第一章:第十話『妄想とイメージ』
巡回兵を避けながら大きく回り門の見える位置まで来る。予想通り兵が武器を構えながら待ち伏せをしている。巡回している兵もここで戦闘が起きたらすぐに来るだろう。複数人との戦闘経験は無い。それらすべてを二人で相手にすれば時間もかかる。
「抜けるのは大変だな……」
一人、明らかに装備のおかしい人物を見つける。一律で同じ装備を着用する兵士の中に黄金の剣を持っている人物がいる。鎧も他の兵とは全く違う。位によって装備は変わってくるだろうから彼がこの国の中でも相当の実力者なのは一目でわかる。少しの間観察してみたが兵ではなく、冒険者辺りだろう。
「アセナ、何人か強いやつが……」
さっきまで横で尻尾を振っていたアセナがいない。武器を構える合図がして攻撃準備をする兵たち。アセナが先走った。あの大群の中に正面から勝負を仕掛けに行った。
「――後で怒らなきゃいけないな。」
無策で突撃するが、アセナは強い。その能力の高さから大体の攻撃はさらりとかわすことが出来ている。しかし、誤算があるとすれば、敵がアセナより強かったということだ。
「ここに突っ込んでくるとは、なかなかの度胸があるね。それともただのおバカかな?」
アセナの一撃。それをいとも簡単に盾ではじく。空いた胴に刃が迫る。
「……一人で突っ込むなよ。」
すれすれのところでアセナを回収。
「使徒様アイツ強い……です!」
「そりゃそうさ、僕こそが近ごろ噂の勇者、あらゆる武器を使いこなし、その太刀筋は千変万化、まさに天才の勇者。その名も天野 勇成だ!」
……こいつ転生してきたな。名前が物語っている。
「お前日本から来ただろ?」
『日本』という単語を聞き目を大きく見開き驚いている。同じ日本の転生者がいるとは知らなかったため正直自分も驚いている。
「お前も転生したジャパニーズピーポーか!?」
なんだこいつ……
「その恰好……制服じゃん! 学校帰りに死んだのか? 血まみれだぞ?」
「そんなもんだ。それより同じ日本生まれの仲だ。ここは穏便に済まそうじゃないか。争いはやめよう!」
通じないだろうが、バカみたいなやつだしワンチャンあるかもしれない。なるべく戦う人は少なくしたい。ただの兵隊にアセナや俺も捕まるとは思っていない。
「そもそも、お前は何してるんだよ。転生して、強い力を手に入れたなら世界救えよ! なんでダークサイドに立ってるんだよ!?」
こいつ嫌いだ。なりたくて使徒になった訳では無い。めでたく勇者名のって可愛い子をパーティーに加入させてウハウハ人生送りたかった。しかし現実は暗いものだ。人を手に掛けるとは思っていなかった。のんびり農業スローライフの平穏な日々の方が良かった。強欲のチート能力など要らなかった。嫉妬だろうか、コイツには腹が立つ。
「俺は、生まれながらにしてダークサイドに堕ちている。天命に従って、邪魔をするなら、容赦なく潰すぞ?」
この負念を隠す意味合いもこめてくカッコつけて言ってみたらいいものの恥ずかしくなってくる。だが意味合いは会っている夏川 誠は死んでいる。強欲の使徒として生を受けた。生まれながらにダークサイドに堕ちている。
「やってみなよ。闇に堕ちた同類がよ」
勢いよく今まで通りに突っ込む。しかし、早さが出ない。それもそのはず能力によるバフが掛かっていないためである。《復習者》は目的が果たされ効果は消える。あと二つもピンチにならなければ使えない。
……能力が雑魚すぎた! 弱くはないが、条件性。……ここで瀕死の一撃を食らうか? 無策で突っ込みすぎた。これじゃアセナと変わらないじゃねーかよ!
そんなことを考えている横を颯爽と駆け抜ける。敵に向かい一直線に走るアセナ。周りの兵はアセナに意識が行く。こちらの様子を窺うのは、勇者ただ一人だけだ。狙いは定まった。相手も自分を的とし、前に出る。相手の武器は盾と短剣。こちらの武器は短剣一本だけ。これでは難しい。いや、相手も日本人であり、武器に慣れていないのでは? 一つの憶測が負けるという判断をかき消していく。
――いける。
前に突き出した短剣を盾で上にはね上げられる。反動で体制が崩れ、がら空きの胴に盾での突進。ダメージは少ない。まだまだ《起死回生》が起こる条件値までいかない。しかし、鉄の盾で突進されるなど今まで経験もしたことの無いことだ。経験のない衝撃がやけに痛く感じさせる。
――分が悪い。
「アセナ! こいつとやっていいぞ!」
少し『げ~……』のような表情を見せるも、強者との力比べ。すぐに切り替え、突って行く。雑魚兵ならバフなしの俺でも行ける。
***
少し時間はかかったがこっちは片付いた。相手はただの兵隊。殺す理由も殺す気でやらなければ死ぬこともなかったため動けない程度に止めた。急いでアセナの助けに入る。
「アセナ! 大丈夫か?」
多少の傷を負っているようだが、戦えている。一方の勇者の方は、
「武器が槍になってる!?」
剣術に槍術、どちらもその道を極めた様な見事な腕前。この世界に来たからには、武器を取らなくては生きていけない。だからと言ってもおかしい――
「僕には武術の天使の力があるんだよ。だからどんな武器でも使いこなせるってわけ。」
天使……? 知らない力が出てきたな。
「あれ? 知らない? 転移してきた最初に一定以上の力と天使のご加護がもらえると思うんだけどな……魔女の仲間だからか?」
彼の言う『天使』の力とは『称号』の事だろう。実際この世界に転移した時にも『称号』を強欲の魔女から貰っている。考察では『天使』と『魔女』の二つの対立があり、どちらから称号を貰うのが重要なのだろう。そして『称号』は『能力』を与える。この能力だけでも強いが、能力を使用して何かをすると《スキル》へとなる。
「ここは強欲らしく強い能力を解放していきますか。」
解放には条件を満たす必要がある。強欲で貰える能力は今必要としているもの。条件もそれによって変わってくる。今欲しいものはこいつに勝てるだけの何らかの力、いや、もういっそ一気に最強になれる力が欲しいくらいだ。とりあえず、何かしないと条件解放はできない。いい感じで切り込めば《剣の達人》見たいのでもゲットできるだろう。
甘い考えで突っ込むが功を奏す。
こんな感じでかっこよく……
ただの斬撃過ぎない。だが誠の脳内ではただの一振りにもまるで技を使ったかのような光の斬撃をイメージしている。剣の幻影には光が尾をひき、振った跡がハッキリと目に見える。連撃が重なれば花弁を描く様に、突きならば剣先が光で伸びるように。
――今のところはスローモーション撮影ぽくしてほしいな。
剣をはじかれたときに火花を、避ける時には残像を。せっかくの異世界だド派手にやりたい。深く深く考える。
『条件を満たしました。強欲のスキルが発動。能力を獲得。能力を獲得しました。』
なんかゲットしたぞ!? きっとこいつにも勝てる能力をゲットしたんだな?
「――ここからは本気で行くぞ?」




