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世界が推理小説になったから  作者: 塚山 凍
Period10:籠の外へ

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謎解きの始まり

「弟さんのことは残念でした。私たちとしても、違う出会い方が可能だったならどれだけ良かったかと、今でも思っています……しかし、今回の一件とは関係が無いでしょう。事件の話をしませんか、青井さん」


 僕が身構える隣で、終夜が淡々と話を続ける。

 実際には青井君のことなど特に気にかけてはいないだろうけど、社交辞令をさらりと言える辺り、こういう状況に慣れていていた。


「まずは二度手間になりますが、例のコインロッカーを使用した状況から……」

「同じことを話すのかい?名探偵の孫とは思えない不器用さだなあ。ええと、あの時は……」


 相変わらず皮肉を続ける青井道隆を前に、終夜は顔色も変えずに取り調べをした。

 自分の弟が詐欺を働いた立場で、よくもまあこんな態度をとれるものだ────そう思いながらも、僕は質問に答える青井道隆の様子を観察する。


 少なくとも僕が気づく範囲では、彼におかしな点は無い。

 体のどこかを痛そうにしているとか、戦いの後で息を荒げているとか、そんな様子は見られなかった。

 終夜に話している内容も、「ロッカー荒らしを警戒してB17区に護身用の武器を預けており、当日は駅前で遊んでいた」とアキラの話と一致する。


 強いて気になる点を挙げるなら、彼が明らかに僕のことを無視していることだろうか。

 終夜がメインで質問をしているからと言うのもあるが、本当に露骨に僕のことを見ていない。

 僕が偶に追加で質問をしても、平然と無視された。


 ──アキラも言ってたけど、よっぽど僕が嫌いなんだな。弟の詐欺を見抜いた探偵とは、話したくもない。だけど名探偵の孫である終夜は、皮肉交じりとは言え無視できない……。


 だとしたら、現金な態度というか非合理な態度というか。

 嫌な意味での家族愛を見せられている気がする。


 ──まあでも、今の態度からするとこの人が襲撃者である可能性は低い気もする。この人なら、香宮よりも僕のことを執拗に襲ってきそうだ。僕を前にして攻撃を躊躇うことは無いだろう。


 偏見混じりだが、そんな推理もしてみた。

 勿論、今のこの態度だって演技か何かである可能性も捨てきれないのだけど、ここまで分かりやすく憎んでくる人間が、それ以上の理由を持っているものだろうか。


 一応、見た限り身長は百七十センチくらいで、体格的にも襲撃者と似ている。

 けれど、流石にこの人は関係ないか……そう思っていると、終夜の取り調べはいつの間にか終わっていた。


「……以上です。ご協力に感謝します」

「ああ、どうも。名探偵のお孫さんが、俺のようなビジターに一々関わりにくるなんて感激だよ」


 ぶつくさ言いながら立ち去ろうとする青井道隆に、終夜はそっと右手を差し出す。

 取り調べに付き合ってもらった感謝という体で、握手を誘ったのだ。

 反射的にそれを受け入れた青井道隆は、しっかりと終夜の手を自分の右手で握って────。


 ()()()()()()()()()()


「痛たたたた……今、右手首を痛めているんだよ。握手なんてノンデリなこと、しないでくれるかな」


 乱暴に握手を振り解かれながら、終夜は信じられないものを見るような目で硬直する。

 僕もまた、終夜の隣で固まるのだった。




 ────青井道隆が右手首の負傷を痛がったというのは、僕たちにそれなりの衝撃を与えたのだけど。

 僕と終夜は、それについては深く話さないまま次の容疑者の家へと向かった。

 二番目の容疑者である守屋一と既に終夜がアポを取っており、すぐに出ないと遅刻しそうだったからである。


 幸いにして、時間ギリギリに彼の家には到着。

 彼もまた、青井道隆と同様に家の近くの路上で話を聞く形になった。


 終夜は昨日彼と会っているけれど、僕は初見である。

 第一印象としては、「ゴツイ人だな」というものだった。


 元々警備員だったということもあってか、かなりがっしりした体型をしている。

 彼もまた身長は百七十センチ程度で、襲撃者とはシルエットが似ている男性だった。


「昨日に引き続き、お訪ねしてすいません」

「いえいえ、何でも聞いてください。どうせ求職中で時間はありますからね……ハハハ」


 丁重に頭を下げる終夜の前で、守屋一は左手をヒラヒラと振る。

 先程の青井道隆がアレだったので、それだけで何だか凄く良い人に見えてしまう。

 少なくとも、敵意は感じられなかった。


 終夜もまた、その対応に甘えるように矢継ぎ早に質問を投げて、昨日の内容を確認する。

 就活の一環でコインロッカーを使用、B17区を利用したのはロッカー荒らし対策、事件については知らぬ存ぜぬ、という一度聞いたプロフィールだ。

 流石に昨日の今日で供述内容が激変することはなく、青井道隆と同じく新情報は無かった。


 ……因みに彼が向かおうとしていた会社については、まだ僕たちも調査はしていない。

 本当は、面接の予約をしていたという話は確かなのかを裏取りしないといけないのだけれど、なまじ会社が街の中心部にあるせいで野次馬探偵が押し寄せているらしく、流石に遠慮したのだ。

 これは本郷キララのバイト希望先も同様だけれど、彼らの面接の予定が本当なのかどうかは、未だに確かめられていなかった。


 しかし、本人を前に「本当に面接の予定があったんですよね?」とは聞きにくいし、聞いても「当然だ」としか言われないだろう。

 だから僕たちは、昨日聞いた内容を敢えて繰り返して────その後に、新しい質問を投げる。


「因みにですが……守屋さんの出身地はどこなんでしょう?幻葬市出身のオリジナルとは聞いたのですが、具体的にどこかは聞いていなかったようなので」


 不躾であることは承知しつつ、直接的に聞いてみた。

 昨日、三堂さんが不思議がっていた部分だ。

 探偵相手の取り調べにはさっさと答えた方が良いのに、どうしてかぼかされた話題……そこを再確認するために。


 実を言うと、僕は彼が返事をぼかした理由については察しがついていた。

 だからこれは、僕的には答え合わせに近い。

 案の定、彼は頬を掻きながら予想通りの返事をした。


「ハハハ、昨日ぼかした返事をしたので、気にさせてしまいましたかね、すみません。いや実は、私は自分の出身地について自信が無くて。だから、オリジナルと言うべきかどうか悩んだんですよ」

「出身地に自信が無い、とは?」

「私は……()()()()()()()()()()()。幻葬市で捨てられていたところを発見されて、そのまま施設で育ったんです。だから、自分がオリジナルと言えるのか分からないと言いますか」


 想定内だった彼の解答を受けて、僕はしっかりと頷く。

 大方、こんなところだろうとは思っていた。

 今の時代で出身地を誤魔化す理由は、大抵これである。


 ただしこれを予測していなかったらしい終夜は、隣で言葉に詰まっていた。

 彼女の様子を横目で見ながら、僕はすかさず頭を下げる。


「……申し訳ありません。デリケートなことを答えさせてしまって」

「いえいえ、構いませんよ。まあとにかく、返答を躊躇った理由はそれだけです。もしかすると、私の親は『外』からわざわざ私を捨てに来たのかもしれませんから」

「確かにその場合、血筋的にはビジターになるかもしれません……ただ、あまり無いケースじゃないですか?」

「いえ、高校生の頃に乳児院でバイトをしていたんですが、『外』から運ばれた子どもは偶にいましたよ。幻葬市への立ち入りは厳しいチェックがあるので、珍しい例ではありますが。だからもしかしたら私も、と思って」


 初めて聞く情報に、僕は少し驚いて見せる。

 そんな僕の様子に苦笑しつつ、話せることはもう全部話したと思ったのか、守屋一はその場を立ち去ろうとした。。


 しかしそれを引き留めるように、今度は僕が右手を差し伸べた。

 一人目の時と同じく、握手をするために。


「ああ、これはご丁寧に……」


 慌てて振り返った彼は、何でもないように握手に応じる。

 即座に、僕はやや力を籠めて握った手を揺らした。

 その途端……守屋一の顔は、苦痛に歪む。


「……すいません、痛かったですか?」

「え、ええ。最近、ちょっと痛めてしまって」


 僕が気遣いの台詞を述べると、守屋一は照れたような顔になった。

 そのまま右手を押さえて立ち去るところもまた、一人目の容疑者と似たような振る舞いだった。




 守屋一へのリアクションを省略して、三人目の容疑者について語ろう。

 本郷キララの家にも、僕たちはすぐに出向いた。

 あっちこっち出向いたために、既に時刻は夕方近くになっていたけれど、「他の野次馬探偵をここに近づけさせないためにも、追加で聞きたい情報があって……」と述べると、彼女は渋々ながらボロアパートの一階にまで下りてくれた。


 僕は部屋の中や玄関前でも良いと言ったのだが、彼女の方からわざわざ移動したのである。

 手近なガードレールにどっかりと座った彼女を前に、僕たちは取り調べをすることになった。


 彼女に対して行ったこともまた、先の二人と同じ。

 終夜を介して昨日のことを聞き直した後、不明瞭だった部分を聞き直しただけである。

 まず、晶子さんの死体を見つかったコインロッカーから彼女の指紋が出てきたことをそれとなく伝えてみると、血相を変えてこう捲し立てられた。


「あたし、そんなのは知らないよ!そんな奥のコインロッカーを使ったことだってないし。何かの間違いじゃない?それか、ずっと前に何かの偶然であたしがそれに触ってて、それが今更出てきてるとか」


 首を高速で左右に振りながら、そうわめき散らす。

 これが真実か否かはさておき、頷いておかないと話が進みそうになかったので、僕は「そうですよね、何かの間違いですよね」と同意しておいた。


 続いて、Web会議で気になっていたことの質問。

 たかがペットボトル二本のために、わざわざコインロッカーを使用したのは何故か?


「いや、それはあ……そう言う気分の時ってあるじゃん?良いでしょ、別に。何?日本にはペットボトル二本のためにコインロッカーを使っちゃ駄目って法律でもあるワケ?」


 殆ど逆ギレの様相だったけれど、まあ一応正論ではある。

 どんな小さな物だろうが、使いたいならコインロッカーは使ってもよい。

 流石にこれ以上の追及は難しく、僕と終夜は引き下がらざるを得なかった。


 最早ルーティンと化した握手を最後にしたのは、終夜の方だった。

 怠そうな動きでそれに応じた本郷キララは、最初こそ普通に右手を差し出したものの────数秒後には、明確に眉根を寄せてしまう。


「どこか、痛めているんですか?」

「ああ、いや……肘とか腕とかがさ、ちょっと痛くて。最近、重い物を持つことが多いからさ」


 言い訳するようにそう言ってから、彼女はずかずかと足取り荒く立ち去っていく。

 物凄い速度で二階の一室に戻った彼女は、下にいても聞こえるくらい明確に、ガチャンと鍵を閉めるのだった。




「何か……全員痛がってたわね、右手首」


 時間が遅くなっていたので、本郷キララの家から帰る際にはタクシーを呼んだ。

 その車内で、終夜は改めて感想を述べる。

 タクシーの運転手に聞こえないように、かなりの小声ではあったけれど、どこか呆れたようなその雰囲気はバッチリと伝わった。


「何かもう、私たちへの嫌がらせで全員が口裏合わせてるんじゃないかって気すらしてくるわ。私たちが右手首の痛みについて調べようとした瞬間、全員がああ言うって……」


 推理がしにくくなった、と終夜がぼやく。

 しかし彼女の軽口に、僕は反応を返さなかった。

 タクシーの後部座席に座り、両肘を膝に置いたまま両手を口元に添え、じっと考え込んでいたから。


 僕の雰囲気を察したのか、終夜はすっと雑談を止める。

 そして、真剣な顔でこちらを覗き込んだ。


「アンタは何か、分かることがあった?」

「うん……まあ。ただ、晶子さんを殺した犯人のことじゃない。脇道というか……もう一つの謎が解けたというか」


 言葉を選びながら、僕は考えていたことを口にする。

 ここで僕が意見した内容によって、これ以降の終夜の推理の方向性が変わるかもしれないのだ。

 適当な発言は許されない────「日常の謎」を専攻とする探偵として、ベストを尽くさなければならない。


「終夜。多分この事件……羽生邸で起きた、あの事件とちょっと似てるよ。本題の謎の手前に、『日常の謎』が隠れていた。いやまあ、手前という言い方も本当は正しくないんだけど」


 三人の容疑者。

 僕たちを襲撃した人間の特徴。

 今日、改めて直に会った容疑者たちの様子。


 様々な情報を集めていくと、見えてくるものがある。

 本題の謎とは違う、脇道で発生している「日常の謎」。

 今日一日の中で、僕はその存在と真相に気がついたのだ。


「だから終夜……少し、僕の話を聞いて欲しい。この『日常の謎』は、僕が解きたい」


 そう言いながら、僕は小声でその推理を述べた。

 滔々と、流れるように。

 たった今、僕の中から見つけた真実を。


 真剣に話を聞いてくれた終夜は、僕が全てを語り終わってから、「私が聞いた限りでは、大きな破綻が無い推理だと思う」と評価してくれる。

 その上で、僕の意思について幾らか確認してから……迷うことなく、運転手にUターンを指示した。

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