速する。同時にこれはどれ程死に近いかを表す能力でもある。本人も出血量がヤバいという事は分かっている。だが痛みというものが消えている今危機感は薄れている。


 双剣でも捌くのが限界になり、防戦一方となる。残像が見え始め、攻撃は当たらず一方的に攻撃を受けるだけになる。ただやられる訳には行かない。この流れをうち切ろうと足掻くが攻撃は当たらない。反撃が今は不可能ならば、ここは受け流し、隙ができるまで待つ。こう考えるのは当たり前だ。だがしかし、そんな考えは思いつかなかった。隙の前に自分が倒れるからである。捌くのに全神経を注いでも間を抜いて攻撃が入る。そもそも大半は反応すらできていない。また増していくオーラの圧。落ちるどころか上がる速度。完全に勝つイメージが絶たれる。


 ――このまま押し切る。


 勝てるそう確信した時であった。突如視界がグラつき倒れこむ。動いているのがおかしい当然の反動であり、これ以上は死ぬ限界である。


 フラフラする……さすがに血が足りないか。


 勇者もまた倒れこみ膝をつく。九死に一生を得ると言うやつだろう。逃がしてしまう事より今も尚生きているという実感で沢山である。


「……アセナここで引くぞ。」


 アセナに担がれ大都を後にする。当初の目的であるアセナの奪還も成功し、結果としては十分だ。


「……天使に勇者、天野 勇成か。めんどくさい内容が入ってきたもんだな」



 ***



 非常にまずい状況だったがアセナを攫った奴らのアジトから医療道具を拝借し何とか死ぬのは免れた。だが死んでいないだけであって重傷なのには変わりなくアセナの介護状態になっている。


「使徒様~肉です! 沢山食べるです!」


「……また、つまみ食いしたのか? 前に止めろって言ったよな」


 出された肉は焼かれたものになっているが、七割は食べられておりしっかりと歯形が付いている。問い詰めればアセナは見るも分かりやすく斜め上を見ながら言い訳をする。


「きっ、聞いてなかったです……!」


 攫われた手口も睡眠薬入りの肉だったと言うのに俺が言ってない訳ないだろう。分かり切った嘘が通用するとでも思っているのだろうか。


「この強欲の使徒様に噓をつくのかね? あの日しっかりと返事していただろ? これ以上罪を重ねるならアセナには野菜をたっぷり食べさせてあげるよ?」


 野菜は嫌いなようで、簡単に認める。


「うぅ……ごめんなさい……」


 とは、言うが大して観念していない。実にこのやり取りは、もう四回目ぐらいな気がする。


「そういえば、これが落ちていたです! これ使徒様とアセナが乗ってるです!」


 あらかた予想はついている。何せ強欲の使徒が王都を攻めに来たと言っても過言ではないのだから。新聞にでも載ってるんだろ。


「……悪しき強欲の使徒、マコト。ブラックウルフ族の戦闘狂。以下二名を捕らえたものには金貨三百枚。(生死問わず)――」


 今頃周辺国家にはこれが行き届いているのだろうな……


 大きくため息を吐き頭を抱える。何も分かっていないアセナは世間に名が広まったとでも考えているのか呑気に尻尾を揺らしている。


「もうどこの国にも入れないな……」


 少しアセナが考え何かをひらめいたか、ドヤ顔で解決策を提示する。


「今や無法地帯になってる所があるです! あそこなら人もいるです! 勝手に入っても怒られないです!」


「無法都市と言ったところか……よし、行ってみよう!」


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