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世界が推理小説になったから  作者: 塚山 凍
Period10:籠の外へ

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99/106

事件は終わらない

 後日談を少し。

 この日、警察に家まで送ってもらってからが微妙に大変だった。

 何せお屋敷は緊急時の警備体制が敷かれていたため、あくまで同居人に過ぎない僕らは、厳しくチェックされたのだ。。


 金属探知機を当てられ、財布の中身までチェックされて、まあまあ時間がかかった。

 今の状況を考えれば過剰とは言えないが、帰宅の度にこれではうんざりしてしまう。

 香宮と終夜が使用人たちを追い払った理由が、少し分かってしまったくらいだった。


 その後、一人お屋敷で待っていた香宮への対応も時間がかかっている。

 かなり心配していたのか、食事も碌にとらずにじっと待っていた彼女は、終夜と僕の姿を見るや否や「お手洗いに行くわ」と言って立ち去ってしまったからだ。

 泣かせてしまったのかもしれない。


 彼女が戻ってからは、長かった一日の説明をして、真相を解説して……。

 途中、僕が警察に提出し忘れていた物のことを思い出して、慌てて藤間刑事たちに電話する一幕もあった。

 守屋一の確保で忙しいのか、誰も出てくれなかったけれど。


 仕方なくこの用事は後回しにすることにして、警備員に守られながらようやく就寝。

 まだ犯人が確保されていないこともあり、僕は昨夜と同様に本館で泊まらせてもらった。

 香宮が呼んだ警備員たちは、あくまで本館を守るための人たちなので、僕が住む倉庫までは守ってくれない、だから本館にいた方が良い────香宮たちがそう言って引き留めたのである。


 かくして本館で二泊目を過ごした訳だが、今回は何も夢を見なかった。

 気絶するようにして眠った僕は、翌朝のスマホのアラームで起床。

 流れるように、寝ている間に幻葬高校から送信されたメールがあることに気が付いた。




「速報:繰咲駅で発生した殺人事件及び昨日の学生襲撃事件について


 日曜日に繰咲駅で発生した殺人事件、及び月曜日に通学路で発生した本校生徒への襲撃事件については、生徒の皆さんもご存じであると思います。

 この事件の犯人について続報がありますので、緊急メールでお知らせします。


 月曜日の深夜、幻葬署はこれらの事件の犯人をとある個人に特定し、その人物に対して重要参考人として任意同行を求めました。

 しかし当該人物は突如として激昂して、その場を逃走。

 近くにある廃墟へと逃げ込みました。


 相手が危険物を所持している恐れが極めて高かったことから、警察は機動隊などの用意をしたそうです。

 しかし彼らが廃墟に駆け付けようとしたところで、廃墟内で爆発音がして、同時に発火したとのことです。


 現在、その廃墟を中心として発生した火災に対して、警察と消防が対処しています。

 当該人物は以前にも爆発物を使用していたことから、警察は『追い詰められた容疑者が、近隣の廃墟に隠してあった爆発物を起爆して自決を図った』と見ているようです。

 メール配信時点では消火活動は終わっておらず、当該人物の生死も不明ですが、火災現場より一体の焼死体が発見されたとの情報も発表されました。


 警察は発見された死体を当該人物であると判断しているものの、確定している訳ではありません。

 生徒の皆さんは、くれぐれも不審者に対する警戒を怠らないようにしてください。

 不意の接触、また加害を防げるように細心の注意をお願いします。


 また、爆発物を使用する危険人物の生死が不明であることから、本日の授業は休止とします。

 振り替え授業についてはまた適宜お知らせする予定です。

 少なくとも本日中は、不要不急の外出をお控えください。


 事件の連続で不安だとは思いますが、幻葬高校の学生として冷静な対応をお願いします。


 生徒会執行部 会長 式神(しきがみ) (あまね)




「集めた爆弾をまとめて自爆……派手な話になってきたわね」


 目覚めから少し経って、火曜日の朝食の場。

 トーストを齧りながら、終夜が呆れたような声を出す。


 朝食中にスマホでメールを見るという無作法を働いている彼女だが、誰もそれを咎めてはいない。

 僕と香宮も、一斉送信されたメールを読んでいるからである。


「まあとりあえず、爆発物を大量に持っていたところからして、守屋一が犯人であることを示す物証も揃ったような物だけど……寝てる間に、そんな大爆発が起きてたんだ。終夜、気が付いた?」

「いいえ。私もぐっすり寝てたから。それに、爆発現場はここからかなり離れたところなんじゃない?幻葬市の中心部に爆発物を隠し持つのは、いくら何でもリスキー過ぎるわ」

「……そうね、現場は直線距離で三十キロは離れていたわ。仮に起きていたとしても、音を聞くのは無理よ」


 へえ、と香宮の補足に頷く。

 続いて、「あれ?」となった。


「香宮、この爆発現場について知ってるのか?メールだと具体的な場所は書いてないのに、ここからの距離が分かるってことは……」


 爆発現場の具体的な位置を知らないと、出てこない発言である。

 驚いて彼女を注視すると、香宮は当然のような顔をしてコクリと頷いた。


「……ついさっき、私の知人からメールが来たのよ。自分の家の近くで爆発があった、警察がその前から大勢来ていたから、何か起きたのかもしれないって。だから、爆発現場が分かったの」


 ほら、と言いながら彼女はそのメールを見せてくれる。

 どうやら一斉送信だけを見ていた僕たちとは違って、香宮は知人からのメールも確認していたようだ。

 だからこそ、生徒会からのメールでは分からなかったことまで把握していたのか。


 ──でも香宮、そういう連絡をしてくれる知人がいるんだな……誰なんだろう?


 彼女の情報源について納得したところで、僕はもう一つ疑問を抱く。

 僕の知る香宮は、友達付き合いなどは最低限にして、いつも地下で死法学の勉強に精を出している少女だ。

 緊急事態にメールをしてくれる相手がいたというのは、何だか意外だった……そんな感情が顔に出ていたのか、香宮は更に補足してくれる。


「……言っておくけれど、このメール相手は幻葬市の地主の家族よ。森の中で白骨を見つけた時にも、私は知人の地主と連絡を取っていたでしょう?ああいう知り合いに、事件関連で何かあればこちらに知らせるように頼んでいたのよ」

「あー……そっか。確かにそういうことがあったな」


 言われて、当時の記憶を思い出す。

 確かにあの時、香宮が自ら電話してまで死体が発見された土地の地主から情報を聞き出した場面があった。

 幻葬市に古くから住む香宮家の娘として、そういう付き合いがあるとも言っていた気がする。


 今回、香宮はその繋がりで情報収集をしてくれたらしい。

 恐らく僕たちの手で家に帰された後に、地主同士のネットワークを介して新情報があれば連絡するように取り計らったのだろう。

 彼女の方も、お屋敷に戻ってから精一杯の努力をしていたのだ。


「そう言う意味では、凪は結構事情通よね。幻葬市内で起きたことに限れば、『情報』専攻にもなれたんじゃない?」

「……流石に専攻にするほどのことではないわよ。高齢の人が多いせいか、情報の伝達速度もかなり遅いもの。メール一つですら満足に送れない人もいるから」


 感心したようにスマートフォンの画面を覗き込む終夜に対して、香宮は愚痴を言っているような顔になる。

 かつて、情報伝達の遅さのせいで苦労した経験でもあるのだろうか。

 勝手に推測していると、やがて香宮のスマホがピロリン、と再び音を立てた。


 すぐに彼女は真剣な顔で画面を見つめる。

 どうやら重要情報らしいと察した僕と終夜が黙る中、彼女はそっと口を開いた。


「……続報よ。犯人である守屋一が爆発物を入手した経緯について、新情報があったみたい。まだ確定ではないけれど、こうじゃないかって仮説が出ている」

「本当?そんなのよく分かったわね、凪。警察の方でも、未だに突き止めてなかったはずだけど」

「知人の地主の親戚に、守屋一と同じ警備会社に勤めている人がいるのよ。その人はリストラされずに、普通に勤務しているのだけど……そこから流れてきた情報」

「ああ、なるほど。地主の親戚ってことは、古くから幻葬市に住むオリジナルの住民……ビジターみたいに推理力に自信があってこの街に来た訳じゃないから、探偵以外の職業に就職することが多くなる。そうなると、警備員になる人も一人くらい現れるか」


 結果として、香宮の地主ネットワークが情報を拾って来たらしい。

 古くから住んでいるだけあって、オリジナルの情報にはかなり精度があるようだった。


「その人が言うには……件の警備会社では、爆発物を見つけた時の対応マニュアルみたいな物を前から配っていたそうなの。今の時代だと、ただ巡回しているだけでも爆弾を見つける可能性があるでしょう?だから緊急時のために、爆弾とはこういう構造をしていて、ここだけは絶対に触ってはいけなくて、みたいな情報を社内のセミナーで教えていたみたい」

「確かに、今の時代だと必要な知識でしょうね……それで?」

「その内容が問題なのよ。マニュアル作成者が本気で作ったせいか、図面が詳し過ぎたらしいわ。爆弾の構造を一から解説していたから、下手すると爆弾の対処だけでなく、逆に爆弾を製造することすら可能だったと書いてある。爆発物への対応マニュアルは、そのまま爆発物の作成法と化していたのよ」

「じゃあ、まさかその知識を使ったのか?守屋一も、同じセミナーを受けていただろうし……事件前から、爆発物については結構な知識があった?」

「そう推測されているそうよ。それともう一つ、不祥事なので警察には隠していたそうだけど……守屋一を含めた警備員の大量解雇をした際に、リストラ対象者の一部が、倉庫から物品を持ち出した形跡があるそうなの。退職金代わりにと言って、破れかぶれになって盗んだのね」

「……その、盗んだ物は?」

「過去に見つけた発火装置と、爆薬の類。この会社は色々と杜撰で、違法性がある物を警備で発見しても、警察に提出し忘れることが偶にあったそうなの。それで見つけた危険物を倉庫で死蔵していたら、リストラ社員たちに盗まれた……大スキャンダルだから隠蔽していたようだけど、今回の爆発で流石に観念して警察に知らせたそうよ」


 あちゃあ、と僕と終夜は同時に頭を抱える。

 事件中も不思議に思っていた爆発物の出所だが、どうやらこれに関しては警備会社に責任があるらしい。

 そんなんだから名探偵に見限られて契約解除されるんだよ、とつい思ってしまった。


 一応、話の流れ自体は分からなくもない。

 今回の事件中も、終夜が証拠品の一つをこっそり回収して警察に渡していなかったけれど──確か、未だに提出していないはずだ──あれは今の時代では増えている行為だ。

 証拠品や危険物でも、すぐに警察に提出しないことが常態化している。


 守屋一が勤めていた警備会社もその風潮に乗っかり、見つけた危険物を自社でこっそり取っておくことがあったようだ。

 それこそ爆発物のマニュアル作成など、自分たちの業務に生かそうと思っていたのかもしれない。

 結果として、倉庫に死蔵された危険物は数多く……それを知っていた守屋一たちが、リストラを切っ掛けに持ち出したのだ。


 元より危険物を倉庫に入れておいたこと自体が違法だから、会社が窃盗行為を表沙汰にはしないと踏んでいたのだろう。

 実際、今の今まで会社側は黙っていた。

 それらを利用して、守屋一は廃墟を吹っ飛ばすような大量の爆発物を作成したのだ。


「しかし、退職時点で持ち出していたとなると……実はリストラ時点で、もう犯罪をする気満々だったのかな。そうじゃないと、爆弾なんて持ち出さないと思うけど」

「と言うよりは、再就職するまでの小遣い稼ぎとして、どこぞの悪人に売る気だったんじゃない?だからこそ、大量に作って隠し持っていた。もっとも廃墟に大量に残っていたことからすると、裏社会へのコネクションもない彼では捌けなかったようだけれど」


 終夜の推理を聞いて、それが真相っぽいなと思う。

 表では再就職に苦戦して、裏では小遣い稼ぎのつもりだった爆弾転売も上手く行かない。

 何もかもが失敗して、今回の犯行に至ったのだろうか。


 ──その果てに、自分の作った爆発物で焼死か……何だかなあ。


 改めて、僕はメールの文言を見直す。

 まだ確定はしていないものの、現場から焼死体で発見された存在がいる以上、事件がここで幕を下ろした可能性は否定できない。

 僕とは違う道筋を辿った、もう一人のコインロッカーベイビー……廃墟に逃げ込んだ時、彼は何を考えたのだろうか。




 ……こうして考え事の多い朝食を終えてから、僕は一度倉庫に戻った。

 メールによれば今日は休校らしいし、守屋一の生死も分からないから、僕はまだまだ本館で過ごすことになりそうだ。

 だから連泊に備えて、倉庫に残している衣服を取りに行きたかったのである。


 お屋敷内の移動ということで、朝食時すらじっと見守ってきていた警備員もついてはこなかった。

 本当に、本館だけを厳重にガードしているらしい。

 まあ倉庫みたいな離れまで守る義理はないよなあと思いながら、僕は久しぶりに部屋に戻った。


「うわ、蒸してる」


 自室に立ち入った瞬間、何故か急に部屋の臭いが気になった。

 扉を閉めっ放しにしていたから、空気が籠っているのだろう。

 思わず顔を顰めた僕は、真っ先に窓を開放した。


 何となく廊下の臭いも気になったので、僕は自室だけでなく二階の窓を全て開けていく。

 こうでもしないと、十分に換気ができない。

 勢いのままに、トイレの窓も開放して────その瞬間、僕はすっと目を細めた。

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